アフガニスタンの政変がもたらすリスク
あと数日で2001年9月11日の米同時多発テロから20年目を迎える。
今年は、2011年のアラブの春と称される政変の年から10年、1921年7月の中国共産党(6月時点で党員数は約9500万人)創立100年でもあった。
こうした年のはじめ(1月6日)に、米議会襲撃事件が起き、改めて民意と統治制度のあり方を問う必要がでてきている。
20年前にアルカイダが航空機を使って世界貿易センタービルや国防総省を攻撃したテロ行為で傷ついた米国の権威は、米国民自らが議会を襲撃することで、さらに貶められた。
襲撃者は、トランプ前大統領の「選挙が盗まれた」との言葉は真実であるとして、バイデン氏の当選認定に抗議するために議事堂へ向かった。
しかし、ポピュリスト指導者の言葉を根拠に行われた暴力をともなう抗議行動は、これまで長い時間をかけて築き上げてきた憲法、制度のもとでの平等や、それを前進させる方法である民主主義へのテロ行為ともいえる。
こうした秩序が破壊され、国内で分断が起きている現象は、香港、ミャンマー、そしてアフガニスタンでも見られている。
その背景には、人びとの生活スタイルや社会的ニーズが多様化しており、国民国家のスケールでの政治的合意形成が難しくなっていることがある。
以下では、8月15日に起きたアフガニスタンでのタリバンによる軍事制圧について、国際社会の対応と、政変から生じる可能性があるリスクの連鎖について検討する。
そのことを通し、2019年に国連のアントニオ・グテーレス事務総長が指摘した「大分断」の深刻化について考えてみたい。
アフガン政府崩壊で顕になった大国の対立
グテーレス事務総長は、2019年9月の第74回国連総会演説で、現在の国際社会について「世界が2陣営に分かれ、2つの経済大国が2つの別個の競合する世界を作り上げている状況」と指摘した。
この2つの別個の世界(システム)が、軍事のみならず、貿易、金融、インターネットなどの分野で対立を深めている。
アフガニスタンの政変では、両者の地政学的、軍事的戦略分野での対立が顕著である。
地政学的対立の動きは、7月にタリバンのバラダル師(副官)が中国とロシアを訪問し協議したことで、表面化した。
この協議で、タリバンは、両国からアフガニスタン人による包括的な政府づくりと、経済復興における重要なアクターとして承認された。
7月28日、中国の王毅外相は、バラダル師との会談後の会見で、中国はアフガニスタンの主権、独立、領土の完全性を尊重し、友好的政策をとっていると述べ、米国とNATOの介入政策は失敗したと語った。
この時点で、王外相は、今後を見越して、領土不可侵、内政不干渉を強調し、アフガニスタンに対する人権問題、国際テロの鎮圧にともなう米国とNATOによる普遍的価値介入を牽制している。
こうした中国の対アフガニスタン政策には、中国、パキスタン、アフガニスタン、イランの連携という意図があると考えられる。
中国はこの連携に加え、港や製油施設、パイプラインなどへの建設投資を行うことで、日量400万バーレルの原油の輸入先である湾岸地域との関係強化政策がとりやすくなる。
また、中国は、米国が役割を担っているシーレーン防衛への依存度を低下させることも可能となる。
これらのことで、中国のエネルギー安全保障は向上するとみられる。そのためには、新たなアフガニスタン政権に、パキスタン、イランと良好な関係を構築してもらう必要がある。
中国は、カタールのドーハでのガニ政権とタリバンの和平交渉の場であった拡大版トロイカ会議に、米国、ロシア、パキスタンと同席し、さらに、モスクワ形式和平協議でもロシア、パキスタン、イラン、インドとともに、アフガニスタンの和平と新体制づくりに関与してきた。
米国および有志連合がアフガニスタンから撤退した一方、周辺諸国とともにタリバン主体の新体制づくりに協力してきた中国とロシアは、大使館活動を維持できている。
その結果、米国はアフガニスタンでの軍事基地を失っただけでなく、中央アジアから南西アジアでの優位性を中国、ロシアに譲ったといえる。
アフガニスタンの政変の影響
現在、アフガニスタン新体制は約90億ドルの外貨準備を利用できない状況にある。また、通貨アフガニの下落などによる物価の急上昇、銀行業務の停止など、厳しい生活を強いられている国民は、不安と不満を高まらせている。
さらに、パンジシール地方の反タリバン勢力との武力衝突が激化しており、全土統治に影を落としている。
こうした情勢の不安定さに加え、国際社会からは
①国際テロ組織の温床化、
②難民流出への懸念が表明されており、
アフガニスタンの政変は国際社会に多面的なリスクをもたらしている。
(この記事は 2021年9月4日に書かれたものです)
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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