インフレ目標値2%は妥当?
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インフレ・ターゲット
https://real-int.jp/articles/1129/
わが国でも日本銀行が2013年1月から2%の目標値を置いていて、現在他の主要国のインフレ・ターゲットも概ね2%となっていることは既報の通りですが、以下で歴史的な視点からこの2%について考察してみます。
先進各国が緩やかなインフレを志向する背景には、近代史上多くの国がそれぞれのタイミングで経験したハイパーインフレの苦い経験から、高いインフレ率は甚大な経済的混乱をもたらすものと言う認識が共有されているからに他ならないのですが、では2%は本当に妥当な数字なのでしょうか。
筆者がこの課題を探求する過程で一冊の興味深い本と出合いました。
1981年に出版された「A Perspective of Wages and Prices」と言う書籍です。
イギリスの経済学者であるHenry Phelps Brown氏とSheila V. Hopkins氏の共著で、13世紀中盤から20世紀中盤の約7世紀にわたるイギリスの労働者の賃金と食品を含む消費財の価格の動きを分析しています。
かなり、昔の本ですが700年の長期にわたり当時の賃金や物価の動きを指数化しているという点で、他に例を見ない貴重な文献だと思われます。
また、研究の対象が中世後期から現代にかけて比較的政治的に安定していた地域であることと、経済的にも中央銀行であるイングランド銀行が他の先進国に先駆けて1694年に設立された金融先進国であったことも鑑みると、調査の対象となったデータそのものの信頼性が高いことが想定されます。
ここで筆者が非常に関心を惹かれた本書中のグラフを以下に掲載します。
これは1264年から1954年のイギリス南部の消費財価格を指数化したグラフですが、西暦1300年から1900年までの600年間での価格上昇が10倍程度で非常に物価が安定していたことが分かります。600年間で10倍を、600年間の平均上昇率に直すと0.385%程度です。
ここで問題です。
2022年現在先進主要国が目指しているインフレ率2%が、仮に600年間継続した場合、600年後に物価は何倍になるでしょうか。
答えは14.4万倍です。
すなわち、このグラフの横軸を右側にあと700年程度伸ばして2倍にした場合、縦軸のメモリがどうなるかと言うと、仮に2022年現在の指数が5000であったとしても600年後にはその14万倍の7億を超えるメモリが必要となります。
縦軸は対数表示になっていますのでこの図の14万倍の縦軸にはなりませんがそれでもかなり上に突き抜けたグラフになりそうです。
そして、頭書の疑問です。
あくまでもイギリスの歴史と照らし合わせてみた場合ではありますが、はたして、現在当たり前となっているインフレ・ターゲットの目標値である2%はそのままで大丈夫なのかと。
皆さんはどう考えますか。