エネルギー危機のリスク
★★★上級者向け記事
化石燃料敵視政策の行きすぎ
折りからの原油価格、天然ガス価格、石炭価格の高騰により、にわかに高まってきたのが、エネルギー危機論である。
世界的物価上昇や経済成長率低下懸念、それに伴うスタグフレーション懸念、FRBのテーパリング(量的緩和の縮小)時期の変更などにつながるゆえ、大局的に現状をしっかりと捉えておく必要がある。
エネルギーの需給が崩れて、エネルギー価格が高騰したということは間違いない。需給が崩れた原因も単純だ。
需要サイドは、ワクチン接種の進展で経済が正常化し、増加が見込まれる。供給サイドは、再生可能エネルギーの導入が進んでいるとはいえ、化石燃料が敵視されているために増産が進まず、合計すると需要の増加に追い付かない。こうして需給が崩れ価格が高騰した。
最も大きく需給関係が崩れたのは欧州である。急進的な環境保護政策を進め化石燃料が強く敵視される欧州では、エネルギー供給が不足し始めている。
不足となれば緊急避難的に化石燃料を輸入するしかない。現実的対応として欧州はエネルギー源をパイプラインを通ってくるロシアからの天然ガスに依存せざるを得ない状況になっている。
そして、なぜかロシアでは生産量が増えないため、価格が高騰したのだ。尚、ロシアはかつてウクライナと国交関係が悪化したとき、表向きは事故が起きたことにしているが、天然ガスの供給が止まりウクライナでは凍死者が出たことがある。
また、ロシアはパリ協定の推進に極めて積極的な一方、自国内では化石燃料エネルギーの増産計画が目白押しだ。化石燃料を敵視する風潮には、もはや誰も疑念を口にできない。
IEA(国際エネルギー機関)は、5月の報告書では2026年にかけて化石燃料への需要が減少する見通しを出し、化石燃料への投資を即刻停止することを勧告した。
しかし、そのわずか2ヵ月前には2026年にかけて化石燃料への需要は増加するとの見通しを出していた。しかも、この時期は欧米でワクチン接種が進展して、経済活動が再開し航空機や、高速鉄道を使う旅行需要が急回復すると期待された時期だ。
なぜIEAは掌を返したのか。世間の化石燃料を敵視する風潮に迎合せざるを得なくなったからだと考えられる。
価格が高騰しているのはエネルギーだけではない。再生可能エネルギーのための太陽光発電などの設備の製造には、その設備の発電量の約5倍の電力を必要とする。
銅やアルミなど鉱物資源は、様々な見方があるが化石燃料の発電機と比較すると採掘から、精錬までに50~90倍の電力を必要とする。
また、穀物を原料とするエタノールは再生可能エネルギーと位置付けられており、食料価格とエネルギー価格がリンクする役目を果たしている。こうして、すべての商品市況が連動して高騰しているのである。
しかも原油だけは過去のピークのざっと半値水準だが、他の多くの商品市況は、過去最高値圏にまで上昇している。こうなると懸念されるのが景気への悪影響の長期化だ。
更に、エンゲル係数の高い新興国で食料やエネルギーの価格が高騰すると、過激なデモや反政府運動が発生するリスクが高まる。
2011年前後のアラブの春では、このメカニズムでリビアやエジプトで政権が崩壊して、無政府状態となり、地中海を手こぎ船で横断した難民が欧州に流入し、また今回は、欧州で反難民の極右が台頭して政治が不安定化した。
これにより独メルケル首相(難民流入を受け入れた)の退任につながった。地球環境保護が最優先の課題であることは論をまたない。
しかし、現実を無視した化石燃料の敵視は、エネルギー価格の高騰を通じて、普通の人々の生活を既に脅かしているし、早くも「地球温暖化説のフェイク論」を唱える学術者への賛同活動が目立ち始めた。
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(この記事は 2021年10月10日に書かれたものです)