英国はFTA成立と追加金融緩和へ
交渉妥結に向けた非常に強い政治的意思
第一に、英・EUとも、交渉妥結に向けた非常に強い政治的意思がある。
まず経済的要因だが、欧州は秋以降パンデミック第二波に襲われ、ロックダウンを含む厳しい制限措置の導入を余儀なくされており、景気の二番底の恐れも高まりつつある。ハードブレグジットとのダブルショック回避は両社にとって至上命題だ。
次に政治的要因だが、パンデミック対策失敗により、ジョンソン英首相の求心力が低下。年初に20%あった与党と野党労働党の支持率差は、今や消滅してしまった。イングランド北部・中部の「新しい保守党支持者」を繋ぎとめるためにも、保守党支持者の多くが望むEUとのFTA交渉成功に導く必要がある。
英国の成長戦略確保も重要だ。英国はポストブレグジット成長戦略の要に「グローバル・ブリテン」(貿易のFTAカバー率を3年以内に80%とする)を掲げるが、ベルファスト合意(EU基本合意)を棄損する国内市場法案を強行した場合、バイデン前副大統領の反発等により、要である米国との包括的FTA締結が困難になる。
最後に英国の一体性維持だ。ハードブレグジットとなった場合、親EU(2016年の国民投票では62%が残留支持)のスコットランドの独立運動を勢いづかせ(10月調査では、賛成58%反対42%)、2021年5月の地方選でSNP(スコットランド民主党)が大勝するだろう。また、北アイルランド和平が危機に瀕する恐れもある。
交渉の三大懸念
第二に、交渉の三大懸念である。
レベルプレイングフィールド(公平な競争環境)、ガバナンス、漁業権について、着実に歩み寄りの兆しがみられる。
レベルプレイングフィールドとガバナンスでは、最大の論点である「政府補助金」について、
- EU機能条約の政府補助金の精神を反映した規定をFTAに設置
- 英国が欧州委の競争総局に相当する規制機関を設置、政府から独立した権限を行使
- 英国、EU双方から独立した紛争解決機関を設置
- 同機関が解決できなかった場合、輸入品への報復関税賦課、EUプログラムへのアクセス制限
等の妥協案が出ている。
漁業権にしても、EU側の漁獲割当て量の削減を数年かけて行う段階的仕組みの導入、等の妥協案が提示されている。
2022年の大統領選を睨み、現漁獲割当て量に固執するマクロン仏大統領も割当て量削減に柔軟な姿勢を見せつつある。
批准を考慮した場合のデッドライン
第三に、批准を考慮した場合のデッドラインは11月第二週頃だと考えられ、残された交渉期間は僅か2週間足らず。
最終合意に達してから、リーガルスクラブ、交渉言語である英語からその他のEU公式言語23カ国語への翻訳、欧州議会の承認、EU閣僚理事会の最終決定等の批准手続きには6週間強を必要とする。
以上を考慮すると、今後の見通しは次の様になるのではないか。
タイムリミットぎりぎりで、関税ゼロ、数量制限無しの「財を中心とするベーシックなFTA」が締結され、国内市場法案の離脱協定抵触部分は取り下げられる。
移行期間は2020年末に終了するが、交渉が妥結した財分野について「完全適用までの準備期間」として、半年~1年程度、英・EU間の貿易に対し通関手続きの軽減等の緩和措置が導入される。
また、サービス分野等積み残し分野については交渉継続中ということで、2019年にハードブレグジット懸念が高まった時に経済の混乱を防ぐため、双方によって導入が検討された措置に倣い、悪影響の緩和措置がとられよう。
先週号で記した通り、結局は4~5年後には元の関係に近いところまで戻っていくしかないのである。
こうした中、5日のBOE金融政策会合では、「四半期金融政策報告」も公表される。ただ、来年1月1日からのブレグジット発動がどの様になるのか定かでないゆえ、これまでの見通し変更そのものはできない。
一方で、足元のパンデミック再拡大でのロックダウンに近い行動規制により、GDP成長率見通しは下方修正必至の状況になりつつあることも事実だ。
したがって、どうやら年末近くに購入額が目標上院近くに達する見込みとしていた量的緩和の拡大(資産購入プログラムの目標残高の増額)を決定する可能性が高まったとみる。
すでに10月段階でBOE副総裁や有力メンバー(MPCメンバー)がそれを示唆する発言をしている。マイナス金利に関しては、近いうちに導入を検討することはなかろう。
となると当面、ポンドは対ドルで景況・金融緩和を材料に1.28ドル割れもあろうが、EUとのFTA交渉進展で1.34ドル台への上昇もあろう。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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(この記事は 2020年11月4日に書かれたものです)