バイデン政権大混迷の予兆2題
追加経済対策難航の背景
米国のコロナ禍長期化への対応としての「追加経済対策」がどうして、こうも決着できないのかと誰しもが思うし、「一体、議会やホワイトハウスは米国民・中小企業の窮状をどう捉えているんだ」と言いたくもなる。
12月1日、ようやく米議会の超党派グループが9080憶ドルの追加経済対策の法案を議会に提出した。以前より、民主党は2兆4000億ドル規模の経済対策、共和党は5000億ドル規模の同対策をそれぞれ主張してきた。今回の法案は、その中間の規模に相当し、両党共に受け入れられることを目指しているものだ。
中小企業を支援する追加給与保護プログラム(PPP)を含む追加の緊急支援を来年3月末まで実施することや、州・地方自治体への直接支援が盛り込まれているという。
また、失業給付の上乗せ措置も含まれており、4カ月間にわたって週300ドル増額される。民主党は週600ドルの上乗せを要求していた。ただし、この超党派による法案が議会で可決する可能性は小さい。
他方、同法案の提出直後に民主党ペロシ下院議長と共和党マコネル上院院内総務も、それぞれ新たな経済対策案を示している。具体的な内容は明らかにされていないが、両案の規模には依然として大きな開きがあるようだ。
マコネル氏の案には、給与保護プログラム(PPP)などの企業支援3300憶ドル、学校やワクチン、農業向け資金やビジネス会食の税控除復活も含まれているという。
追加経済対策を巡る議会審議は、何か月にもわたって膠着を続けてきた。両党間での合意の妨げとなっていたのは11月の大統領・議会選挙だった。安易な譲歩が選挙結果に悪影響を与えることを双方ともに警戒したのである。
選挙が終わったことで、両党間はより合意しやすくなったようにも見えるが、実際はなお楽観を許さない状況と解釈すべきであろう。経済対策を巡る両党の審議は、あたかも大統領選挙の延長戦のような性格を強める可能性があるからだ。
現時点では、トランプ大統領は共和党が主張する5000億ド規模の経済対策を支持している。他方で、バイデン次期大統領は2兆4000億ドル規模の民主党の経済対策案を強く支持している。経済対策を巡る議会審議は、あたかもトランプVSバイデンの代理戦争であるかのようだ。
トランプ大統領は、選挙前には経済対策の規模などで民主党に多少譲歩する姿勢を見せていたが、選挙後は態度をより硬化させている。
恐らく、トランプ氏は2024年の次期大統領選に出馬する意向であり、そうなれば共和党内でも、これまでと同様に「トランプ主義」が主流になる。したがって経済対策もトランプ氏の「反民主党色政策」がガチンコ的に維持されるわけで、そう易々と妥協はしない。
もちろん、共和党議員の間では、3月以降の経済対策が次々と失効することで生じる「財政の崖」が経済に与える悪影響にも配慮して、民主党に譲歩することで早期に経済対策を可決すべしとの意見もあるだろう。しかし、仮に共和党議員たちの一部が譲歩する形で経済対策を議会で可決しても、トランプ大統領はそれに拒否権を発動できる。
ゆえに、経済対策を成立させるためには、共和党はトランプ大統領に受け入れられるものとしなければならず、その結果、民主党に対して安易に譲歩はできない構図となっているのである。
もし、経済対策が早期に議会で可決されることがあるとすれば、それは民主党側が譲歩する場合でしかないだろう。バイデン次期大統領は、来年に新政権が発足すれば直後にインフラ投資の拡大などの経済対策を実施する考えを示している。
年内には、共和党に譲歩して共和党も受け入れる比較的小規模での追加経済対策を受け入れて可決させ、「財政の崖」の悪影響をできる限り小さく抑える一方、民主党が望む政策は、年明け後にバイデン政権下で改めて実現すればよい、との考え方もあり得よう。そうした方向が民主党内で台頭すれば、経済対策が早期に議会で可決される可能性は残る。
