イールドカーブ米景気後退を示す
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銀行のディーリングルームでは、金利の動向をすごく気にします。金利は、社会を見たり、為替を見たり、金融市場を知る上で健全度を測る体温計のようなものだからです。
特に長短金利差は、現在の状態、または将来の景気の行方を鮮明に映し出します。
金利の決まり方
よく扱われるのは、短期金利と長期金利です。
短期金利
おおむね2年、最長で5年位までのこと。
中央銀行の金融政策にほぼ左右される。
長期金利
10年物国債の利回りが長期金利の代表的な指標。
決定要因はこの先の経済情勢等。それらを織り込みながら、ゆっくり適正な水準に収れんしていく。
長期金利は特に、整合的な式である程度計算することができます。
整合的な金利水準=潜在成長率+予想物価上昇率+リスクプレミアム
潜在成長率とは
中長期で持続可能な成長率のことで、国の経済力をきれいに反映します。新興国では人口がたくさん増えていて経済活動のパイが増えているので潜在成長率は高いです。
よく潜在成長率と比較対象する言葉のひとつに「自然利子率」という言葉があります。
自然利子率=潜在成長率+人口増加率
潜在成長率に人口増加率を足したものが自然利子率となります。中国やインドのように爆発的に人口が増えなければ、人口の増加率はほぼゼロとカウントして大丈夫なので、自然利子率と潜在成長率はほぼ同じと考えてよいです。
米国の潜在成長率
これは米国の1960年からの潜在成長率で、見ると分かるように下がっています。成熟した国は、他の国でも同じような状態で2%ぐらいが巡行速度となっていますが、ここには理由があります。
潜在成長率低下の主な要因
- ベビーブーマー世代の引退
- 迫る人口減、日本化
- 生産性の低下
- 経済構造の変化、マインドの変化
- 貧富の拡大
- 頭脳の偏り、偏在
潜在成長率の低下は金利にも影響
イールドカーブ 順イールド
これはイールドカーブ(金利曲線)と言われるものです。
縦軸…利回り(金利)
横軸…期間
長期に行くほど金利は立ち上がっている状態で、右肩上がりの線になります。このことを「順イールド」と言います。
なぜ長期に行くと金利が高いかというと色々な理由があります。
まず借り手は、長期に行くに従って同じ返済能力は持っていません。個人がお金を借りる場合、年齢が高齢化する、自分の仕事が定年を迎えることによって返済能力が落ちてきます。
同じ返済能力を有していないので、この場合だと銀行は貸し手と借り手のリスクバランスを均衡するために金利を高く設定しています。
国がお金を借りる国債の場合も同じです。例えば世界の機関投資家や生命保険会社、国のお金を運用するソブリンウェルスファンドなどに国債を買ってもらう時にも、長期の部分に関しては高い金利を提示しなければなりません。
その国がこの先も高い信用が続く保証もないので、投資家もリスクを取らなければいけないわけです。
ロールダウン効果
お金を運用する機関投資家が債券運用をするとします。こうした順イールドの状態で、例えば30年国債を買う20年国債を買い、 1年経過すると債券の金利は手前に行くに従って下がってきます。
下がってくるというのは、買った債券が値上がりして評価益が出てきているということです。ということは、どこの年限を買っても必ず翌年そして翌々年には評価益になるので、こうした順イールドのもとではどの年限を買っても全員が勝者になれます。
ただそう簡単にはいきません。これは経済状態の変化から利上げが発生してくると、このどこかに変調をきたしてきます。
イールドカーブ スティープニング
景気が加速していくと長期金利が上昇していきます。金利が高くなっても、景気が加速しているので金利の負担に耐えられる状態です。結果的にイールドカーブが立ってくる、このことを「スティープニング」と言います。
イールドカーブ フラットニング
ただこうした状態を放置しておくと景気が加熱するので、今度は中央銀行は利上げをしていきます。利上げをすると短期金利は上がるのですが、長期金利は将来の景気減速を織り込んで下がり、長期と短期の差が大きく縮小していきます。
イールドカーブ自体が平らになる「フラットニング」という状態になり、こうなってくると先ほどの債券運用があまり美味しくない状況になります。
イールドカーブ 逆イールド
この状態で引き締めがさらに進んでくると、長期と短期の金利が逆転をして「逆イールド」という状態が発生します。
これが非常に重要で、景気後退の前兆なのです。
●順イールド 正常な状態
短期の金利が低く、長期に行くほど金利が高い状況。
↓
●スティープニング 景気加速時
