ESG投資とは
ESG投資とは
ESG(イーエスジー)とは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取って作られた造語で簡単にいうと、持続可能な世界を実現するために、世の中の企業が環境にやさしい活動を推進するよう促していく動きです。
2005年初頭、コフィー・アナン国連事務総長(当時)が世界の大手機関投資家に参画を要請し、12か国の機関から選ばれた20名の投資家グループが、投資業界、政府間組織、市民社会の専門家70名の支援を受けて、2006年に「責任投資原則(Principles for Responsible Investment:PRI)」を策定しました。この責任投資原則(PRI)中で、投資判断の基準としてESGが登場したのが始まりです。
RPIはその後2021年3月末時点で、3,400以上の機関投資家が署名して、その運用資産総額は120兆米ドル以上となっています。
PRIの6つの原則
署名した機関投資家が同意した責任投資原則(PRI)は、以下の6つの原則から成り立っています。
1.私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込みます。
2.私たちは、活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESGの課題を組み入れます。
3.私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
4.私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるように働きかけを行います。
5.私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために、協議します。
6.私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告します。
ここで記載されているESGの課題とは例えば以下のようなことです。
Environment(環境):気候変動、温室効果ガスの排出、資源の枯渇、廃棄物及び汚染
Social(社会):労働条件、地域コミュニティ、健康及び安全、従業員関係及び多様性
Governance(ガバナンス):役員報酬、贈賄及び腐敗、取締役会・理事会の多様性および構成、税務戦略
即ち、機関投資家が投資判断の基準にESGを据えることにより、その結果ESGに積極的に取り組む企業を増やし、世界規模の環境問題・社会問題を解決することを目指しています。
ESG投資7つの手法
機関投資家によるESG投資は、以下の7種類の手法に分類されます。
ESG投資の種類
1.ネガティブ・スクリーニング
2.ポジティブ/ベスト・イン・クラス・スクリーニング
3.国際規範スクリーニング
4.ESGインテグレーション
5.サステナビリティ・テーマ投資
6.インパクト・コミュニティ投資
7.エンゲージメント/議決権行使
それぞれの投資判断基準は以下の通りです。
1.ネガティブ・スクリーニング(Negative/exclusionary screening)
「倫理的でないもの」や「環境破壊につながるもの」を除外する投資方法です。
具体的には、「武器」「たばこ」「ギャンブル」「原子力発電」「化石燃料」などの業種に属す企業を、投資対象から除外します。
2.ポジティブ・スクリーニング/ベスト・イン・クラス(Positive/best-in-classscreening)
ESGの評価が総合的に高い企業に投資する方法です。「ESGの評価が高い企業は、中長期的に高い業績が期待できる」という考えの下、ESG評価の高い企業に投資します。
3.国際規範スクリーニング(Norms-based screening)
ESGに関する国際的な規範を基に投資先を決める方法です。国際規範で定められた基準を満たしていない企業を、投資対象から除外します。
4.ESGインテグレーション(ESG integration)
財務状況を示すデータとESGに関する情報を総合的に判断し、投資先を決める方法です。投資の意思決定プロセスにおいて、ビジネスモデルや財務諸表の分析だけでなく、ESG分析も体系的に組み込む投資方法です。
5.サステナビリティ・テーマ投資(Sustainability-themed investing)
サステナビリティ(持続可能性)に関する特定のテーマをもつ企業・ファンドに投資する方法です。
テーマの例として、気候変動・食糧・農業・水資源・エネルギーなどがあります。
6.インパクト・コミュニティ投資(Impact/community investing)
環境や社会、コミュニティなどへ与えるインパクトの大きな活動を行う企業に投資する方法です。
従来の財務的リターンに加え、社会問題や環境問題の解決や地域開発などの社会的インパクトを目的とした投資です。
7.エンゲージメント/議決権行使(Corporate engagement and shareholderaction)
投資先との関わり方に関連した手法です。投資を行うだけでなく、株主としての立場から対話や議決権行使を通じて企業にESGを推進するように働きかけることを行います。
これらの内容を見て頂いて既にイメージされている方も多いと思いますが、数多くのESG投資案件を実行していく機関投資家としては、関連する情報収集と分析の為に相当な時間とコストをかける必要が発生する一方で、そのような投資案件には応募が殺到しますので、需給関係で同等の信用リスク等を持つ案件と比較して投資利回りが低下する傾向が出てきており、なかなか悩ましいです。
例えばESG投資をうたったファンドの購入を検討される個人投資家であれば、低下した利回りはそのまま自分の収益に反映されますので、一般的にそのような認識は必要だと思います。
一方で筆者が過去に関わった案件では、環境省が策定した「グリーンボンドガイドライン」の要件を満たす内容で発行された社債(この時は高速道路会社の発行社債)を購入することで、こういった投資家側で発生しうる手間を省くこともできたという経験もありますので、今後このような仕組みが充実していき、低コストのESG投資環境が整っていくことを期待したいです。
ということで、以上の投資基準は、機関投資家から資金調達を行う企業だけでなく、投資家としての個人レベルでも理解しておく必要があると考えます。
ESGとSDGsとの関係
最後にESGとSDGsとの関係についてです。
ESGと同様に最近よく耳にするのがSDGsですが、この二つは実は手段と目的の関係にあります。
SDGsという「目的」を実現するための「手段」がESGなのです。
SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略語で、「持続可能な開発目標」を意味します。
2015年9月の国連サミットにおいて採択され2030年までに「持続可能でより良い世界」の実現を目指すSDGsは、17個の目標および169のターゲットで構成されています。
SDGsの各目標はロゴになっており、ロゴそのものや、17のロゴの色を使ったバッジも普及しメディア上などで目にすることもだいぶ増えてきました。
SDGsの詳細はここでは割愛しますが、ESGとSDGsでは対象とする範囲も異なります。
ESGは「企業」や「投資家」が主体となりますが、SDGsでは「国」や「地方自治体」なども主体となります。
企業がESGに取り組むことにより、結果的にSDGsの実現につなげていく、すなわちSDGsという目的を実現するための手段の1つが、ESGだと理解すれば良いと思います。