身の毛もよだつスーパーシティ構想 過激な構想
政策ブレイン竹中平蔵氏
菅首相が、政策ブレインとしての竹中平蔵氏(内閣官房補佐官・未来投資会議メンバー・国家戦略特区諮問会議の中枢メンバー)に、深く寄添っていることは周知の事実であり、菅政権の「新自由主義」が竹中氏の考え方に沿ったものであることも、ジャーナリストたちは誰もが知っている。菅氏が、小泉政権時の「竹中総務相」下で副大臣を経験し、郵政民営化などの構造改革の司令塔の一員として学んだことが余程、「血肉」になったのだろう。その竹中氏が、8月に「ポストコロナの日本改造計画」を刊行した。
その中でぶち上げた構想が「スーパーシティ構想」なるもので、デジタル資本主義へのシフトは、パンデミックで一気に加速すると同氏は述べているが、格好の舞台として想定されているのが「スーパーシティ」なのである。
同構想では、AIなど最新のICT(情報通信技術)を駆使した次世代型都市で、「自動走行」、「ドローンでの自動配達」「キャッシュレス決済」「行政サービスのIT化(電子政府化)」「オンライン(遠隔)診療」「遠隔教育」などが計画されている。経緯を振り返れば、2018年10月に「スーパーシティ構想の実現に向けた有識者懇談会」が設置され、その座長に竹中氏が就任した。
国家戦略特区法の改正案である「スーパーシティ法案」は、コロナ禍のどさくさの中で、今年5月に成立したが、スーパーシティ法の産みの親が、竹中氏であることは明らかだ。
「新しいことは何でもやってみる。実験の場を作ることが重要で、そこから出てきたのが「スーパーシティ」の考え方です。コロナ危機の混乱の中でこの法律が成立したことには、きわめて大きな意義があります。これは国家戦略特区をさらに強化し、AI(人口知能)や、ビッグデータなどの最先端技術を活用したスーパーシティを作り、新しいことを全部やってみようという試みです」と竹中氏は著書で語っている。
新自由主義の実験場
スーパーシティ法案成立の過程で興味深い出来事があった。竹中氏を座長とする有識者懇談会が最終報告書をまとめた2019年2月から、政府は持区法改正案の作成にとりかかったのであるが、内閣法制局から横やりが入った。スーパーシティに指定された自治体が、国が定めた複数の規制を一挙に緩和できる条例を制定できるという構想だったからである。
竹中氏がスーパーシティを「ミニ独立国家」と呼んだものも、自治体が国を超えるような強い権限をもつからだ。ところが、地方公共団体は国の法律の範囲内でしか条例を制定できない。これを規定した憲法94条に反すると内閣法制局が待ったをかけてきたのである。結局、この点は修正されることになったのだが、このエピソードは「スーパーシティ構想」が何を狙っているかを如実に物語ることとなった。
つまり、ミニ独立国家であるスーパーシティでは、政府の役割が究極的に縮小され、企業が自由奔放に活動できるということだ。だから、野党などからは監視社会を警戒する声や、個人情報が特定の企業に流れることへの懸念の声が上がった。実際、本来必要な規制までが住民の意向を無視して撤廃される懸念がある。
ポイントは、「スーパーシティ法案」は国家戦略特区法改正案であり、特区での規制緩和をさらに過激に推進するための構想だというところにある。もっと突き詰めて言うと「国家戦略特区」は1%が99%を支配するための政治装置なのである。なぜかといえば、特区という仕組みは国民の声を反映させる場というより、むしろ少数派の主義を法律、制度で正当化し、グローバル企業の要望に沿って規制緩和を断行できる立て付けになっているからだ。
その意味では、特区を上回る「規制緩和の実験場」を実現させるスーパーシティ法こそ、「1%が99%を支配するための政治装置」にほかならないのである。実はスーパーシティ構想を可能とした国家戦略特区制度を提唱したのも竹中氏である。第二次安倍政権の発足当初、安倍総理は竹中氏を経済財政諮問会議のメンバーに起用しようとしたが、麻生副総理らの反対で実現しなかった。
新設の産業競争力会議(現・未来投資会議)の民間議員に甘んじることになった竹中氏は、そこで国家戦略特区を提唱し、国家戦略特区諮問会議という新たな会議を産み落として自らが中枢メンバーとなった。驚くべきは、特区諮問会議が内閣府設置法の「重要政策会議」に位置づけられたことだ。経済財政諮問会議、総合科学技術会議など4つしかない「重要政策会議」に、竹中氏提唱の新たな会議があっさり仲間入りしたわけである。
こうしてみてくると、国家戦略特区制度をつくり、そこを足場にして特区をより過激な「規制緩和の実験場」に変えるスーパーシティ法を編み出した竹中氏の「仕組みづくり」の巧みさが理解できよう。彼の主張の内容だけに目を奪われるのではなく、政策を実現させる「仕組みづくり」を監視し、すでにある「仕組み」の正当性をあらためて問う必要がある。
スーパーシティ構想は大阪維新の会などと連携する形で準備が進んでいる。特区法改正前の昨年秋、大阪府・市は2025年の大阪万博開催予定地である大阪湾の人工島・夢洲を含むエリアをスーパーシティとする提案を内閣府にしている。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。
(この記事は 2020年11月05日に書かれたものです)