景気が加速、長期金利が上昇。
イールドカーブが立ってきて、長短金利差が拡大。
↓
●フラットニング 景気拡大末期
利上げをすると短期金利は上がるが、長期金利は将来の景気減速を織り込んで下がり、長短金利差が縮小。
イールドカーブが平らになってくる状態。
↓
●逆イールド 景気後退期
金融引き締めが進み、長期と短期の金利が逆転する状況。
逆イールドの発生は景気後退の前兆
米国の長短金利差 1960年以降
米国の長短金利差、10年から2年を引いたものです。
今回のこのコロナ後の景気拡大の局面は、潜在成長率自体が低いので、長期金利が思ったように上がらないで短期金利だけが上がっています。そして結果的に長短金利差が大幅に縮小してきています。
逆イールドが発生した後、だいたい半年から1年半後ぐらいには景気後退、リセッションが来ます。リセッションというのは明確な定義はありませんが、 世界でいうのは2四半期連続でマイナス成長が続くとリセッション、つまり景気後退の認定ということになっています。
過去にも長短金利差の縮小は大きな景気後退を招いてきたので、いま懸念している材料のひとつです。1990年以降で見てみると、3回逆イールドが発生した時期がありました。
2000年は逆イールドの後にITバブルの崩壊や同時多発テロがあり、景気が落ち込みました。
2006年にも逆イールドが発生、この後には金融危機を招いたリーマンショックが来ました。
2019年はトランプ大統領が中国と貿易摩擦をガリガリやって、8月下旬に逆イールドが発生。この時は皆が身構えていたら半年後にコロナショックが来ました。
かつて、逆イールドが発生する前には、だいたい長短金利差が2.5%を超える水準まで拡大をしていました。しかし今回のコロナ後で今までと違うのは、両者の格差が1.5%ぐらいでピークアウトしていることです。その後、長短金利差が縮小し、今は0.4%(40bp)まで縮小しています。
この先、米国が利上げをして長短金利差が拡大して成長するかというと、そのような結果になる可能性はかなり低いと思います。
長期の金利が上がるのは将来的に景気がいいだろうという思惑なので、景気が将来良くなさそうだということになれば、どんどん長期金利が下がって、長短金利も逆転しやすくなります。
年明けから米国では利上げの織り込みが急加速して、さらに金利が上がりドル買いかと騒いでいますが、その割にはドル円は116.35円までとたいして上がっていません。
それは長期金利が思ったより上がらない、一方で短期金利の上昇が速いので、利上げ後に経済が耐えられずリセッション入りするのではないかというのが見えてきているからです。
直近の米国の長短金利差
直近の長短金利差のみを見てもよく分かります。
2020年に入って、コロナショック後に両者の関係は0.2%(20bp)を割るぐらいまで縮小しました。
その後は短期金利を下げた影響と、この先コロナが収束すれば経済が拡大するだろうということで、ちょうど1年前ぐらいに両者の格差は大きく拡大して1.6%(160bp)まで拡大しましたが、その後は見事に低下する一方です。
今までは利上げ局面になると、まずは一旦長短金利差は拡大する傾向だったのですが、今回は拡大するどころか縮小し始めています。実はコロナ後の景気回復は短命ではないかという見通しが出てきているのです。皆さん金利はあまり見ていないと思いますが、これを見ると怖いぐらいになるでしょう。
日本では日経平均株価30000円に乗りましたが、ガソリン価格は上昇、賃金は上がっておらず、景気回復の恩恵を受けていません。
海外では給料が上がっていますが物価も上がっているので、実質的な賃金はおそらく減ってると考えられます。恩恵を受けているのは一部の富裕層だけで、資産効果で株が上がった、不動産上がったで潤っているぐらいでしょう。
全体として見ると購買力が低下しているので、個人消費が落ち込み、景気回復どころか後退が思ったより早く来るのではないかと思います。
またコロナにより、量的緩和や現金ばらまきを続けていましたが、それは需要を先食いして爆発的な景気回復になっただけです。そのばらまきが減って金利を上げることになると、その前の水準をも下回ってくるという事態になります。需要の減退と金利負担を招くので大丈夫かなと思ってしまいます。
金利に興味をもって見ている人は少ないと思いますが、投資・トレードをする上では必ず見ておくべきものだと思いますので、ぜひ意識して見ていただくとよいと思います。
まとめ
●金利や金利差は景気の循環で決まる
●長短金利差は現在の状態、または将来の景気の行方を鮮明に映し出す
●米国の逆イールドの発生や景気後退の到来は想定外に早い
●コロナ後の経済過熱は長続きしない