訪問看護って何だろう?
前回は、介護保険サービス取得の流れから、訪問看護の内容についてご紹介しました。
前回の記事はこちらからお読みいただけます。
https://real-int.jp/articles/1108/
・知っているようで、知らなかった。
・どんなタイミングで介護保険を使えばいいのかわからない。
といった方の参考になれば幸いです。
訪問看護の職種紹介
今回は、訪問看護って具体的に何をしてくれるの?を説明します。まずは各職種の説明から。
看護師(nurse:NS)
健康状態の管理や医療処置を担います。具体的には、体温・血圧・脈拍などのバイタルサイン管理や服薬管理、主治医の指示に基づく点滴やたんの吸引、褥瘡の処置などを行います。訪問看護ステーションの責任者は看護師が務めます。
理学療法士(Physical Therapist:PT)
日常生活における起きる・立つ・歩く・食べる・座るといった、基本的な動作能力の回復を担います。具体的には、病気やケガで日常生活に支障をきたしているかたに対し、身体機能のリハビリテーションとして、運動療法や物理療法、筋力訓練や歩行訓練などを行っていきます。
作業療法士(Occupational Therapist:OT)
理学療法で回復した方、又は基本的動作能力に問題の無い方を対象とし、日常生活を営むうえでのあらゆる作業を通じて、応用動作の維持や改善、精神的ケアを担います。
言語聴覚士(Speech Therapist:ST)
言葉を使ったコミュニケーション全体(話す・聞く)の障害や嚥下障害などの回復を担います。具体的には、発声の仕方や飲み込み方などの指導・訓練を行います。補聴器の調整なども行います。
理学療法士(PT)の仕事内容
私は理学療法士ですので、PTについて私が実際の訪問先で行っている内容をご紹介したいと思います。
- 利用者様に合わせた理学療法技術提供
- セルフトレーニング指導
- 福祉用具の選定
- 環境整備
- コミュニケーション
- バイタルサインチェック
- 状態観察
- 服薬内容参照・管理
症状に合わせた服薬がきちんと行えていない場合は、薬の役割や服薬のタイミングを説明・指導も行います。 - 血液データ参照
- 食事内容の聴取・アドバイス
- 多種職連携
訪問看護ステーションの看護師や作業療法士、他の理学療法士とは勿論のこと、ケアマネージャーや主治医、ご家族へ、密にご利用者様の状態や変化、会話の中で気づいたことなどを情報発信しています。 - 他サービスへのいざない
ご利用者様に必要な場合は、看護師へ繋いだり、デイサービスやショートステイなどへ誘います。
日常生活を送るためには、その方の体が資本ですので、まず体を整えるために、食事や服薬もアドバイスしたり、心理的な面もじっくり傾聴することを心掛けている。ということですね。その上に理学療法の技術を提供することで、日常生活を送る上での動作がしやすくなると考えています。
具体例のご紹介
Case1:20数年前から脊柱菅狭窄症に悩まされていたHさん(70代男性)
奥様とマンションで二人暮らし。ゴルフや遠方への外食、奥様との海外旅行などアクティブに過ごしていましたが、痛みに耐えかね手術。術後、病院内で介護保険申請をし、退院直後から自宅での理学療法がスタート。初回介入時はどうにか歩行器でお部屋間を移動し、ダイニングでは車椅子で過ごされていましたが、痛みに耐えかね、早期に昼夜ベッド臥床で過ごすようになりました。
とにかく痛みに敏感な方でしたので、理学療法はコンディショニングからスタート。凝り固まった箇所をストレッチし、等尺性収縮により筋収縮を入力。排便状況や服薬状況を聴取しながら、主治医へHさんの疼痛程度や日常生活の現状をお手紙にしたため報告。その後、鎮痛剤が痛みの性質に合わせて変更されるようになりました。
また、信頼している主治医からHさん本人に、疼痛の原因や手術の効果・予後などを詳しく説明され、それも安心材料になった様子。痛みを受け入れられるようになりました。
その後、筋力訓練や湯船の中で浮力を利用したセルフトレーニングにも積極的に取り組まれるようになり、まずお部屋間の移動が歩行器を使わずとも壁伝いに歩けるように。次に福祉用具でレンタルしていた車椅子を返却。とうとう歩行器も返却し、お部屋間の移動は独歩、屋外では杖を使うことで階段の昇り降りも可能となりました。
治ったらやりたいこととして、奥様とスーパーへ食材を買いに行き、料理をすることと仰っておられましたが、外出できるようになったことで、「スーパーで自分の目で食材を選んで、家で料理することができたんだよ。」と笑顔で報告いただきました。
目標は達成し、持続可能と判断したため、訪問でのリハビリは終了しました。先日、奥様よりお電話があり、今でもHさんが作ったお料理で奥様とお酒を楽しまれているそうです。痛みのあまり床に伏せるHさんを、ベッドサイドの右から奥様、左から私が、身を乗り出し説得したことも懐かしく思い出されます。
私は訪問というスタイルが楽しく、肌に合っています。なぜなら、単に理学療法技術を提供するに留まらないからです。
その方が実際に生活している場所へお邪魔し、実生活に基づいて”何が必要か”を見極め、時には医学的見地から、時には経験則から、ご本人やご家族と都度話し合いながら進めていき、結果、介入当時よりもより良い生活を送っていただくことができる一助となれるからです。
WHOの健康の定義
「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。到達しうる最高度の健康を享受することは、すべての人類の基本的権利の一つであって、人種や宗教、政治的信念、経済的、社会的条件によって変わるものではない。」
WHOの健康の定義では、健康が心身の状態だけでなく、社会的状態でもあるということ、また、それは基本的権利としていかなる条件下においても守らなければならないとされています。
専門職の中には、技術を提供することで自己満足に陥っている者も多数います。しかし、あくまでも人間対人間であることを忘れず、「その方にとっての人間らしい生活」を目的にしたリハビリをすることが何よりも大切な心構えだと考えます。
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