デジタルアートのイノベーション 新しい価値の創造
アートは常識の否定の繰り返し
Real Intelligence(リアルインテリジェンス)のNFTの記事に書いたように、アートの歴史はイノベーションの繰り返しの歴史です。
ここでいうイノベーションとは従来の考え方の否定、つまり常識の否定です。アートの世界では常識の否定を繰り返してきたのです。
https://real-int.jp/articles/862/
今、アートの世界における新しいイノベーションが起きているように思います。
また、世界的にデザインの時代からアートの時代になり、アート志向・アート思考に移行しています。
アート志向とは部屋にアートを飾るというような単純なものではありません。
現在は価値の本質を理解するよい機会になっていると同時にクリエイターがクリエイターの意味と価値を理解する時、つまりクリエイターの本質を理解する時にもなっていると思います。
アニメアーティストの郷津春奈さんの個展
アニメは現代の日本文化として世界的に影響を与えています。アニメのキャラクターの細かい描写を手作業で描き、息を吹き込む生粋のアーティストであるアニメーター郷津春奈(ごうつ はるな)さんのデジタルアートの個展が10月15日~31日まで銀座で開催されています。
郷津春奈さんは、今注目されている鬼滅の刃のテレビ版無限列車編(公開完全オリジナルの第一話)の作画も担当し、 鬼滅の刃、エヴァンゲリオン、ポケモン、ワンピースなどのテイストを超えて描ける才能をお持ちです。アニメーターのトップアーティストといえるでしょう。
観る側が創る作品
今回の個展の作品の特徴は、
色がほとんど塗っておらず、
説明もありません。
アニメの原画的ですが、
少し動きます。
ある意味、半完成の状態なのです。
そして観る側が、残りの半分を創ります。
その作品の意味を考え、イマジネーションを広げてもらうことを意図しています。
実際に作品を観た人の感想は様々で、それぞれの世界観や個性で、作品の意味と価値が展開されていきます。
「観る者に考えさせ、イマジネーションを働かせるという価値を持つ作品」ということができます。
今までの常識を否定する、新しいイノベーションでもあるのでしょう。
デジタルアートと隕石の交換
郷津春奈さんと対談させていただいた時に「作品と隕石の交換」について、どう思うかと聞かれました。
子供が描いた絵は価値がないとされ値が付きません。
一方でゴッホなどの巨匠が描いた絵は高額で取引されます。価格差は極端に大きいです。
隕石も中国の砂漠に大小の隕石が大量に落ちている場所があるとされ、その隕石価格は安価です。
一方で007の映画「スペクター( Spectre )」に「人類が保有する最古の隕石」が、その隕石衝突でできたモロッコの砂漠のクレーターの中央の建物の中に飾ってあるシーンがあります。
同じ隕石でも、そのような隕石はとても高価なのでしょう。
隕石に高い市場価値がつくかどうかは学者のお墨付き次第です。
それぞれの価値と価格の関係は多様で一致するとは限りませんが、本人同士が納得できるのであれば交換はアリです。
価値について考えさせるきっかけになったのが、このデジタルアートと隕石の交換です。
映画007 スペクター( Spectre )より
映画007 スペクター( Spectre )より
価値の創造と価値の理解
今回の作品や対談では次のような視点がありました。
- 半完成で、観る者が半分を創っていくこと
- 半完成で、観る者にイマジネーションや思考を与えるという価値
- デジタルアートと隕石の物々交換(価値の交換)
- 社会は一体のもの
今回の個展は、価値についての理解を深めることが大切だということが示唆され、対談内容を中心に大切な価値の概要を簡単にまとめてみます。
物々交換から始まったわけではない
お金の教科書を見ると、お金の登場前は物々交換から始まったとされています。
しかし、物々交換は一部にはあったと思いますが、最初は与えあう経済だったと思います。
鮮度が落ちて腐ってきたら価値がなくなってしまう魚は、交換相手を見つけ続けるより人にあげた方が賢い選択です。
もらった人は後日、別のもので返すことができますし、回りまわって返ってくればいい、「与える者は与えられる」という原則を日々実感できたと思います。
アフリカの未開の村では、獲物が獲れると皆で平等に分けて皆、役割分担をして豊かに暮らしていました。
自分のモノという概念がなく、全てが皆のものという価値観で平和な社会を形成していました。
つまり、最初は財産を共有し共同生活するコミュニティーになっていたのだと思います。
これは私たちの本来の世界のイメージです。
ところが、町から商人が来て店を構えると、村人は獲物を平等に分け与えることをやめ、商人に売るようになりました。
売った代金として、お金(通貨)を受け取ることになりました。
お金はいつでも他のものと交換できるので便利です。
ここから、価値が社会全体の価値から個別の価値に代わっていくことになりました。
