米国経済はコロナ禍拡大で失速も
米国民の多様性
米国では民主党がジョージア州の上院2議席を制したことで、大統領も含め「トリプルブルー」という予想外の幸運を手に入れた。
市場では「バイデン政権の閣僚人事も承認され、直ちに不都合な大統領令も廃止され、大型の追加景気対策を早期に実施するだろう。企業増税もひとまずパンデミック下では棚上げであろうと完全なウエルカム姿勢となっている。
昨年11月の大統領選直後から12月末までは「上院で共和党の主導権が続くので、ねじれ議会となれば、バイデン政権の法人増税は阻まれる」との読みで動いていただけに、あまりの御都合主義に啞然とするばかりである。
では、バイデン民主党政権は米国経済を明確に立ち直らせ、パンデミックもワクチン接種の
拡大効果で早期に収束していくのか、というと、やはり疑問符が付く。最大の要因がバイデン自身の「政治力の欠如、政治哲学の無さ」にあることは既にお伝えした。
実は、それともう一つの重要なファクターとして「SNS(ソーシャルネットワークサービス=ソーシャルメディア)の台頭がある。
まずは、米国の「多様性」について記しておこう。米国で使われている公用語が英語であることは誰もが知っているが、続いて多く使用されているのはスペイン語である。これも合衆国の歴史上、当然である。
しかし、これ以外での使用後(家庭内やコミュニティーでの日常語)は多岐にわたっている。カリフォルニア州とネバダ州はフィリピンの公用語であるタガログ語であり、サンフランシスコのすぐ南にあるデイリーシティとロスアンジェルスには巨大なフィリピン人コミュニティーが存在している。
ワシントン州とユタ州は中国語、オレゴン、テキサス、オクラホマ、カンザス州はベトナム語、アイダホ、モンタナ、コロラド、ワイオミング、ノースダコタ州はドイツ語。これはドイツ系移民がそのまま多く残っている証拠である。ミネソタ州は何とソマリア語である。これは米国の難民対策としてソマリア人をミネソタ州に送り込んだ背景がある。
ウィスコンシン州はモン語というベトナム北部やラオス近辺の民族の言葉である。1970年代のベトナム戦争で、米国側で戦い、米国撤退後にベトナムを追われて、その多くが難民となり、米国が受け入れてウィスコンシン州とミネソタ州に送られたという背景がある。
さらに驚くのは、ミシガン、テネシー、ウエストバージニア州がアラビア語なのである。ミシシッピーとジョージア州は韓国語、そして北東のメイン州やバーモント州などはフランス語、
ロードアイランドやコネチカット州はポルトガル語、アリゾナとニューメキシコ州は先住民の言葉であるナバホ語である。
米国は、これほど多様な国なのである。米国がもし、英国やドイツ、日本のような議会制度だったら、地域や文化国別に多数の中小規模の政党が連立するような形になったであろう。
しかし、米国は上院での議席数は各州2つ、選挙の勝敗はwinner takes all(「戦いに勝ったものがすべてを獲得する。」により各州で決まるといった仕組みなので、小さな政党は全く議席が取れない可能性が高く、大きな党を作るようなインセンティブが働き、二大政党が戦う構図となってきた。逆に言うと、ここまで多様な国をたった2つの政党でカバーしなくてはならないのである。
したがって、どの地域のどの有権者の、どの価値にハマる政策を立案するか、どのような人格の候補者を立てるか、どうのような制度を導入するかといった計算が極めて難しいのである。
こうした理由もあり、民主党がどうしても獲得したいペンシルベニア州の票を取るために、
民主党全体としては環境保護政策やクリーンエネルギーを支持しているにもかかわらず、
バイデン氏は大統領との対論で「フラッキング(水圧破砕法)をサポートする」と発言。
フラッキングは石油を採掘する手法であるが、大量の水を使って地中を横に掘るため、地盤が緩み地中の石油が様々なところに押し出されて水源などを汚染しているとして、環境保護団体から猛反対されている。しかし、ペンシルベニア州の経済にとっては重要なので、重視しなくてはならないというわけである。
こうした政策的には明らかに歪んだ構図は他にも数えきれない程ある。また米国は大きな国土であり、地形も多様である。農業に向いている平地と気候もあるが、険しい山脈が連なる地域もある。鉄道や資源を開拓するため企業が作った街が多い西部の大きな州は、そもそも人口密度が低い。
