高騰を続ける原油価格の裏側
原油価格の上昇が目立つ。WTI原油先物価格は、3月23日の57ドル台を直近の底として6月16日には73ドルまで接近、北海ブレントも74ドル台を記録した。世界最大規模を誇る米国のガソリン市場価格も1ガロン当たり3ドル(昨年4月は1.8ドル割れだった)を超え、2014年10月以来の高値。
ガソリンを運ぶタンクローリーの運転手不足やインフラ施設の老朽化も重なり、さらなる上昇の懸念が広がっている。原油価格の高騰が長びくと原材料や輸送コストの上昇から、特に先進諸国の物価上昇につながり、金利も上昇しやすくなる。
とりわけ世界の金融市場を左右する米国の長期金利(10年物国債利回り)は、原油価格との相関が高いだけに、パンデミックを乗り越えて景況の回復を急ぐバイデン政権や、FRBにとっては、座視できまい。
現段階では、FRBの金融政策絡みもあって相関からは外れているが、ガソリン価格が3ドル超となると、さすがにダメージが大きくなるのは必至。
果たして、バイデン政権は、どの様な対応を考えているのだろうか。
イラン動向待ちのOPECプラス
国際エネルギー機関(IEA)は世界の原油需要について、「2023年までパンデミック以前の水準に戻らない」との見方を今年3月に示していたが、最近になって「今後1年でパンデミック以前の水準に回復する可能性がある」と修正している。
供給サイドに目を転じると、5月のOPECの原油生産量は、前月比28万バレル増の日量2552万バレルとなったが、OPECプラス(OPECとロシアなどの非OPEC産油国から構成した機構)は、増産のペースを急がない方針を維持している。
ロシアの副首相は5月下旬、「世界の原油市場は現在日量100万バレルの供給不足が生じている」との見方を示していたが、OPECプラスは6月1日の閣僚級会合で、協調減産を7月まで段階的に縮小する既存の路線を確認した。
OPECプラスは4月、協調減産幅を5月と6月にそれぞれに日量35万バレル、7月は44.1万バレル縮小することで合意している。サウジの独自減産の縮小分を加えると6月の減産幅は日量620万バレルとなる。
コロナ禍で原油需要が急減した昨年半ばには、OPECプラスは世界の原油供給の1割に当たる970万バレルの大幅減産に踏み切っていた。
OPECプラスは「次回の閣僚級会合は7月1日に行う」と述べたものの、8月以降の方針を明らかにしなかった。イラン産原油の世界市場への復帰の可能性を懸念しているからだ。イランは2016年~18年には日量370万バレル相当の原油を生産していた「原油大国」である。
「イラン核開発」による欧米の制裁により2020年央には、日量190万バレル台まで生産の落ち込みを余儀なくされた(現在は240万バレル)が、仮に欧米の原油輸出制裁の解除となれば、早い期間に増産態勢に入るとされていて、それをOPECプラスが懸念しているのである。
厳しい反イラン政策を敷いてきたトランプ政権から、対イラン懐柔政策(と言うよりも脱中東関与政策)のバイデン政権に交代した米国は「イラン核合意協議」に復帰し、5月20日以降、何回かの中断もありながらイランとの「核合意」再建=「修正合意」に向けた協議を続けている。
だが、6月18日、イランの新大統領にライシ師(最高指導者ハメネイ師の側近・保守強硬派)が当選し、8月3日に就任する事態になった。ライシ師は「イラン核合意正常化に向けたイランの姿勢は変更しない」としているが、具体的要求内容は定かでない。
同じ6月18日、米WSJ紙は、「米軍が中東地域からミサイルシステムや兵士数百人の撤収を開始した」と報じた。
米海軍制服組トップの作戦部長が5月に「イラン核合意を再建して、イランが容認できる振る舞いをすれば、中東での空母の運用を減らせる」と伝えていたが、その主旨に沿った行動であろう。
OPECプラスは7月1日の次回会合で8月以降の協調減産量を決めるとしているが、「イラン核合意再建」協議はイランのライシ体制がスタートする8月からの動向を見定める必要がある。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部を抜粋しています。
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(この記事は 2021年6月21日に書かれたものです)