建築について一般の方には分からないことが多すぎて付け入られる事例
専門家への相談は早いほど良い
建て替えの計画をしているのですがアドバイスがほしい、とその方は訪ねて来ました。これから計画が始まるのかと思いきや、目の前に大量の書類を積み上げます。上場企業である某社の設計施工で資金調達から一括借り上げと、何から何までしてくれて至れり尽くせりなのだそうです。
すでに設計図もあり立派な契約書には実印が捺されています。話はだいぶ進んでおり、後は着工を待つのみという状況でした。当人はよく分からないままに話が進み、ここに来て不安になったので専門家の意見を聞きたいということでした。しかし、遅すぎました。
小さな思い違いが大変な結果を招いてしまう
ここまで来ていては我々には何もできないことを伝えると、何時でも中止できると約束しているので相談に乗ってもらえませんか、場合によっては中止をしたいと。書類に目を通すと、契約書には契約後に中止する場合数千万円を、着工後はそれに損害額を加え支払わなければならない事が記されています。
見る限り支払いは避けられそうにありませんねと伝えると、トラブルがあった場合は無料で中止できますと書いてある、と手書きのメモ用紙一枚を見せてくれました。用心のために一筆書いてもらったそうですが、手書きで捺印もなく日付を見ると契約日の方がはるか後になっています。
メモの内容も契約前ならあり得るかもしれませんが、設計が終了し工事契約がその後結ばれてしまえば、契約書の内容に従わざるを得ません。用心の為だったメモが逆に営業マンにとって、建築主を安心させる道具となっています。営業マンは着々と手順を踏んでいるのです。
不都合なことは伝えない
相談者に伺うと、メモの内容がいつまで有効なのかは特に伝えられていませんでした。また、記載されているトラブルが何を意味するのかも知らされていません。何か建設会社とトラブルはありましたか、と伺うと特にないと言います。単に不安になったことがトラブルに該当するとは思えません。
図面を見ると手抜きの仕事と言わざるを得ません。ここに住めるのかと思うような厳しい平面計画です。枚数も少なく、詳細な情報は全く記載されていません。仕様も時代遅れと思える様なお粗末さです。
5階建てにもかかわらずエレベーターが4階止まりになっていますが、理由を知りませんでした。住宅が余っている中、賃貸案件としての魅力に乏しく競争力が期待できないことを相談者は知りません。
見積書を見てさらに驚きます。内容に比べて高額な契約金額です。驚愕の高コストは設計施工一貫方式で、資金調達から一括借り上げまで完全に囲いこんでいるためです。また、工事費以外の本来入るはずのない費用も計上され、不誠実と言わざるをえません。高いですかと聞かれ高いですと伝えると、がっかり。建築主は他社から見積もりを取ることもできず、比較対象もなく一般的な価格なのかどうか判断ができません。
危ない事業計画を勧める意図は
予定収入を見ると、年間満室で実質手取が1%未満の利回りです。
現在の敷地で経営している工場を廃業し、賃料収入で生活を維持する計画なのですが、手取額は生活上必要な最低限の金額だそうです。リスクに備えた資金が残らず全く余力のない事業計画です。生活に困らない収入があればよいと考え、問題はないと判断していたそうです。しかし、収入は賃貸収益のみになりますので、賃料が下がるような事態になれば生活を直撃します。
10年後には固定賃料の見直しが予定されています。ただでさえ競争力がなく、古くなった建物の家賃は下げざるを得ません。さらに特約で一括借り上げの契約の打ち切りも可能でることが記されています。
それ以前にサブリースビジネスでは、約束をたがえ10年契約の途中での賃料減額も続発し、トラブルや訴訟になっている事例が頻発しています。10年の契約期間をいきなり2年に短縮された事例もあるほどです。
契約を反故にされたり賃料が下がった段階で、返済も滞り生活が破綻する危機がやってきます。さらに入居率が下がれば、土地建物を失う可能性が確実に高まります。建築主にとってこれほどのリスクはありません。
これらのことは相談者にとってはまさに寝耳に水です。資産状況から事業計画の危うさや中止条件に関して、リスクを説明していたらこの事業は進んだだろうか。建築主が知り深く考えたら、別の道があったにちがいありません。営業マンはリスクを伝えていません。リスクを伝えない意図は明らかで、誰にでも想像ができると思います。
やっちまったかなあー 大きな後悔
ここまで話を聞いて、やっちまったかなあー、と一言。
がんじがらめに固められており、いいようにやられてしまいました。進むも退くもいばらの道です。中止した場合に支払う金額は、所有する土地を売らなければ捻出できないそうです。かと言って進んだところで、いずれは手放さなければならない可能性が高い。余りに気の毒な状況に追い込まれてしましました。
建設会社は建設する過程で利益を上げ、サブリースでも利益を上げ、利益が出なくなったら損失が出る前に契約解除。建設会社は何一つ不利益がありません。建築主が一身に不利益を被る構図です。
知らない、分からないにつけこむようなやり方に憤りを感じます。相談がもっと早い段階だったら、実印を捺す前だったらと無力感を感じます。残念ながら善意を期待できない会社が、建築業界には多数存在しています。他人事ではありません。
セカンドオピニオンと言う言葉は誰でも知っていると思いますが、医療の世界だけではなく、建築の世界でも常識になれば良いと思います。このような残念な結果を、少しでも避ける事ができるのではないでしょうか。
闇に飲み込まれないためには
自己責任と切ってしまうのは簡単ですが、嘘やだましがあってはなりません。嘘は言っていない、不都合なことを言わなかっただけと逃げるかもしれませんが、正当化できるものではありません。
設計施工一貫方式で資金調達から一括借り上げまで、至れる尽くせりと良い響きかもしれません。しかし、このビジネスモデルが広く行われるなか、少なくないサブリース会社が契約を守らず訴訟が頻発しています。関わった場合にはこのように悲惨な被害者になってもおかしくはありません。この闇は測りしれないほど深いのです。
紹介例は決して特異な事例ではありません。土地所有者の周りには日常的にありえる事で類似の事例は枚挙にいとまがありません。そもそも建築資産を得るパートナーとしては、危険な相手だったのです。
将来建築を考える時には、このような建設会社の利益を生む道具にされないためにも、できるだけ早い段階で弁護士や建築士など専門家に相談をして下さい。建築主の味方になれるのは唯一建設会社と利害関係のない専門家だけです。その専門家とともに建築資産を作り上げることを考えて頂きたいと思います。