ESG投資とは(SDGs)
ESG投資やSDGsという言葉がよく聞かれるようになった。例えば、スターバックスのストローが紙製に変わったことが、これらと関連してメディアで伝えられている。小泉環境相が「ESG活動に熱心な企業を後押ししたい」などと発言したこともあった。
高まるESG投資の機運といったところだが、そもそもESGとは何か、知りたい個人投資家も多いのではないだろうか。この記事では、ESG投資・SDGsの基礎知識から始め、投資スタイル、メリット・デメリット、投資方法について紹介する。
ESG投資とは
ESG投資とは、財務情報に加えて、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の要素を評価して投資することをいう。
Environment(環境):Co2削減に積極的であるかどうかなど、再生可能エネルギーを使っている、環境保護に取り組んでいるなども評価のポイントになる。
Social(社会):ダイバーシティ(多様性)推進や女性の社会進出など人権問題に取り組んでいるか、地元経済へ貢献をしているかなど、人的資本に対する健康管理や教育への姿勢が評価される。
Governance(ガバナンス):利益を追求しつつ贈賄や粉飾決算などの不祥事が起こらないように企業統治されているかが評価される。財務状況の透明性、積極的な開示などもこの要素に含まれる。
SDGsとは
SDGsはESG投資と関連して取り上げられる言葉だ。「Sustainable Development Goals」の略で、「持続可能な開発目標」などと訳される。2015年の国際連合において、環境問題や貧困問題、フェアな競争などあらゆる課題に総合的に取り組むことにより、接続可能で多様性のある社会を実現しようとする考え方である。
すでにお気づきだろうが、SDGsが掲げる目標はESG投資との関係が深い。そのため、SDGsに関連してESG投資が論じられることも多く、ESG投資と同じ意味でSDGs投資と言われることもある。
国策に売りなし!ESG投資が注目される背景
「国策に売りなし」という相場格言がある。ESG投資は国策を超えて世界的な流れであるため、これに逆らうのは得策とは言えないだろう。実際、資金の流入も増加している。世界サステナブル投資アライアンス(GSIA2016)の資料によると、2016年時点でESG投資はすでに全世界の機関投資家の全運用資産の4分の1に達している。ただ、日本を含めたアジアの比率はまだまだ低い。以下は経済通産省のサイトにある「ESG市場の拡大」である。
※引用元:ESG投資|経済産業省
それでも日本の伸び率は顕著である。2016年でESG資産保有残高は2720億ドルだったが、2018年には21800億ドルであった。欧米ではすでに鈍化しているが、出遅れ感があった日本の急進が目立っているのだ。ただ、2019年のCOP25では温暖化対策が進んでいない国に贈られる「化石賞」を受賞している。ESG投資先としての日本企業は、環境面で総じて魅力的とはいえない面がある。
ESG投資のさまざまな投資スタイル
ESG投資といっても投資スタイルはさまざまである。経済産業省がESG投資の手法として引用しているGSIAの資料を見てみよう。それぞれの投資スタイルを投資初心者向けにおおまかに解説する。
※引用元:ESG投資|経済産業省
テーマ投資に似たスタイル
ESG投資のうち「ネガティブ/排他的スクリーニング」や「ポジティブ/ベスト・イン・クラススクリーニング」、「規範に基づくスクリーニング」は、広い意味で株式投資の銘柄選択、テーマ投資のようなものと考えていいだろう。
たとえば、ネガティブスクリーニングでは、石油関連銘柄はCo2排出で社会的な批判も強くなるから投資対象から除かれる。逆に、再生可能エネルギー開発などをしている企業は、ポジティブスクリーニングで積極的な投資対象になる。規範に基づくスクリーニングにより、環境保護で国際基準をクリアしている企業を選ぶ方法もある。
「サスティナビリティ・テーマ投資」も、その名のとおりテーマ株投資に近い。ESG・SDGs関連銘柄として資金が流入し、株価が上がるのを期待する投資手法といえる。もちろん、これほど単純に分類できない点はあるが、個人投資家の理解としては大きく間違っていないはずだ。
プラスアルファの情報としてESGを含める投資スタイル
テーマ投資のようなスタイルはESG評価が全てではないが、重要視されていることは間違いない。それに対し、財務情報にプラスアルファする形の投資スタイルが「ESGインテグレーション」である。要するに、分析精度を向上させるために、従来の財務指標などにESGの要素を加えたものだ。すでに多くの格付け会社はESGを分析に加えている。証券会社やアナリストの推奨銘柄なども、実はESG評価が含まれていることも多いのだ。
社会貢献としてのESG
ESG投資が特徴的なのは、社会貢献的な意味での投資が可能なことだ。自分の価値観に一致するESGに取り組む企業を投資によって応援する方法に「企業エンゲージメント」がある。これには株主になってESGの取り組みを働きかけることも含まれる。
より積極的に支援したいなら「インパクト/コミュニティ投資」と呼ばれるものがある。収益期待が含まれることがあるが、主に投資家が好ましいと考える社会や環境へのインパクトを狙って投資する。
