日米経済状況の違い鮮明に
オミクロン株とインフレが世界経済の減速要因
世界経済の拡大基調は続いているが、拡大テンポは鈍化している。
IMFの世界経済見通しによれば、世界経済の2022年成長率は4.4%と前回10月見通し(4.9%)から下方修正され、21年の5.9%から減速する見込みである。さらに、IMFは23年予想について3.8%と一段の減速を見込んでいる。
成長減速の原因は、第一に、オミクロン株の感染拡大だ。オミクロン株は、以前のデルタ株に比べると感染した場合の重症化リスクが低いが、感染力が非常に強く、エッセンシャルワーカーなどの欠勤が増加し、社会インフラが脆弱化する懸念が高まった。
このため、各国は行動制限などの措置を講じている。ワクチンのブースター接種などによって感染者数がピークアウトし、行動制限措置が緩和されている地域もあるが、まだそうでない地域もある。
もう一つの成長減速の原因はインフレだ。インフレ見通しについては、前回昨年10月のIMF経済見通しでは「インフレ率の上昇はこの後数か月間続き、2022年半ばにはパンデミック前の水準に戻る可能性が高い」と予測していた。
しかし、今回の1月見通しでは「目下のサプライチェーンの混乱と高水準のエネルギー価格が2022年にも継続することから、高インフレは10月予想よりも長引く」と述べている。
ただ、このインフレの状況はIMFが予想するより悪いのではないかと思われる。IMFが言う「サプライチェーンの混乱」の「混乱」という言葉には、暗に、時間が経てば、あるいは感染が収束すれば改善するのではないか、という期待があるように思われる。
しかし、実際に起きている供給制約やインフレ要因は、以下の通り、時間が経てば消えてなくなるような一時的な「混乱」ではない。
(1)保護主義化を背景とする移民の減少や感染拡大に伴う高齢者の早期退職増加などのために、米国や英国などで労働力不足が強まっている。
(2)先端半導体産業は巨額な投資資金を必要とするため新規参入の困難な産業になっており、台湾のTSMCなどによる寡占化で供給が制約され半導体不足が起きた。
また、流通面では米中摩擦激化により入手困難が起きた。
(3)財政面からのばらまきとそれをファイナンスした各国中銀の超金融緩和策によって、家計や企業などを含めた民間部門に過剰流動性(過剰なマネーサプライ)が発生した。
こうした過剰流動性は中央銀行の資産だけを減少させるQT(マネタリーベースの削減)だけではなくならない。
こうした点が、経済活動に不可欠である労働力や半導体を不足させ、また、金融面からのインフレを引き起こしている。複合的な要因によるインフレは簡単に収まるとは思えない。
中国のゼロコロナ政策は修正が必要に
日本はオミクロン対応で大幅に手遅れ
一方、オミクロン株とインフレは各地域の経済格差を拡大させる要因になっている。
米欧先進国はオミクロン株の拡大に当初、行動制限措置を実施し、その間にワクチン接種を進めた結果、感染者数は比較的早期に減少に転じた。米欧先進国では、この先、オミクロン株が経済に与える影響は次第に限定的なものになるとみられる。
感染力が強く、重症化リスクの小さいオミクロン株に対し、中国がとった政策は、従来通りの、感染を徹底的に抑え込むゼロコロナ政策だった。
中国では、当初、このゼロコロナ政策が奏功し、個人や企業などが感染を気にすることなく安心して社会経済活動を送ることができるようになったため、2020年4~6月以降急成長を遂げた。
しかし、感染力が強いが重症化リスクが小さいオミクロン株への対応として、ゼロコロナ政策を続けることは、あちこちで頻繁に起きる軽度の感染例に対し、その都度、全面的なロックダウン措置が実施されることになる。感染リスクを過剰に懸念して経済活動を過剰に抑制することになりかねない。
2月の北京五輪、3月の全人代といったイベントが続くなか、
習近平政権としては、当面ゼロコロナ政策を維持する必要があるが、これまで同様の強い規制が続けられた場合、それが経済成長を鈍化させる可能性が強い。ゼロコロナ政策については修正が必要になるだろう。
他方、日本はワクチン接種で大きく遅れをとってしまった。昨年夏のデルタ株感染者が明らかに減少し始めたのは、ワクチン接種率が5割程度まで上昇したあとだった。
今回、日本がブースター接種で5割程度になるのは、岸田首相の目標通り、2月末までに一日100万回に達し、3月以降もそのペースが続いたとしても、早くて3月下旬になる。
それまでは高水準な新規感染者が続くおそれがあり、緊急事態宣言などが発出されなくても、しばらくは自粛ムードが高まりそうだ。
米国のインフレに対しては強力な金融引き締めでの対応が不可欠に
原油、食糧など資源価格の高騰がコスト面から各国の物価を押し上げ、半導体不足が電機、自動車などの産業に悪影響を及ぼす点についても、どこもほとんど同じだ。
ただ、地域によってインフレの動向に違いが出ているのは、資源価格以外の要因が作用しているためだ。
米国ではトランプ政権の不法移民排除策、パンデミック後の検疫厳格化により移民が減少した。
また、他の先進国同様、米国でも、高齢化に伴い非労働力人口がもともと増加傾向を続けていたが、コロナショック後、感染を恐れた高齢者の早期退職で非労働力人口は一気に急増し、その後も高止まりを続けた(図1参照)。
景気がコロナショックから急回復するなかで企業の求人が増加し雇用も増加したが、こうして非労働力人口が高止まるなか、労働力人口は思ったほど増加しなかった。
その結果、労働需給が逼迫し、失業率低下とともに賃金が急上昇している。資源価格高騰によるコストプッシュインフレに加えて、賃金も上昇すれば、インフレは一時的なものとはいえなくなる。
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2022/02/14の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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