「供給制約」の正体は?

米国西海岸のコンテナ港が混雑しているのは
米国の対中輸入が急増したからではない
IMFは10月の経済見通しで世界の成長率見通しを7月時点の6.0%から5.9%に引き下げた。
下方修正の原因について、IMFは「供給網の混乱による先進国の見通し下方修正とデルタ株の感染拡大による途上国の見通し下方修正」と述べている。
「供給網の混乱」という言葉で多くの人が連想するのは、米国西海岸のコンテナ港の混雑だろう。ロサンゼルス港やロングビーチ港では、クリスマス商戦向けの貨物が中国から続々と到着し、「輸入急増と港の荷役労働者不足」により、コンテナ港が史上最悪の混雑に直面していると言われている。
ただ、米国側の通関統計をみると、中国からの輸入が処理できないほど極端に増えているわけではない。
直近8月の対中輸入金額は430億ドルで、米中摩擦激化で対中輸入が減少した19年8月の411億ドル、パンデミック下の20年8月の408億ドルに比べると多いが、18年8月の479億ドルに比べると少ない。月間過去最高の対中輸入額は18年9月の500億ドルだった。
言われているような「輸入急増」は、コンテナ滞留の主因ではないだろう。
ロサンゼルス港とロングビーチ港は10月25日、ターミナルでの輸入コンテナの滞留を早期に解消するため、海上輸送業者に対し、11月1日から追加料金を課する方針を発表した。
わざと滞留がなされているのであれば別だが、仕方なくそうなっているのであれば、罰金は状況を悪化させるだけだろう。
供給網の「混乱」という言葉には、暗に、ここで滞留するコンテナが片付けば供給網は元通りになるという見方がある。供給制約と言われている問題は一時的なものであり、早晩解決できるのではないかという期待がある。
実際、IMFは、米国や一部の新興市場国で急上昇したインフレについて、上振れリスクがあるとしながらも、2022年半ばにはパンデミック前の水準に戻る可能性が高いと予測する。
各国中央銀行の見通しも「物価上昇は一時的」というものだ。IMFや中央銀行のこうした予想にも、暗に供給面の問題は、早晩、改善方向に向かうという見方があるように思える。
潜在GDPは下振れした可能性が大
では、本当に、今起きている供給面の問題は、滞留するコンテナを片付けるといった簡単なものなのか。
2021年に入って起きた問題は半導体不足、労働力不足、エネルギー価格の高騰など経済活動に欠かせない生産要素や原材料・エネルギーなどが不足状態になり、それらの価格が上昇するという事態だ。
通常、経済全体が不足状態か余剰状態かをみる場合、潜在的な供給能力を意味する潜在GDPと実際のGDPとの乖離率である需給ギャップで判断する。
インフレ懸念の強まっている米国の場合、この需給ギャップはどうなっているのか。
2021年7~9月の米国の実質GDPは前期比0.6%の伸びにとどまったが、コロナショック前の19年10~12月の水準を1.3%上回った。
一方、CBO(米議会予算局)によれば、米国の潜在GDPの成長率は年率1.9%程度であるため、需給ギャップは、19年後半に比べむしろ拡大していることになる。
この計算通り、需給ギャップが拡大しているとすれば、経済全体としては、不足というより余剰が発生していいはずだったが、実際にあちこちで起きていることは余剰ではなく不足だ。
これは、潜在GDPがCBO推計で示されている、これまでのトレンド(年率1.9%程度の成長トレンド)通りに増加していないことを示唆する。
大きな経済ショックが供給面の問題も起こすというのは、珍しいことではない。
過去40年にわたる23の先進国の景気後退局面後の経済状況を調べた、2015年のFRBエコノミストの実証研究によれば以下のように述べている。
「景気後退によってGDPが減少し、需給ギャップは拡大するが、その後の需給ギャップは、GDPが潜在GDPに向かって急増することによって縮小するわけではなく、潜在GDPの下振れという形で縮小する」
また、インフレについては、同研究によれば以下のように述べている。
「GDPの回復ペースが思ったほどでないため、多くのエコノミストは需給ギャップが縮小せず供給過剰状態が続いていると考えてインフレ率を過少予測することが多いが、実は、潜在GDPの下振れによって、真の需給ギャップは縮小しており、インフレ率が思ったより高いということが起こる」
現在起きていることは、まさに、この研究で述べられた過去の事例と同じだ。
労働力不足の原因は移民減少と早期退職者増加
米国の労働力不足については、今も変わらない。求人数は高水準であり、にもかかわらず、実際に就職する人の数は増えていない。
労働力不足は、失業保険給付の上乗せ措置が原因だと言われていたが違っていた。9月初めに同措置がなくなっても、労働力人口や雇用者数は増えなかった。
今となっては、労働力不足の原因は明らかだ。
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2021/11/02の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」をご覧ください。