太陽光発電は割安という笑止千万
経済産業省の資源エネルギー調査会(発電コスト検証ワーキンググループ)は、7月12日、原子力、太陽光、風力、石炭、LNG(液化天然ガス)など15種類の電源ごとに、2030年の発電コストを試算し公表した。
その結果は、今夏に発表予定の「エネルギー基本計画」に反映される。今回の試算で最も注目されたのは、2030年時点で太陽光発電のコストが最も低コストになると結論付けたことだ。
これは、太陽光の本格的な「主力電源」化を後押しすることを意味する。
「太陽光発電のコストが大幅に低下すればFIT(固定価格買取制度)のもとで消費者が負担するコストが低下していく」との狙いがありそうだが、そう簡単ではないというか、この結論そのものがデタラメに近いと言える。
こんなインチキ論をもって「2030年の温室ガス削減目標を2013年比46%削減」が、達成できるとするなら、よほど経産省のキャリア官僚たちは、イカレているとしか考えられない
国民負担の大幅増加必至
4月13日、政府に提示された資源エネルギー庁の資料によると、太陽光の2020年度以降の増設の見通しは、現状のFIT等によって支援された「努力継続シナリオ」で31.8GW(1GW=100万キロワットkw)となっており、これによりCO2削減量は2000万トン弱にとどまる(2030年までにCO2の4.5憶トン削減が必要)。
そこで今後の政策強化により、どこまで太陽光導入を積み増すことができるかが検討されており、7月6日に開催された政府の「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」で環境省は、公共建築物で6.0GW、民間企業の自家発自家消費型で10GW、さらに地域共生型太陽光で4.1GWと、合計で20.1GWの追加導入が見込めるとの試算を示した。
これによるCO2削減効果はおよそ1300萬トン程度であり、太陽光発電のCO2削減貢献量は、
総計51.9GWの新規導入で、合わせて3300万トンと原発18基の再稼働時に期待される削減量の
半分程度の貢献は可能ということだ。
因みに、すでに日本の国土面積当たりの太陽光発電普及率は主要国の中でトップであり、平地の導入率では2位のドイツの2倍と、断トツに高くなっている。
日本は狭い国土の中に最大限の太陽光を既に普及させていることを知る人は少ない。
これにさらに約50GWの太陽光を追加的に導入する場合の必要面積は、1MW(1億ワット)に必要な面積を1万平方メートルとして500キロ平方メートル(東京23区の面積が約628キロ平方メートル)と、東京都23区のほとんどを太陽光パネルで埋め尽くすイメージである。
これは必ずしも更地や休耕田だけでなく、建築物やガレージなどの屋根に乗せるということで面積を稼げば不可能ではないかもしれない。
しかし問題はその費用対効果である。
資源エネルギー庁の示した「努力継続シナリオ」で導入が期待される31.8GWのうち、18GWは未稼働のFIT既認定案系であり、高いFIT賦課金負担を余儀なくされる。足もと2021年度のFIT賦課金は3.36円/kwであり、買取り費用総額は3.8兆円。
平均的な家庭の年間負担額は既に1万円を超えている。
FITは20年間の固定価格買い取り制度(事業用)なので、2012年~2014年に高い買取り価格で大量導入された太陽光電力が、買い取り対象から外れるのは2032年~34年であり、加えて前記の太陽光導入拡大シナリオでは、高い買取り価格で売電する権利を持ちながら未稼働の18GW分が今後新規稼働することが想定されており、これが2030年のFIT賦課金による国民負担をさらに押し上げるのは必至であるし、政府・財務省は別途、「環境税」という名で消費税率を実質15%まで引き上げる算段にある。
太陽光急拡大の真のコスト
しかも国民負担増は、これだけではない。まず、太陽光や風力といった自然変動制の高い電源は、電力需要に合わせて都合よく電力を供給することは出来ない。
すでに九州で起きているように、普及した太陽光の発電量が晴天時に需要を超えてしまう事態が発生することから、火力発電所の大半を稼働率を落として発電量を抑え込み、余剰電力を揚水発電のような大型蓄電設備に送り込み、それでも余る電力については、太陽光発電設備の接続停止を要請して超過発電量を抑え込んでいる。
これによって既設の火力発電所の稼働率が低下するわけで、固定費回収が遅れて火力発電のkwh(時間当たりの発電)当たりコストが上昇することになる。
日本全国で太陽光や風力といった変動性再生エネルギーを大量に導入すると、風況が良く晴天の昼間には、電力需要の多くを再エネで賄うことが出来るようになるかもしれないが、現実には梅雨の時期など、太陽の出ない日が何日も続き、夏場には風が吹かない日が続くことも想定され、そうした時期にも一貫して存在する電力需要を満たすために、バックアップするための火力発電所が必要となる(蓄電池で余剰電力を溜めておけばよいとの話もあるが、地域限定で数時間分の電力をキープすることは可能であろうが、広域で数日分の電力を蓄電池でバックアップするのはコスト的にも技術的にも現実的ではない)。
結局、変動性再エネを大量に普及させるには、それに見合った規模の火力発電をバックアップ電源として、もう1セット抱える必要があり、しかもその火力発電設備の稼働率は年に数日しか稼働しない場合があるなど、極めて低くなるため、異常に高くなる維持・固定費を社会全体で、負担する必要に迫られるのである。
設備償却の進んだ既存の火力設備があるうちはまだ廃棄を先延ばしすれば、そのコストは抑えられるかもしれないが、いずれ耐久寿命が尽きれば、年あるいは月に数日しか稼働しない新規の火力発電設備に投資するという、経済的にみて恐ろしく非効率な事業を行う必要があり、そのコストは再エネを大量導入しようという日本社会全体で負担することになる。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より抜粋しています。
(この記事は 2021年7月26日に書かれたものです)