しかし、今回の議会選挙では、民主党は下院で議席を減らし、また上院では過半数の議席を得ることに失敗している。民主党主導の政策が簡単に議会で可決される状況ではない。こうした点を踏まえると、バイデン政権が思った通りに経済対策を実現できる余地は限られるだろう。
冷静に分析する以上、新政権発足前の追加経済対策で共和党に大きく譲歩してしまうことは、イコール=「発足当初からのバイデン弱体政権」なる刻印を押されかねない。
大統領選は、選挙の不正を理由にトランプ大統領が敗北を認めず、政権移行が円滑に進まない事態が続いている。一種の政治空白である。また、選挙を挟んで新型コロナ問題に対応する追加経済対策を巡る議会審議は、空転を続けている。
これらは、米国民主主義の弱点を露呈するものだ。その結果は米国民の生活と世界経済に大きな犠牲を強いている。市場が日々のペロシ下院議長、マコネル上院共和党院内総務、トランプ大統領、バイデン次期大統領の言行に一喜一憂しているのも、どうかしている。大局の読みを骨太に持つべきだろう。
議会上院選挙結果の重要度
来年1月5日の上院決選投票(ジョージア州2議席)の行くえが今も混沌としている。全議席が改選された下院(定数435議席)は、現時点で民主党=222議席、共和党=207議席が確定したと報じられており、共和党が議席を幾分増やしたものの、民主党が引き続き多数党を維持する形となった。
大統領選がバイデン氏勝利で確定した場合に、バイデン氏と民主党の掲げる政策の実現度合いは、上院の主導権をどちらの党がどの様に握るかに大きく左右される。
現時点での上院選挙結果(定数100議席)は共和党=50議席、民主党=48議席(民主党系無所属含む)。
上院の票決で可否同数の場合には上院議長を兼ねる副大統領が票を投じるためバイデン民主党政権であれば、共和党は上院の主導権を握るために51議席が必要となる。即ち、共和党はジョージア州決選投票で1議でも獲得すればよいことになる。
もっとも、民主党が上院で主導権を握った場合でも、掲げる政策の多くを容易に実現できるわけでもない。上院では法案審議の過程でフィリバスター(議事進行妨害)が認められており、それを打ち切るクローチャー(討議終結)を決議するためには基本的に60票が必要となる。
但し、審議時間に上限が設けられていてフィリバスターの対象にならない例外扱いの法案もある。代表的なものは予算決議の中で財政調整と呼ばれる措置の対象に指定された法案であり、過半数で可決できる。
フィリバスターとクローチャーに関する上院規制については、1975年にクローチャーに必要な票数をそれまでの3分の2から5分の3(60票)へ引き下げた後は、主要な変更が最近まで行われてこなかった。
しかし党派対立が強まるなかで、フィリバスターは議会運営・政策運営を停滞させるとして、近年は2度、運用の変更がなされている。
1度目は、オバマ前政権下の2013年11月。上院には大統領の指名人事を承認する権限があるが、民主党のリード院内総務(当時)が主導して最高裁以外の下級裁判所の判事と省庁高官の承認に際しては、クローチャー決議に必要な票数を過半数に引き下げた。
2度目は、トランプ政権下の2017年4月。共和党マコネル院内総務が主導して最高裁判事の承認に関しても同様の変更を実施した(トランプ大統領が指名した保守系最高裁判事3名も賛成派60票以下で承認された)。
こうした流れの中で、民主党は今回の選挙前の時点では、上院を奪還した場合に一杯法案の審議においても過半数での可決を可能とすべく更なる変更も辞さない構えにあった。
しかし、上院で主導権を握っても議席数は最大でも50(ジョージア州の2議席勝利の場合として)に止まる状況下、既にこうした変更に明確に反対している民主党上院議員がいるため、それが実現する可能性は、ほとんどない。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。
(この記事は 2020年12月9日に書かれたものです)