このような投資収益が二の次、あるいは収益と企業支援が同じ価値を持った投資スタイルは広まりつつある。The Economist誌は「ベビーブーマー世代(第2次世界大戦直後に生まれた世代)は善行と投資を分けて考えるが、ミレニアム世代(2000年以降に生まれた世代)はそれを区別しない」といった指摘をしている。
ESG投資のメリット
ESG投資のメリットを紹介する。
大きな流れは買い
「国策に売りなし」という言葉を紹介したが、ESG投資が世界的な流れであることは確かだ。今後も国による企業支援は続くだろう。また、機関投資家もおおっぴらに環境破壊や人権無視などをしている企業を投資対象に選べない。長期的に見れば、ESG評価の高い企業に資金が流れて企業の成長を支えると見られており、投資家はESG投資で利益を得ることが期待できる。
安定性がある・長期投資に向く
ESGやSDGsに関心が高い企業は、経営的に安定している可能性が高い。大抵の場合、余裕資金を社会貢献分野に回すからだ。また、企業イメージを高めることで顧客と信頼関係を築こうとしているとも捉えられる。つまり、長期的な視野に立って経営していると考えられるのだ。
このような姿勢は、短期的な利益を追求する企業には少ないだろう。利益最優先の企業の株価が急落する例は多いので、こうした企業を避ける指標としてESGやSDGsが使えるのだ。ESG投資が長期投資向けと言われるのには、このような理由がある。
投資を通じて社会貢献ができる
地球温暖化対策や貧富の格差是正などの問題に心を痛めている人もいるだろう。「せっかく投資するなら自分の価値観に合った企業を選びたい」と考えているならESG投資は選択肢の一つだ。
ESG投資のデメリット
ESG投資のデメリットは以下のとおり。
短期的にはリターンが生まれにくい
先にも紹介したように、ESG投資の投資先は短期的な利益を狙う企業が少ない。長期的に利益を上げられる可能性は高いが、短期的には収益を上げにくいのだ。長期投資や配当目的など、ゆったりした投資スタイルを好む人に向いており、リスクを取って短期間で利益を上げようとする投資スタイルやトレードに向かない面がある。
投資先を選ぶのが難しい
財務状況にESG評価を加えることで、分析が複雑になってしまうことがある。特に投資初心者の場合、分析過多で決断できなくなってしまったり、偏った分析結果を出してしまったりすることもあるだろう。また、利益追求と社会貢献などのバランスを考える必要もあるため、経営コンサル的な能力も必要となる。投資経験の少ない人がESG投資をしたい場合は、投資スクールなどでしっかり基礎を学ぶか、信頼できる会社から助言をもらったほうがいい。
不確定要素が大きい銘柄・債権もある
ESGの要素のなかで明確な基準がなく、特に先行きが見えないのがS(社会)である。主に政治状況の変化で大きく価値が変動するからだ。安定した長期投資を考えているなら、Sに不安定要素が多い投資先は避けるべきといえる。特に発行元が政府である国債は、情報が非公開で政策の転換も独断的に行われる。そのため、ESG投資において信用の格付けが非常に難しいと言われているのだ。
ESG投資の具体的な方法とは
個人投資家がESG投資をするには主に二つの方法がある。一つはESG評価を行っている投資信託(主にESG関連投信)に投資する方法だ。もう一つは、自分でESG評価をして銘柄を選ぶことである。
ESG関連投信に投資する
大手金融機関が運用しているESG関連投信の一部を以下に紹介する。
・三井住友DSアセットマネジメント「世界SDGsハイインカム・ファンド」
・ニッセイアセットマネジメント株式会社「日本株式ESG資産形成ファンド」
・野村アセットマネジメント「野村ACI先進医療インパクト投資 Bコース 為替ヘッジなし 資産成長型」
・日興アセットマネジメント「日興エコファンド」
ただし、日本株に投資するESG関連投信の平均リターンは、残念ながら日本株投信全体の平均以下である。欧米に比べてリターンが低い傾向があることは知っておきたい。
自分でESG関連銘柄を探す
自分でESG関連銘柄を探す場合、資産運用の研究所や指数算出会社がスコア化したESG指標を使うのが一般的だ。専門的な知識がないかぎり、個人投資家が企業をESG評価するのはとても難しい。
例えば、世界的な指数算出会社として知られるMSCIは「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」というESG評価の株価指数を出している。最上位ランクAAA~最下位ランクCCCで評価されているので、投資初心者でもわかりやすいのではないだろうか。ホームページで公開されている2017年のレポートによると、AAAにはダイキン工業、住友化学、デンソーなどがある。逆にCCCは東京電力、東芝、三菱自動車などとなっている。
もちろん、MSCIの指数だけで銘柄を決めるはリスクが高い。あくまで一例だが、AAAでスクリーニング(ふるい分け)してから、チャートや信用倍率、ROEなどでさらに銘柄を絞り込むなどしてはどうだろうか。これなら投資初心者も無理なくESG投資の観点を取り入れられるだろう。
ただ、投資スキルに自信がない場合は、まずは投資について学ぶことが優先だ。ESG投資はやや特殊で新しい分野になるので、知識やノウハウを提供している投資スクールなどで学び、必要に応じて投資助言を受けることをおすすめする。
以上