オイルと経済の関係を知って投資に生かそう
「お金を払うから原油を買ってほしい(売りたい)」という事態が原油で起ころうとは誰が予想しただろうか。
原油価格下落の主要因は、いうまでもなく新型コロナウイルスのパンデミックである。世界的なオイル需要の激減は、「逆オイルショック」として非常な危機感を持って報道されている。それというのもオイルは国の経済、ひいては私たちの暮らしに多大な影響を与えるからだ。
この記事では、オイルと経済の関係をテーマに、投資初心者にもわかるように重要ポイントを踏まえて解説していく。
オイルの下落は消費国の経済にメリットがある
原油自給率0.5%以下の日本はオイルを他国から買う消費国だ。このような国にとってオイル価格が下がることは、本質的にはメリットとなる。車やバイクを所有する人ならば、ガソリンが安くなったタイミングを狙って給油するなど、工夫している人も多いだろう。こうしたケースを考えれば、経験的にもわかりやすい。
仮に1バレル100ドルで取引されていた原油が50ドルに下落したとしよう。日本では年間おおよそ12億バレルの原油を輸入しているので、約7兆円の経済効果がある。世界のオイル消費国全体では、ざっと見積もって年間70兆円が得になるのだ。
2014年からの下落局面では1バレル30ドル水準となった。2020年の下落では、このままの状況が続けば、20ドル前後水準で推移するようになるのではないかといわれている。仮に25ドルなら日本では14兆円の恩恵を受けるはずなので、新型コロナウイルスの被害の一部も取り戻せそうな額である。
しかし、事はそう簡単ではない。鎖国状態なら違うのかもしれないが、現在のようなグローバル経済の時代では、オイル産出国の経済が日本経済にも大きな影響を与える。とりわけアメリカ経済によって左右されるところが大きい。
オイル産出国は価格が上昇するほうがよい
オイル産出国にとっては、本質的にはオイルの価格が上昇したほうがよい。ロシアとサウジアラビアが結束して原油価格を下落方向に操作していたが、これはアメリカという競争相手を負かすための一時的な戦略にすぎない。
アメリカで石油・天然ガスの新たな抽出方法が実現したシェールガス革命以後、ロシアやサウジアラビアは苦渋をなめてきた。1バレル40~50ドルあたりが採算ラインのシェール会社を追い詰めて主導権を取りたかったのである。仮にそうなれば、当然、今度は価格を吊り上げ始めるだろう。
オイルの産出国で例外的な存在はアメリカである。なぜなら、アメリカは世界一の原油産出国であるとともに、世界一の消費国でもあるからだ。オイルというと中東のイメージがあるが、現在では産出国1位がアメリカ、2位サウジアラビア、3位ロシアとなっている。
そのため、オイルが下落すれば、消費国のメリットと産出国のデメリットが同時に生じる。ただ、産業のバランスなどを考えると、消費国としての面がやや強いといえるだろう。
オイル価格が経済に影響を与える仕組み
ここでは、オイルの価格変動がどのように経済に影響を与えていくか解説する。下落の場合で説明するが、上昇の場合は基本的に影響や結果を逆に考えればいい。オイルの価格が経済に影響を与えていくプロセスは以下のとおりだ。
1.世界経済が不況になり、原油の生産過剰や在庫が増えるなどして原油価格が下落する
2.原油輸入価格が下がる
3.一般世帯でガソリン・灯油価格、ガス代、電気代などエネルギー購入費用が下がる
3’.企業側で中間投入コスト(原材料や運送費用など)が減り、商品・サービスを安い価格で提供できる。つまり、短期的には物価(代表的な指標は消費者物価指数)が下がる
4.家計に余裕が生まれたことで、一般世帯の購買力が高まる
4’.企業の収益が増加する
5.4と4’により実体経済の需要と供給のバランスが改善される
6.企業の業績が向上し給料が上がるなどして、中期的には物価が上昇に転じる
実際には、原油価格が極端に下がれば、政治的介入などが発生することが多く、国際貿易の交易条件が見直されることになる。また、物価が下がったからといって、必ずしも経済が上向くわけではなく、需給バランスの改善が行われた場合に限る。
