TPPが覇権争いの場に
★★★上級者向け記事
政治的意図と戦略
9月16日、中国政府はCPTTP「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(通称TPP)への参加を正式申請すると発表した。
この日は「AUKUS」(オーカス。米英豪の安全保障枠組み)が発足した日。
米軍がアフガンから撤退(8月末)し、地域の安全保障の柱を、反中国をベースにしたアジアにシフトしたタイミングでもあり、TPPに米国が参加しない方針の中で来年からの議長国が、日本からシンガポールにバトンタッチされるという時系列にある。明らかに意図的な決定といえよう。
ただ、既に昨年5月の全人代後の李克強首相記者会見で明白な参加への政治的意思が認められていたし、今年1月~5月の各級幹部(党・政府)会議で国際ルールの形成・援用をツールとして国際社会に於ける自国利益の伸長を図る中国の姿勢は明確にされていたわけで、思い付きや政治的駆け引きとして急遽申請した行動とも言えない。
こうした中国の強い政治意志の基底にあるものは「制度に埋め込まれたディスコース・パワーの拡大・追及」(グローバル経済秩序形成における中国の発言力を高め、そうした秩序形成に決定的な影響力を有する大国となることによって国際社会において、自国権益を拡張すること)である。
その動機は、中国が抱く「不安全感」(中国の利益に適わないパクス・アメリカーナを基礎とする既存の世界秩序に埋没することへの警戒感)にあり、中国はその既存秩序の書き換えのために「制度に埋め込まれたディスコース・パワー」を追求する、と説明できる。
CPTPPについても、そこに参加することによってアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に連なるアジア太平州の経済秩序形成に影響力を発揮することを目指していると言えよう。
TPP加入への障壁と条件
しかし、社会主義市場体制(国家資本主義体制に近い)を取る中国にとって、現行のCPTPP(以下、TPP)の遵守は容易ではない(というか、不可能)。
たとえばTPPでは、国交等の労働基本権の保障や強制労働の廃止が求められているが、自発的な労組結成の権利が認められず、労組が国の統制を受ける中国には極めて高いハードルになる。
また、電子商取引についても、中国のデータ保護主義ゆえに、データ移動の自由やデータローカリゼーション要求禁止の充足は困難である。
国有企業であっても競争の自由下でなくてはならない点も100%困難といえる。
仮に米国が方向転換し、TPPに再加入するとなれば、こうしたルール面でもハードルは一層上がり、UCMCA(米・メキシコ・カナダ自由貿易協定)並みに労働、環境、人権が、重視されるようになる。
中国は「バイデン政権がTPP再加入する状況は十分にありうる」と読んで、早期の加入を狙っていることも事実である。
中国をTPPに加入させるか拒否するかの判断は一重に厳しい加入条件をクリアーできるのか、そしてTPP側も中国の協定履行を確保できる体制を整えることができるのかにかかっているわけで、そこには一切の政治的意図はあってはなるまい。
そのためには3つの指針が不可欠となろう。
第一に、加入のハードルを維持すること。
TPPへの加入手続項では、加入希望エコノミー(TPPでは台湾や香港といった独立関税地域の加入を想定し、「国」ではない)に、「全ての既存のルールに従うための手段」つまり、協定遵守確保の具体的な見通しや手順を示すこと、また「各締結国(エコノミー)にとって商業的に意味のある市場アクセス」つまり、個々の現締結国すべてを満足させる市場開放を提供することを求める。
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(この記事は 2021年9月26日に書かれたものです)