FRBへの信頼を崩した6月FOMC
★★★上級者向け記事
6月FOMCでの3つのサプライズ
今回のFOMCでは、政策金利であるFFレートの誘導目標レンジを0.00~0.25%に据え置いた。バランスシート政策に関しても、米国債等の購入ペースについて変更はなかった。市場参加者にとって、これ自体へのサプライズはない。
ところが、筆者も含め、場合によってはFRBへの市場の信頼度が著しく低下したとも取れる「政策変更」に近い内容が提示された。
というのも、FRBは昨年からAIT(アベレージ・インフレーション・ターゲティング)という考え方に基づき政策運営している。
これは「埋め合わせ戦略」とも言われ、インフレ率が目標を下振れる期間があった場合、その分だけインフレ率の上振れを許容することで、中長期的なインフレ率を2%程度に保つという考え方である。
今次局面に当てはめると、2020年3月以降のパンデミックで生じた「下振れ」の埋め合わせが完了するまで引き締め的な金融政策に距離を置く、というのが、これまでのFRBの方針だった。
それをFOMC参加者のFF金利の行方を示すドットチャートの大変化(利上げを急ぐタカ派に転向)を捉えて、突如、AITを取り下げてしまった感がある。
これを「3つのサプライズ」として整理してみた。
(1)テーパリング議論の開始に関する示唆
4月のFOMC議事録では「経済がFOMCの目標に向けて急速な進展を示している場合、資産購入の調整に関する計画について、今後の会合のいずれかの時点で議論を開始することが適切になるかもしれない」と示されていた。
また、4月のFOMC後に数名のFOMC参加者が講演会やインタビューで同様の発言をしており、早ければ今回のFOMCで議論が開始される可能性があった。
もっとも、4月のFOMC後に公表された4-5月の雇用統計では、パウエルFRB議長が期待した非農業部門雇用者数の増加幅が、前月差+100万人前後というペースをはるかに下回る結果となったことから、テーパリング議論の本格化は幾分遅延(7月のFOMC以降を想定)するというのが、大勢の市場参加者の見方であったといえる。
こうした中、6月のFOMC会合後の記者会見の冒頭説明で、パウエル議長は「テーパリングに関する議論があった」と述べた上で、「(テーパリングを決定する上で必要な)更なる顕著な進展には道半ばであるが、FOMC参加者は進展が今後も継続するものと予想し、今後の会合でFOMCは我々の目標に向けた、経済の更なる進展があるかを引き続き評価する」と述べた。
これは4月のFOMC議事録に沿ったものとも、議論開始公表とも読み取れるわけだが、その後の記者会見では「議論のための議論」と説明しており、4月のFOMC議事録に沿った議論を開始するために必要な予備的な議論が始まったものと、捉える発言だった。
しかしセントルイス連銀ブラード総裁は18日、「テーパリングについては、今回のFOMC会合で議論が公式に始まった。今後さらに掘り下げた議論をする機会を当局者は有している」と明言している。
(2)ドットチャートのサプライズ
FOMC参加者のFF金利見通し(ドットチャート)での利上げ予想の劇的増加は、完全に予想外である。
3月のFOMCでのドットチャートでは、公表期間の最終年である2023年末まで、FFレートを実質ゼロで維持するという予想が示されていた。
他方、インフレが加速する中で、先行きのインフレ予想が上方修正されるとともに、ドットチャートも2023年末までに1回分の利上げを織り込む水準(0.25-0.38%)に、予想が引き上げられる可能性が想定されていた。
今回のFOMCでは、インフレ予想の引き上げとともに、公表されたドットチャートでは、2023年末までに2回分の利上げが実施されるとの予想が示された。
パウエル議長が2023年の利上げに関しては、FOMC全体の決定ではなく、あくまでもFOMC参加者の予想であること、そして現時点で2年後の経済状況がどうなるかは、確信を得られていないことなど、幅を持って捉える必要性を繰り返し提起した。
しかし、市場参加者のサーベイにおいても2回分の利上げは織り込み切れていなかったことから予想外と判断。発表直後の米国10年債利回りは、前日の1.488%台から一時、1.59%台へと跳ね上がった。
(3)超過準備付利金利・リバースレポ金利の引き上げなど
財務省は、連邦債務上限の規制を議会から法制化された場合の対応として、FRBにTGA預金(財務省一般勘定預金)を保有(2020年7月時は1兆8千億ドル)していたが、市中への資金供給を狙いとして、現在、5千億ドル残まで取り崩している。
7月末までには残高をゼロ近辺まで減らす予定にある。1兆8千億ドルの資金が、金融機関の預金口座にシフトするも金融機関は、現金を寝かせておくわけにはいかずMMFに投資するか、FRBに当座預金として積み上げるしかない。
結果として、MMF残高の肥大(利回りはゼロに接近もコストを含めると実際はマイナス利回り)を抑制し、利回りを維持することと、FRBへの金融機関の超過準備金利を引き上げることを決定した。
これで資金余剰で混乱してきた短期金融市場の交通整理(金利体系の整然化)と、余剰資金の吸収につながる。
これが「IOER(超過準備預金金利)の0.10%から0.15%へ引き上げ・リバースレポ金利の0%から0.05%への引き上げ」を意味するところである。
さらにFRBは、危機対応のファシリティ(仕組み)で購入した社債の売却開始も決定している。
つまり、テーパリングの前段階として明らかにテクニカルな分野からの資金吸収を始めたことになる。サプライズそのものである。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より抜粋しています。
(この記事は 2021年6月23日に書かれたものです)