アインシュタイン博士が「人類最大の発明」と呼んだもの
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
人類最大の発明?
アインシュタイン博士は、「相対性理論」を打ち立て、「物質とエネルギーは等価である」ということを証明した天才科学者です。これらは人類最大の発明の一つと言われています。
ところがアインシュタイン博士自身が人類最大の発明だと言ったものは実に意外なものでした。博士は、「複利は人類による最大の発明です」と言っています。私はこれを知ったときに2つの意味で驚きを感じました。
一つ目は、アインシュタイン博士が人類最大の発明だと考えていたものの意外さです。二つ目は、博士は、お金のことには興味など持たず研究室にこもって研究に没頭しているというイメージとのギャップです。今回は、アインシュタイン博士をそのように言わせた「複利」ということについて考えてみましょう。
複利とは
前にお話をした金利の事を思い出してみましょう。お金を借りたり貸したりするときには元本に対して、金利に応じて利子がつくのでした。複利とは、元本とその利子の両方に対しても利子がつくことを言います。ある一定の期間ごとに、発生した利子を元本に追加したものを新たな元本として、次の期間はその新たな元本に対して利子が発生する仕組みのことを言います。
それに対して、最初の元本に対してのみ利子がついていくことを単利といいます。以下、具体的な例を挙げていきます。(税金や手数料については考慮しません)
銀行貯金が複利で増えると
たとえば、1年間の金利が5%である定期貯金があるとします。現在の日本の金利ではとうていあり得ない高金利ですが、過去にはそういう時がありました。この定期貯金にお金を預けると、原則として1年間はお金をおろすことができませんが、1年後におろす時には5%の利子がついてきます。
この貯金に、金利が変わらないまま、100万円を預けて、10年間預けっぱなしにしておくと10年後にはいくらになるでしょう?もしも単利で利子が付く貯金であれば、毎年5万円の利子がつくので、
10年後には、5×10=50万円
の利子が付き、元本と合わせて150万円になります。
ところが、実際には貯金には複利で金利がつきます。そうすると定期貯金の金額は次のようになります。
- 1年後
105万円 この105万円が2年目の元本になります。
- 2年後
105万円に対して5%の利子5万2500円が付き、合計で110万2500円になります。これが3年目の元本になります。
- 3年後
110万2500円の元本に対して、5%の利子5万5125円が付き、合計で、115万7625円になります。それが4年目の元本になります。
以下、同様にして計算していくと、10年後にはなんと、162万8895円にもなります。単利の場合よりも受取額が11万8895円も多くなりますね。それでは、もっと長い期間で比較してみましょう。20年間や30年間、この貯金が同じ金利のまま続けられるとしたら、元本はいくらになっているでしょうか。また10年間ごとの増加額はいくらになるでしょうか。
元本 10年間の増え方
20年後 265万3298円 102万4403円
30年後 432万1942円 166万8644円
40年後 703万9989円 271万8047円
50年後 1146万7400円 442万7411円
年数がたつと元本が急速に増えていきますね。そして増え方自体も増えていきますね。(単利の場合は10年ごとに50万円増えることが繰り返されるだけです。ですから、単利だと50年後は元本は350万円です。)このように、「時間の経過とともに、増え方も増えていく」これが複利の大きな特徴です。
この計算は、N年後の元本=初めの元本×(1+金利)^N で計算することができます。
(※上記計算式の最後の^Nは、右肩につける小さなNに読み替えてください。(1+金利)をN乗する(N回掛け合わせる)という意味です。金利は、%表示のものは100で割って小数に直して式に入れます。
100×(1+0.05)^20 = 265.3298 となります。
マンハッタン島を売ったお金で
ニューヨーク市の中心にマンハッタン島という島があります。面積約59㎢(東京の山手線の内側くらい)、約150万人が住み、世界的な大企業の本社もたくさんある、世界の経済の中心ような場所です。
アメリカ合衆国が誕生するのは1776年ですが、それ以前は、アメリカは、イギリス・フランス、オランダ・スペインなどヨーロッパの国々の植民地でした。1626年にオランダ人がマンハッタン島を24ドル相当の商品(ビー玉、ナイフ、布地)と引き換えに、現地のネイティブアメリカンのある部族から買い取ったとされています。
物々交換です。ただし、ネイティブアメリカンにはもともと土地を所有するという概念がないので、この取引自体の意味をどのくらい理解していたのかはわかりません。ネイティブアメリカンはわずかな商品と引き換えに、その後、大きく発展するマンハッタン島を手放してしまったわけです。(なお、ドルが誕生するのは1785年なので当時はまだドルがありません。このドルへの換算は後の時代に作られたのでしょう)
しかし、「もしもそのときに手に入れた24ドルを(商品をお金に替えて)元本にして資産を複利で増やしていたら、現代になってマンハッタン島を買い戻すことができたはず」という話をかなり以前に聞いたことがあります。もともとの出典を調べてみたのですが見つけることができなかったので、私なりに計算してみました。
当時の経済大国であるイギリス、後に大きく発展するアメリカの企業の株式への投資でならば、年率5%~9%くらいでの運用を続けることは可能だったと考えられます。仮に5%と仮定して、1626年~2021年までの395年もの間、一度も使ってしまうことなく子孫たちが資産の運用を引き継いでいくことができたとしましょう。そうすると、2021の時点での元本は、先ほどの式で計算すると、
24×(1+0.05)^395=5623210928
約56.2億ドル=5848億円 (1ドル=104円で計算)にもなります。
現在のマンハッタン島は、オフィスビルやマンションがびっしりと建っているので、これらをすべてひっくるめた現在の価値を計算することは難しいです。代わりにニューヨークの戸建て住宅の価格は1㎡あたり1100ドルくらいというデータを使って、マンハッタン島全体の土地のみの価格を計算してみると(実際にはオフィス街が多いのでもっと高いはずですが)約561億ドルになります。
ということは、マンハッタン島を買い戻すのは無理です。ただし、ニューヨーク周辺では、戸建て住宅の平均的な広さは500㎡ほどもあり、日本の感覚では大豪邸、このサイズの家をなんと1万軒くらい買うことができます!元本がたったの24ドルであったとしても、長年の間、複利で増やしていけば、莫大な大きさになるということです。
借金で借金をすると
ここまでは複利の力を使って資産を増やす話でしたが、今度は怖い話になります。多重債務問題、という言葉を聞いたことがあるでしょうか?消費者金融会社から高い金利で借金をして、その借金を返すために別の消費者金融会社からお金を借りるということを繰り返すうちに、借金が大きく膨らんで返せなくなってしまう人が増えているという問題です。複利によって借金が増えてしまうということです。
詳しくはまた別の機会に書きたいと思いますが、複利は味方につければとても頼もしい仕組みでありますが、敵に回すととんでもないことになるということです。
アインシュタイン博士の言葉の続き
冒頭のアインシュタイン博士の言葉には続きがあります。
「複利を理解している人は利子を稼ぎ、理解してない人は利子を払います」
アインシュタイン博士をして、複利が人類最大の発明と言わせた意味をかみしめてみたいと思います。