つまり、それぞれの州が自治政府に近い権力と施政権を持ちながら連邦政府として「合衆国」方式を取るしかなかった。そこで、問題となってきたのがメディアの変様だ。
SNS情報でワクチン拒否
インターネットの到来で広告業界が様変わり、大手メディアが大打撃を受けたことはよく知られている。WP(ワシトン・ポスト)やWSJ(ウォールストリート・ジャーナル)など名門の老舖が立て続けに財政難になり、大富豪に買収された。
WPはアマゾンの創設者ジェフ・ベゾス氏に、そしてWSJはフォックス・ニュースなどメディアを数多く保有するルパート・マードック氏に買収された。老舖の大手メディアは生き延びたたが、中堅メディアとローカルニュース社が壊滅的なダメージを受けた。
特にローカルニュースの場合、ローカル広告を主な収入源としていたので、瞬く間に収益が吹き飛び、廃業の嵐に襲われた。その結果「ニュースの砂漠」と呼ばれる、ローカルニュースが存在しないエリアが数多く現れた。
ここからがSNSの話になる。フェイスブックやツイッター、インスタグラムなどの世界的なサービスは、日本ではSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と呼ばれるが米国を含む英語圏ではソーシャルメディアと呼ばれている。これらのサービスが、今では実質的なメディアとして機能しているという理解が含まれているのである。米国では相当な数の人が、ソーシャルメディアを主なニュース源としている。
フェイスブックを主とするソーシャルメディアは、個別に最適化された情報をそれぞれのユーザーに提供してくれるので、多様な米国社会にはうってつけなのである。ピューリサーチセンターの世論調査では、ソーシャルメディアを主な政治源としている人は2019年10、11月時点で18%と約5人に1人である。
これはコロナ禍や大統領選の前であるが、実は同じ世論調査によると、政治に関する情報を主にソーシャルメディアから得ている人は、その他の情報源(ニュースのウェブサイトやアプリ、ラジオ、印刷メディア、ケーブルテレビ、ネットワークテレビ)から得ている人よりも知識が少ない。ソーシャルメディアは政治情報源として好ましくないのである。
そして恐ろしいことに、ソーシャルメディアよりもさらに知識が少ない人が多い唯一のメディアがローカルテレビである。2020年6月の数回に渡る世論調査結果(ピューリサーチ・センター)でも、全般の現在情勢に関する質問について正しく答えられるレベルはソーシャルメディアを主な情報源としている人は下から2番目(正解率43%)だが、ローカルテレビ組はワースト(同37%)である。因みに正解率トップ(63%)はニュースのウェブサイトかアプリ組、2位はラジオ組(61%)だった。
注目は、同世論調査でコロナウィルスに関する知識の情報源別正解率だ。ここでもソーシャルメディアとローカルテレビがブービー(最下位)だった。では、このソーシャルメディアとローカルテレビから情報を得ている人達が全体に占める割合はというと実に34%となる。バイデン大統領は「全国民の大統領として全力を注ぐ」とし、明白に「政策調整型」の政治姿勢であることを告知した。
一方、市場では「一兆円ドル規模の大型追加経済対策がコロナ禍をリカバーし、年後半には、パンデミックもワクチン接種の全土への拡大で収束に向かう」と完全な楽観な見通し。
しかし、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)のファウチ所長はコロナのワクチンについて、「フェィクニュース」は大きな障壁になり得る。ワクチンの効力を信じない人がアンチ・ワクチンのムーブメントを起こし、半世紀ほど米国では見られなかった小児麻痺などが再発しているからだ。
それと同じか、より深刻な形でコロナのワクチンに対する偽情報が出回ると国民の大部分は
ワクチンを拒否し、感染者や死者はどんどん広まっていくと懸念している」と伝えた。(11月19日)現在、実際にそうなりつつある
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部を抜粋しています。
(この記事は 2021年1月14日に書かれたものです)