通貨は現在、暗号資産(仮想通貨)まで発展を遂げ、さらにブロックチェーンはNFTというデジタルアートに新しい価値を創りだすことになりました。
デジタルアートはコピーが簡単なので価値がないとされてきたものがブロックチェーン技術によって突然、価値が高騰したのです。
所有する価値と観る価値
私たちは作品を所有することを価値と考えますが、作品を観ることも価値です。
つまり、良質な作品は存在自体に価値があり、観る人に価値を与えるのです。
人も存在自体に価値があり、存在することで人に価値を与えることができます。
その人が部屋に入って来ると、それだけで部屋の空気が良い方向に変わるような、何をしなくても存在だけで価値があるというのが、本来の私たちの姿です。
私たち一人ひとりが存在だけで価値があるクリエイターだからです。
クリエイターが価値を創造する
クリエイター(CREATOR)という英語の語源には、いわゆる日本で言われるクリエイターという意味だけでなく、創造主という意味もあります。
それくらい価値を創造することは、本質的に素晴らしいことです。
クリエイターは存在するだけで価値があり、世の中を本質的に良くする作品を創造することができます。
単純に素晴らしい作品を創る職人ということではなく、その良いものを拡大することまで含めてクリエイターの仕事です。
そしてクリエイターが創り出す作品も存在するだけで価値があるのです。
価値観が人生を決める
飛行機でファーストクラスに乗る人と、ビジネスクラスに乗る人では、品格がだいぶ違うことが多いとキャビンアテンダントがいうそうです。
ファーストクラスに乗る人は、紳士的で低姿勢だけれども、ビジネスクラスに乗る人のは、ブランド名が大きく書いてあるもので身を包み、横柄な人が比較的多い傾向があるそうです。
この差は価値観からきています。
ファーストクラスに乗る人は、しっかり自分の価値観を持っていますが、ビジネスクラスの人だと自分の価値観がない、他人の価値観で生きている人が多いといえそうです。
これ見よがしなブランド品が好きな嗜好は、無意識ですが自分の価値観ではなく、他人の価値観に合わせているのだと思います。
価値観で一番大切なことは自分に対する価値観です。
・愛されている
・存在だけで価値がある
・世の中を本質的に良くするという素晴らしい目的がある
自分に対して、この3つの価値観を持っていることだけで、生き方、人生は良い方向に大きく変わります。
クリエイターの使命
クリエイターの使命は、この3つの価値観を伝えることが大切な要素になります。
グレイテストショーマン(The Greatest Showman)という映画があります。多くの制作費と労力を使って見栄えがする好作品に仕上げましたが肝心な作品のメッセージの価値性が乏しいために作品の価値が限定的になっていると感じています。もったいないのです。
3つの価値観のうち一つだけでもメッセージ性を取り込むことができれば作品の価値を大きく上げることになります。
なぜならば、観る人の価値観が良い方向に変革することで、観る人自身の価値が上昇するからです。
観る人の価値を高める作品は価値がある作品です。
興味深いことに、これらの一番大切な価値を意識して創られた作品は、絵画・映画・音楽・書籍・絵本など全ての分野で極めて少ないのです。
一番大切な価値について、ほとんど全ての人が見逃しているということは、反対に見れば大きなチャンスだということです。
社会は価値を共有する
社会は一体のものなので、価値を共有することで価値はどんどん拡大します。
意識をしていなくても社会は一つの生命体のようなものです。たとえば、戦争で男性が大量に死んでしまうと、その国では男の子が多く生まれるそうです。
これは、国や世界レベルで社会は一体であると考えることができます。
郷津春奈さんの今後の作品は、これを表現されたいそうです。
価値について考える時
価値について書いていくと本が一冊できるほど深い内容になるのですが、今回の対談内容から価値についてのエッセンスを簡単にまとめました。何度も読み返していただくと認識が深まります。
本記事は、 郷津春奈さんの作品と同じく半完成で、読む方が価値について考えるための基本フレームワークですので、この機会に「価値」について考えてみてください。
順次書き足したり、別記事を書いていきます。
ちなみに、毎回の記事も世の中を良い方向に変革する作品だと思って書いています。
対談の様子
プレスリリース
鬼滅の刃・ポケモン・ワンピース・NETFLIXオリジナルなど人気アニメの「作画」「原画」「作画監督」を手がけるアニメーター郷津春奈、単独個展開催
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000087572.html
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参考図書
ビジネスと人生に飛躍をもたらす使命の本質(幻冬舎)
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