米国債イールドカーブは再びスティープ化へ
米国債が景気減速の予兆
FRBが量的緩和策(米国債・住宅ローン債券MBSの購入)を縮小する=テーパリングの検討に入ったにもかかわらず、米国金利は逆に大きく低下、7月21日付の日経紙は「FRB正常化策に疑問符」と題して以下のとおりに分析している。
7月19日、長期金利(10年債利回り)が急降下(債券価格は急上昇)し、一時1.2%の節目を割り込んだ。5ヵ月ぶりの低水準。6月1日には1.6%台だったゆえ1カ月半で0.5%近く下がった。最近の米金利の低下は2段階で進んだ。
まずはFRBが足元で加速している物価上昇は一時的との見方を強調し、早期のテーパリング観測が後退したことで低下に向かった。
その後は新型コロナのデルタ株の感染拡大に対する警戒感などから、景気のピークアウト懸念に関心が移り、金利低下が加速した。
債券市場をより深く分析すると、景気減速への警戒が強まっていることがわかる。長短金利差の縮小だ。19日は、より長期の景気見通しを映す30年後の利回りが1.8%台前半と1月以来の水準に低下。
一方で中期の景気や金融政策の見方を織り込む5年債は0.7%程度を保ち、両者の差は1.1%台と20年8月以来の低水準となった。
債券市場では、年限の異なる金利を線で結ぶ利回り曲線(イールドカーブ)の形状で、市場が織り込む景気の先行きを分析する。
カーブは通常、右肩上がりの形状だが、年限の長い利回りが下がってカーブの傾きが小さくなる現象を「平たん化」と呼び、市場が中長期的な景気減速を織り込んでいることを示唆する。
長短金利の縮小はカーブの平たん化を端的に示す。
5年債はFRBの利上げ観測から高止まりする一方、30年債は長い目でみて、米経済成長が停滞するとの懸念から低下。結果として金利差の縮小につながった。
「ペントアップ(繰り越し)需要の落ち着きや現金給付効果の消滅などで、景気がピークを超えたと市場が警戒し始めた」とエコノミストは指摘する。
コロナ禍からの回復をテコに世界経済の急激な持ち直しを織り込んできたが、シナリオの見直しを意識し始めている。金利低下はFRBの正常化に対する疑問も投げかけている。
CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)が、算出する米利上げに対する市場の折り込み度合いをみると、6月下旬には22年末までに2回の利上げ実施の確率が25%まで高まっていたのに、足元では17%まで低下している。
当リポートの発行時点では「7月FOMC」は終了しているが、FOMCメンバー内でタカ派(早期引き締め派)とハト派(金融緩和継続派)の勢力図で、再びハト派優勢となる可能性があり、注目される。
FOMCメンバーの6月会合での動き
6月FOMC議事録要旨(7月7日発表)では予想外に旺盛なコロナ禍からの消費再開で、「歴史的な強さで米国景気は拡大している」と示した。
物価見通しは「先行き上振れする可能性がある」というのがFOMCメンバー19人の大多数の認識だった。
さらに
(1)数名は「月次インフレ指標で物価上昇が示され続ければ(FRBが重視する)長期のインフレ期待が過度に上昇しかねない」とのインフレ懸念を表明。
ところが、
(2)ほぼ同数とみられる数名が逆に「物価見通しは下振れする可能性がある」と注意喚起している。
つまり、
(1)のタカ派メンバーのインフレ懸念に対して
(2)のほぼ同数のハト派メンバーが正反対の物価見通しをぶつけ、
いわば「中和」させたことで(1)、(2)両論併記になった形だ。
ハト派がタカ派と拮抗する勢力であることを示唆した今回の議事要旨のこの箇所は、「FRBは緩和縮小を急がない」と市場に印象づけた。
しかし、大多数のメンバーが「物価見通し上振れ」を見込むのに、下振れも考慮した両論併記とは奇妙と言える。
もしも議事録要旨の「数名のハト派」がFRBの新たな金融政策の枠組み
「2%の平均物価目標」を支持するメンバーだったと推測すれば、奇妙ではなく違和感は生じない。
2%を超えるインフレを一定期間(緩和縮小せず)容認することで、過去に2%を下回った期間と合算した長期平均で、2%の物価目標を達成しようとする新たな枠組みの立場からハト派に属するのは当然である。
議事録要旨は「前回の景気拡大局面でみられた物価下落圧力は今も続いていること」を、数名のハト派が根拠にしたことを示した。
これは、より長期的な視点で物価下振れに注意喚起する「2%平均物価目標」論者の発想そのものである。
要するに、金融政策でインフレを抑制するのは容易だが、デフレ抑制は難しいとの立場をとるメンバーたちなのである。
一方、「数名のタカ派」は新たな金融政策の枠組みを支持しないメンバーと推測される。これらのメンバーのインフレ懸念を無視できなかったパウエル議長が、6月FOMC会見で想定を上回るインフレが長びく可能性を認め、必要なら政策を調整する用意があると表明するに至った。
これを受け、債券投資家が「FRBは後手に回ることなくインフレ抑制に動く」と判断。FRBがタカ派に転換したと解釈し、市場はそれをベースに動き出した。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より抜粋しています。