時間を買うことはできるのか?
子供のためのお金のリテラシー教育 お金について考えてみよう
ここでは「お金」にまつわる、いろいろなお話をします。一見バラバラのお話のように見えるかもしれません。しかし、話が進んでいくにつれて、ジグソーパズルのピースのように、一つの絵を形作るために、お互いに関連しあっていることがわかってくるでしょう。ここで読んだことが、既に自分の持っている知識と結びつくこともあれば、日常生活の中で、連載の内容と関連する出来事を見聞きして、納得することもあるでしょう。そういう時に、頭の中で知識のネットワークが強化されます。この連載を読んで、興味を持ったり、疑問に思ったりしたら、続きは、自分で調べてみましょう。
秦の始皇帝が探し求めたもの
不老不死(不老長寿)の薬というものを聞いたことありますか?決して年を取らず死なない体になるという薬です。秦の始皇帝(紀元前247年に中国の初代皇帝)は、不老不死の薬を探すように役人たちに命令を下していました。
遺跡から発掘された木簡によると、都から遠く離れた辺境の地の役所にまでその命令が届いていた事や、各地方の役所からの報告(調査中。候補の薬草がある。など)があったことが分かっています。
始皇帝の時代に比べれば、高度に医学の発達した現代ですが、不老不死の薬は見つかっていません。どんなに長生きな人でも、120歳を超えて生きることはできないようです。それが人類の種としての限界なのかもしれません。
人が一生の間に使える時間は限られているわけです。どんなにお金持ちであっても、どんなに権力を持っていても、どうすることもできないのがその人の寿命であり、です。
しかし、実は私たちは、「失われた時間を取り戻す」という意味では時間を買うことはできませんが、他の意味では「時間をお金で買う」ことができるし、日常的にそういうことをしているのです!
節約できる時間を買う
東京都の郊外に高尾山という標高599メートルの山があります。軽登山、ハイキングのスポットとして、都民や近県の人たちにとても人気のある山です。今、新宿に住んでいる人がこの山に登ろうとしたとき、まずは麓までの約40キロメートルの距離を移動しなければなりません。もしも歩いていくならば、約10時間くらいかかるでしょう。それでは麓に着くまでに疲れ切ってしまいます。
普通は電車で行きますよね。京王線新宿駅から高尾山口駅までにかかる時間は、時間帯によって違いますが、日曜日の朝なら35分ほどで行ける特急電車があります。それに乗れば、歩いていくのに比べて約9時間半早く着きますので、それだけ時間が節約できることになります。
この電車の運賃は390円(現金の場合)です。ということは、390円で9時間半分の時間を買ったのと同じだと考えられますよね。1時間あたりわずか41円で買えたことになります。
今度は、東京から大阪に行くことを考えてみましょう。その距離は約400キロメートルです。この距離を歩いていくと、飲まず食わずで歩き続けても約100時間かかります。しかし、新幹線に乗っていけば、14400円(正規の料金で指定席の場合)です。
時間は2時間30分(便よって多少の違いあり)ですから、節約分は約97時間半。この97時間半の時間を節約するために、14400円のお金を払ったわけです。1時間あたり、147円で時間を買ったということになります。
ただし、実際には100時間ぶっ続けで歩くことは不可能ですね。鉄道ができる時代までは、旅人は途中で宿に泊まりながら、1週間くらいかけて歩いて旅をしていました。現代でももし歩いていくならば同じでしょう。
だから新幹線で行くことは、もっと長い時間と、1週間分くらいの宿代が節約できることになります。同じように、タクシー、飛行機、などでも考えてみると面白いと思います。どんな計算結果がでるでしょうか?
楽しい時間を買う
今度は、楽しい時間をお金を出して買うという観点で考えてみましょう。たとえば、映画です。いま映画館での鑑賞料金は、1800円に設定されているところが多いようです。もしも、2時間の映画を見て楽しんで満足できたならば、1時間あたり、900円で楽しめた。1時間あたり楽しい時間を、900円で買ったということになります。
テーマパークはどうでしょうか。ディズニーランドにもユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも様々なチケットがありますが、たとえば、7000円で一日遊べるチケットを買えたとしましょう。それで、朝9時から夜19時まで、10時間遊んで楽しい一日を過ごせるならば、1時間あたり700円となります。(もちろんこの他に、食事代やお土産代などの出費も加わってくるわけですが)
ゲームは?もうすでにゲーム機械の本体を持っているとして、あるゲームソフト1本を6000円で買ったとします。映画に比べると3倍以上高いですが、そのゲームをクリアするまでに100時間遊べたとすると、1時間あたりはわずか60円です。わずか60円で楽しめて大きな満足度がえられるのであれば、映画やテーマパークに比べるととても格安ですよね。逆にいえば映画はとても贅沢な体験であるといえるのかもしれません。
同様にして、スポーツ観戦、観劇、ライブ、などの料金も時間あたりに換算して比較すると面白そうです。最後に、究極の例になりますが、月旅行はどうでしょう?2018年に、実業家・前田友作氏は、アメリカのSpaceX社の月旅行に参加(共同計画)をすることを発表し、世間を驚かせました。出発は2023年の予定です。宇宙船で月へ行き、月の周りをまわってから地球に戻る、約1週間程度の月旅行になる予定のようです。
前沢氏は、6人~8人のアーティストをこの旅に招待するとのことです。費用については詳しいことは発表されてませんが、一人あたり約100億円くらいではないかと推定されていて、招待ですから全額、前沢氏が負担することになります。
この旅の1時間当たりの費用は、100億円÷168時間(7日間)=約6000万円です。1分間あたり約100万円。個人の旅としては、人類史上最も贅沢な旅になりそうです。その旅は、どんな体験になるのでしょうか?
秦の始皇帝は、不老不死の薬を手に入れることはできず、即位11年後に亡くなっています。どんなに絶大な権力を持っていても、時間だけは自由に手に入れ事はできないわけですね。これから先、時代が変わり世の中が大きく変わっても同じです。
しかしながら、時間を買うことはできないが、「時間の節約」や「楽しい時間を得る」という意味では、お金を出して時間を買うことができるのですね。また別の機会に、さらにこのテーマを掘り下げたお話をしたいと思います。