米国経済の泣きどころ、とは何か
★★★上級者向け記事
低いままの労働参加率
FRBパウエル議長やブレイナード理事が、FRB内のハト派の頂点に立つ重鎮であることは間違いない。
彼らが執拗に米国の雇用実態に対し不満と疑問を残していることからすると、たとえ、テーパリング(債券購入額の減額)を始めても、来年3月末あたりまでに購入額ゼロとするかについては定かではない。
「失業率が9月は4.8%と8月の5.2%から大きく改善しているのだから、問題ない」との見方が主流だが、実態はどうなのか。
仮に構造的な問題が発生しているのであれば、経済回復の歩調が鈍化することにつながるし、
結果としてテーパリング開始も時期尚早だったということになりかねない。労働力不足は米経済の常態となりつつある。
それは労働市場の構造を変えるとともに、賃上げやサービスの見直し、自動化への投資などの対応を企業に促している。
新型コロナウィルスのパンデミックが始まってから1年半以上が経過した現在、米国では依然として約430万人の労働者が仕事に復帰していない。
この数字は、労働参加率(16歳以上の人口のうち、就業しているか求職中の人の比率)が、2020年2月(コロナ禍の直前)の水準(63.3%)に戻れば、どれだけの就労者が増えるかを示している。今年9月の労働参加率は61.6%だ。
こうした労働参加率の低下は、米国の雇用主たちが1000万人分以上の求人枠を埋め、消費者の急増する需要に対応しようと奮闘している中で起きている。労働市場の逼迫度合いを示すもう一つの指標は、新規失業保険申請件数だ。
米労働者の14日の発表によると全米の解雇者数の目安となる同件数は、先週には29万3000件に減少した。パンデミックが始まって以来、同件数が30万件を切ったのは、これが初めてだ。
労働者の離職率は、製造業・小売り・貿易業・運輸業・電力に加え、専門職・ビジネスサービスなどの分野でも過去最大となっている。
労働参加率の低下は、人口を構成するさまざまなグループに広がっているが、特に急速な低下が見られるのが女性、大卒でない者、ホテル・レストラン・保育など賃金の低いサービス分野の労働者だ。
パンデミックの当初数ヵ月の労働参加率の落ち込みは、少なくとも第2次大戦時以来で最大だった。同参加率は昨年夏に多少回復した。
しかしその後は、着実な景気回復と何年かぶりの力強い賃金上昇にもかかわらず、同参加率は1970年代以降で最低に近い水準で移行している。
なぜ戻らないのか
多くのエコノミストは、学校の再開・失業給付期間の終了・新型コロナのデルタ株の流行沈静化などが要因となって、今秋には労働参加率が上昇に転じると予想してきた。
しかし、労働力不足が深刻化する可能性を示唆する統計もある。9月には労働市場への参加者が減少し、8月には離職ペースが記録的水準に達した。
一部のエコノミストは、労働力不足の深刻化について、パンデミックに伴う退職の加速など、
元には戻らない長期的な変化を反映しているのではないかと懸念する。
労働力不足が少なくともあと数年は続くと予想する向きも多く、不足が常態化するとみている向きもいる。
WSJ紙が52人のエコノミストを対象とした調査(10月)によると、22人は労働参加率がパンデミック前の水準まで回復することはないと予想している。
労働市場分析会社のエコノミストは、「われわれの問題は、経済が再スタートしたがっていないことではない。既にスタートはしている、ただ、エンジンを動かせるだけの人がいない。われわれは今、どうやってエンジンに再点火したら良いかが分からない状態だ」と伝えている。
リセッション後は通常、消費者は消費を控え、企業は採用に後ろ向きになり、レイオフされた労働者は何とか仕事を見つけようとする。今回は個人消費が堅調で、雇用主は是非とも採用したいと思っているが、労働者が戻りたがっていない、もしくは戻れない状態にある。
企業は労働者不足を常態として受け入れるための調整をし、長期的な効果が期待できる改革を行ってはいる様だ。
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(この記事は 2021年10月18日に書かれたものです)