甘言には注意が必要~建築計画~
この方のトラブルの相談は2回目です。当初ご主人から建築計画の相談がありました。結局実現することはなく、今回のトラブル相談につながるのですが、学ばないことが大変な結果を招きました。最初のトラブル事例です。
設計の相談を受けた時に予算を顧みず土地を買ってしまったことを告げられます。残りの予算で建築をしなければなりません。常識的に考えて非常に厳しい予算で、必要な規模の建物が建ちそうもありません。本人も当初はそれを感じていながら、なぜ買ってしまったのか。不動産屋が売らんがために工事費を著しく低く伝えていました。建物はこのくらいでできるから、この土地を買っても十分予算内に収まるという甘い話に乗り、購入を決めてしまったのです。
買ってしまった以上、止むを得ません。建築については再考することを勧めました。しかし、この時すでにできるものと信じており、予定した規模やオープン期日は譲れないと。責任が持てない予算なので計画の見直しが求められるところですが、受け入れて頂くことはありませんでした。
結局、不動産屋と同じように予算内で建設が可能だという甘言になびき、頼んだ先はHP運営や宣伝を担う会社でした。この会社は下請けに設計事務所と施工会社を使い、リスクを回避しながら予算内でプロジェクトを代行するという触れ込みです。設計や工事費の他にこの会社のコンサルフィーまで発生します。会社が北海道にあり、飛行機代などの高額な移動費も別途必要になるとの事。
資格のない会社が設計事務所を下請けに設計監理をすること自体違法な上、なぜこのようなコストパホーマンスの悪い契約を結んでしまったのか。工事にかけられるコストを益々圧迫することになります。
自分に都合の良い話をしてくれる者を信用し、できると思いこんだ時点で思考が停止してしまったのでしょう。どちらも巧みな営業トークのなせる技です。
始めてみたら残念な結果に
そうして始まった建築プロジェクトはやはり行き詰まります。予算内に収まらず、設計のやり直し、当初のスケジュールを守ることはできず大幅にずれこみます。予定を1年近く遅れたころ、設計が終わらない、予算に収まらないと。結局時間と金と信用を失うこととなります。常識的なコストが存在します。図面や要望の確認のない段階で、著しいローコストの提案があったら警戒が必要です。
これらの業者には契約してしまえばとの思惑があることが透けて見えます。建築士の意見を聞くことなく、専門家ではない者の無責任な発言を信じたために生じた結果です。
学ばないことが最悪を招きます
この騒動から10年余り。別の建物の建て替えの相談がありました。前回のことがありましたので、今回はお願いしたいとご主人から申し入れがありました。1階に動物病院を入れて、2階以上を賃貸マンションにする計画です。ところが正式に着手する前に夫人の意向でどんでん返し。
友人にハウスメーカーに勤める方がおり、設計料はいらないから、入居者も保証する、30年保証ですとの言葉になびき、安くて安心なのでこのハウスメーカーに頼みたいと。設計料はいらないの意味をとき、入居者保証についてアドバイスをし、30年保証について意味のないことを知らせますが、変わることはありませんでした。またも甘言に、の想いです。
そして突然の電話
よく連絡をしてこられると思いますが、話を伺うと大問題が起きていました。なりふり構っていられない、藁にもすがる想いで電話をかけてきたのでしょう。動物病院は建てられないと言われ、確認申請が通らないと指摘されたそうです。どうしてなんでしょうか。伊能さんなら建ちますかと聞かれる。すでに既存の建物は解体していて、どうしたらいいでしょうかと。詳細を伺うと敷地が動物病院を建てることができない地域にあることが分かりました。結果は誰がやっても建てられません。
法律で地域が定められており、そこに建てられる用途が指定されています。場所によっては建てられない建物があります。建てられる場所かどうかの確認もせず、設計を完了し確認申請を行ったのです。
ハウスメーカーは何をしていたのでしょうか。過信なのか無知なのか。設計施工一貫方式のため設計は下請けまかせだったのか。それとも設計料はタダだからか。責任感のなさ、当事者感のなさがこの結果を生んだと言わざるをえません。法律で定められている以上、対応のしようがありません。
結論としては動物病院は諦めざるを得ません。用途を見直し合法的に運用するか、契約解除し金銭的補償を求める以外考えられません。いずれにしても建築主はまたも長い間苦悩を抱えることになります。
助けてくれるのは誰なのかを考える
この事例は防げたはずなのに、甘言に惑わされたために起きた悲劇です。味方になってくれるのは誰なのか。この相談者はいかにパートナー選びが大切なことなのかを教えてくれます。味方になりえる者は、建築主が雇った利害関係から距離を置く第三者以外にありえないのです。無責任な甘いセールストークがなくなることはありません。そしてそれは身近にあふれています。より良い結果を得るためには、転ばぬ先の杖が必要です。建築資産を取得する時に、何が必要かぜひ考えて頂きたいと思います。