通常、オイルの価格が下落すると、一般家庭の支出が少なくなり、物価が下がることもあって短期的には消費者マインド(買い物に対する消費者の意識)が上向くことが多い。それが企業の収益アップを後押しする。逆に、オイルの価格が上がれば消費者マインドは下がる。
オイルが日経平均株価に与える影響
オイルの価格が経済に与える影響をこれまでみてきた。その過程でオイルが経済の先行指標になるのではないかと思った人もいるだろう。たとえば、「長期的にみればオイルの下落は日本経済にとってメリットだから、下落を始めたタイミングで日本企業の株に投資をすれば利益を上げられるのではないか」といった考え方だ。
しかし、オイルが経済に影響を与えることもあるが、経済の現状や将来の見通しがオイルの価格に影響を与えることもある。そのため、オイルの価格が下がっても日経平均株価は上昇しないことがある。むしろ、連動して下落することも多いのだ。
ご存じのように、今回のオイル価格の下落は新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界経済が減退し、需要が急激に減ったのが原油急落の要因だった。世界を取り巻く現状と経済予測がオイルの価格を下げたことになる。
都市封鎖(ロックダウン)などが発生している2020年5月現在では、1日2000万バレルほど落ち込んだ日もあると試算されている。各国で協調して日量970万バレル減産しようということになっているものの、減産量以上に消費量が落ち込んでいるため、このままではオイルの価格は上昇しないだろう。
オイルの価格が上がらなければ、
・オイル産出国の財政悪化からによる日本企業の株売却が増える
・オイル産出国や資源関連産業の景気悪化が進む、または景気が回復しない
・特に米国では、シェール企業の採算悪化、資金繰り悪化から破綻が相次ぐ。
・シェール企業に融資する金融機関の経営まで危なくなる
・広い意味で、金融市場の信用収縮、資金の引き上げ、株価の下落を伴う
・日本や世界各国のデフレが進む
という状態になる可能性がある。日経平均株価とオイルの下落が相乗効果で働き、どうにもならない負のスパイラルに陥る恐れがあるのだ。逆オイルショックやコロナ大恐慌になると唱える専門家の意見も多い。日本のデフレ脱却が大幅に遠のくことも懸念されている。
今後を見据えたうえで、まず原油価格の底入れが急務で、OPEC(石油輸出国機構)や非加盟国の協調減産が求められる。
すでに各国中銀は利下げや量的緩和に転じ、各国政府も財政出動に動いている。長い目でみれば、新型コロナウイルスの収束に伴い、原油需要の回復からオイルの価格は徐々に底入れしてもおかしくない。
オイルに投資する具体的な方法
一般の個人投資家にとって、オイルの取引はマイナーといっていいだろう。原油は金融派生商品のなかで最も取引量が多いが、個人でトレードしている人は少ないのではないだろうか。
個人投資家がオイルに投資する場合は、通常、CFD口座を開くことになる。CFDとは差金決済取引のことで、現物の受け渡しをしないで金銭の取引だけを行うことをいう。日本の業者のほとんどは、商品先物取引会社を介して間接的に取引をする方式となっている。ちなみに、FXもこのCFDの一種である。
少額の余裕資金で投資をするなら別だが、投資初心者の場合、少なくとも現在(2020年5月時点)のような大荒れの状況では、投資対象としては慎重に考えたほうがいいだろう。オイルの価格動向は情報の一つとして活用する程度にして、(市場の流動性という観点からも)もっと価格変動がゆるやかな銘柄や通貨などを取引したほうが無難だ。
投資に詳しい人や信頼できる投資顧問会社からアドバイスを受けられない場合は、急落時に底を拾おうなどと安易に考えないほうがいい。「落ちてくるナイフはつかむな」という言葉があるように、情勢が落ち着くのを待ってはどうだろうか。上昇に転じてから行動を起こしても遅くはない。将来に備えて投資スクールなどで勉強しておくのもよい方法だ。