どうしてその場所に出店しているのか?
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
高校の政治・経済の授業で出された問題
問題−1
ここにある海水浴場があります。海水浴場は東西約500メートルくらいの長さに広がっています。砂浜の上を端から端まで徒歩10分程度で歩ける距離になります。この海水浴場は交通の便の悪い場所にあり、あまり人に知られていないため、それほどお客さんがたくさんは来ません。
海水浴場のほぼ真ん中に1軒だけ海の家、ウミネコ亭が出店していて海水浴客の多くがこのお店で食事をしたりシャワーを浴びたり休憩したりと利用しています。ただし、お客さん全体がそれほど多くないので混みあうこともなくほどほどに繁盛している状態です。
さて、あなたはこの海水浴場が今後はもっと人気になることを考えて、ここに海の家、イルカ亭を出店することにしました。そこで役所に出店の許可の申請をしに行きました。役所では今年は1軒だけ出店を許可するので出店場所としてA,B,Cの中から選ぶように言われました。
・Aは既存店ウミネコ亭の真横です。つまりこれからライバルになるお店のすぐ隣に開店することになります。
・Bは海水浴場の中央と東端のほぼ真ん中です。ウミネコ亭からの距離をとります。
・Cは海水浴場の東端です。ウミネコ亭からは一番遠い位置になります。
この3ヶ所の中であなたがイルカ亭を出店するべき最適な位置はどこでしょうか?
この続きを読む前に少し考えてみてください。
最適な場所とは?
高校の時の授業ではBの意見が多かったように記憶しています。その頃の私もBが良いのではないかと思いました。
・Aは既存のライバル店の隣にいわゆる「なぐりこみ」をかけるわけで、ウミネコ亭からは良く思われない。そして競争が激しくなる。
・しかしCではあまりにも端すぎてお客さんがあまり来ないかもしれない。
・なので、中間をとってBが正解。ここならウミネコ亭からそれほど敵視されることもなく競争も激化せず、中心から東側半分のお客さんに来てもらえるので、ほどほどにちょうどよい位置だろう。
というわけです。
しかし、先生から示された正解は、なんとAでした。これにはみんな驚きました。
どうしてライバル店の隣が一番良いのでしょうか?これも少し考えてみてください。
まず、現時点では海の家はウミネコ亭しかなく、しかも海水浴場の中心にあるので、海水浴場の東から西まで全ての範囲からウミネコ亭にお客さんが来てくれる状態になっています。
そこで新たにイルカ亭を出店した場合、
・Cに出店した場合は、イルカ亭に来てくれるのは海水浴場の東端のほうのお客さんがほとんどで、わざわざ西端から暑い夏の砂浜を歩いて来てくれるお客さんはほとんどいないことでしょう。また東側の中でも中心に近い方のお客さんはイルカ亭と比べてウミネコ亭を選ぶ可能性があります。
・Bに出店した場合は、海水浴場の東半分のお客さんの多くは来てくれそうですが、ウミネコ亭のお客さんの範囲と重なる部分も多いので、東側のお客さん全てが来てくれるわけではありません。ウミネコ亭に行ってしまうお客さんも多そうです。
・Aに出店した場合は、イルカ亭はウミネコ亭と同じく、海水浴場の東端から西端まで全ての範囲の人をお客さんにすることができます。海水浴客からしてみたら海水浴場の中心に行けば二つのお店を比べてみて好きなほうを選べばよいという選択肢が広がることになります。あとはあなたの努力次第でウミネコ亭に勝る魅力のあるお店にしていくことで、この競争に勝てる可能性が出てきます。お店が二つになって便利になれば他の海水浴場からここに移ってくる新たなお客さんも増えて、両方のお店が繁盛する可能性もあります。
というわけで、正解は Aでした。
実際、海水浴場に行ってみると他に広い場所がたくさん空いているにも関わらず、同じような場所に海の家が固まっているのを目にすることがあると思います。
このように商売の対象である範囲のことを商圏と言います。この問題では海水浴場という限定された範囲での商圏の話でしたが、次の問題では少し範囲を広げて町の中、生活圏と重なる場合でみましょう。
町の中では?ドラッグストアのケース
問題−2
あなたはあるドラッグストアチェーンに勤めていて新規出店を計画する部門の責任者です。そこである町にあなたが新たにお店を出す業務命令を出されました。この町のほぼ中央には既にライバルのチェーン店が出店しています。
大きな通りの交差する交差点の角地です。新たに出店できそうな場所を調べてみるとA,B,Cの三ヶ所は古くからの商店が最近閉店したことが分かりました。土地を買収または土地を借りて古いお店を取り壊し、新たにドラッグストアを作ることができそうです。
どの場所が良いでしょうか?
これは、問題−1をやったあとなので簡単ですね。
そう、正解はA、ライバル店の斜め向かい側がベストな出店場所になります。この場所が町全体の人にお客さんとして来てもらえる場所となります。つまり商圏はライバル店と同じになります。
このような場所は読者のみなさんの近くにもあるのではないでしょうか?実際私が以前勤めていた学校のあった町でも交差点の角にあった既存のドラッグストアの斜め向かい側に新たにドラッグストアが出来て驚いた事がありました。
ご近所でも「なぜわざわざライバル店のすぐ近くに建てるだろう?」と不思議に思った方が多かったと聞きましたが、それは上記のような訳なのですね。この問題の図のように極端なケースではなくても、すでにある程度大きなドラッグストアチェーンのお店があるすぐ近くに、別のドラッグストアチェーンのお店が新しくオープンするということは良くあります。
認知してもらうということ
問題−1のように他に何もない見通しの良いところでは、砂浜に2軒の海の家があると誰にもわかりますが、住宅街の中では建物のために見通しが効かずそもそも存在に気付いてもらえない可能性があります。
しかし、あるドラッグストアに行こうと思ったお客さんが、すぐ近くに別のドラッグストアがあれば存在に気付いてもらえるでしょう。お店にたくさんのお客さんを呼び込むためにはそもそも存在に気付いてもらうことが第一なので、その意味から言ってもライバル店の近くに出店することは有効です。
ちなみに、お店の存在を知ったきっかけについて調べたある調査によると、圧倒的に一番多かったのは「直接お店を見たので知った」ということでした。お店を知ってもらいやすくなる、つまり「認知されやすい」ということもお店を出す場所を考える上でとても大事です。
立地条件について考えてみよう
お店の最適な立地条件について、今回は「商圏」、「認知」について紹介しました。立地条件については他にも様々な要因がありますし、業種によっても違ってきます。今回紹介できたのはそのごく一部に過ぎません。
町でいろいろなお店を見かけたら、そのお店はどうしてそこで開業したのか?どのような立地条件に基づいているのか?ということを考えてみると良いと思います。自分の住んでいる町、仕事や通学先の町、その途中で通る町など、いろいろな町での商売の成り立ちについて理解をすすめるきっかけになると思います。