公開日 2021年4月5日

米国のインフレ懸念がすべてか

SLR(補完的レバレッジ比率)の緩和措置を、延長せずに3月31日期限をもって打ち切ることは、大半のエコノミストや市場関係者の予測を否定することとなった。
米国のインフレ懸念がすべてか

★★★上級者向け記事

SLR緩和措置終了の意味

FRBとOCC(通貨監督庁)、FDIC(連邦預金保険会社)は、3月19日にSLR(補完的レバレッジ比率)の緩和措置を、予定通りの3月31日期限をもって打ち切ると発表した。これは筆者を含め、大半のエコノミストや市場関係者の予測を否定することとなった。

SLRは、米国の金融システム安定化の為に導入した保有資本規制、これをコロナ禍に受けて2020年4月~21年3月末の期間に限り、エクスポージャー額(総資産額)からFRBへの預金と保有米国債の除外措置をとった。市場の流動性逼迫の回避が狙いだった。

これを再び4月から元に戻すとなると、大手行は規制遵守のため、米国債等の売却を余儀なくされ、長期金利にさらなる上昇圧力がかかるとの見通しは当然だった。

エコノミストや市場関係者の多くは、「さらなる金利上昇に追い打ちをかけることはしまい」と読んでいただけに、この発表直後の株価こそ続落となったが、米国債利回りが跳ね上がることはなかった。

実はこの発表前のFOMCで、翌日物リバースレポ(RRP)ファシリティーのカウンターパーティー上限を、300億ドルから800億ドルに、引き上げる決定がなされていたのである。

早い話が、債権市場の流動性供給を拡大するということ、つまり、債権関係者は「これとSLR打ち止めの抱き合わせ」と理解したことを意味する。

ここで筆者が言及したいことは、FRBは当分の間、利上げはもちろん、テーパリング(資産購入の縮小)もしない代わりに、副作用としての「金融システムの安全性リスク」を、抑制・回避する手順に全力を注ぐことにしたのではないか、ということにある。

何もしないFRBの長期展望とは

確かに米国のインフレ指標の中には、気がかりとなる上向きの動きを示すものも見え始めてはいる。

FOMC自体、経済見通しで2021年の経済成長率を6.5%まで見ているし、2022年、23年と潜在成長率としている1.8%を超える成長率が続くとみている。

また、バイデン政権は1.9兆ドルの新型コロナウイルス対策米国救済計画の財政発動に続きて、3兆ドル規模の次の財政発動に動こうとしている。

市場では一段とインフレ懸念を強めているが、FRB議長は、頑ななくらいインフレ率が低すぎる状態を脱せないことを心配している。

パウエル議長は、インフレ率が高まることよりも一過性のインフレ率上昇の動きが過ぎさった後に、低インフレ率の米国経済を危惧し続けている。

まず、昨年春、コロナ感染拡大によるロックダウンのもとで物価指数は低下した。このため、前年同月比のインフレ率は今年3月~4月に大きく上昇するが、一時的だとして、インフレが昂進したとはみないと言っている。

さらに、コロナの収束をみて人々が、それまで我慢していた需要が回復当初に集中して、
需要(ペントアップ需要)が高まったとしても、それも一時的でインフレ率の高まりは限定的と言う。その後、構造的なインフレ率に変化があるともみられないというのが、パウエル議長の主張である。

需要の高まりがあれば供給力が増やされるサプライサイドのダイナミックスも強いと言っている。一時的な財政支出の強まりがあっても一過性で、これまで長く続いた低インフレをもたらす経済構造は変わらないとの見方だ。同議長は、低過ぎるインフレ率の持続がもたらす災禍、日本化の回避を求めているとされる。

そのインフレ率はコアCPI指数で見ると1.3%(2月の前年同月比)と著しく低い。失業率も6.2%と高い。物価安定も持続可能な雇用の最大化も任務達成は程遠い。

今の強い金融緩和を続けるのは当然であり、尊敬する前任者(イエレン財務長官)との共通した認識というのがFRB議長の立場である。

と同時に、この超金融緩和政策が、どのような金融システムへの副作用として顕在化してくるのか、それを「マクロ・プルーデンス政策」(長期的最適政策)に、どう反映させていくのかを見極めているところではないか。

需給ギャップと貯蓄

現在、米国の当座預金と普通預金口座に待機している超過貯蓄は、1.1兆ドルと推計されている。この資産はすぐに使われる可能性は少なく、不動産投資や金融市場に向かう可能性の方が余程高い。

既に足下では始まっていて、FRB金融統計は住宅投資の回復が、貯蓄口座の預金減少と一致していることを示している。また、規模は小さいものの家計の株式保有にも見られる。

歴史的に見ると、景気後退後の貯蓄率は、景気後退前の水準に比べて若干上昇し、高止まりする傾向がある。実際、直近から過去8回の景気後退期(米国)のうち、貯蓄率が過去の景気後退期を下回る水準で終わったのは1981年と1974年の2回しかない。

また、より重要な点としてFRBの統計によると、過剰貯蓄は富裕層のバランスシート上に集中していることがうかがえる。

メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より抜粋しています。
(この記事は 2021年4月1日に書かれたものです)

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プロフィール

金森薫

金森薫

国際エコノミスト。元外為・債券・株先ディーラーという実践経験を生かした経済分析、マーケット分析。

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