住宅やビルを建築するときに知っておきたいこと
知って頂きたいことがあります
住宅やビルを建築する時にどこに依頼をしたらよいのか、悩むことがあると思います。候補としてハウスメーカーや建設会社、地場の工務店、そして設計事務所が思いつくと思いますが、何が違うのか理解している方は少ないのではないでしょうか。
ハウスメーカーや建設会社、工務店は設計と監理、さらに工事まで全て自社で行う場合が多く、設計事務所は設計と監理を行い、工事は別の会社である建設会社や工務店に依頼します。
違いは設計監理と施工を一括で行うか、分離して行うかによります。前者を設計施工一貫方式、後者を設計施工分離方式と言います。この違いの本質を知ることが大切です。
ここで聞きなれない監理という言葉が登場しますが、これは一般的な管理とは異なり工事中に設計図書の通りに工事が行われているかを確認し、検査などを通して欠陥を未然に防ぐ事を指します。
一貫方式であれ分離方式であれ、監理は品質を確保するために法律に定められた業務であり、行わなければならないものです。
しかし、監理における正確さや熱意は監理者が建築主サイドに立つか否なかにより温度差が生じます。この温度差が問題を生み、監理が十分に働かず本来の目的が達成されない事例が生まれています。
資産を獲得する過程で重要な監理の価値について知っていただきたいと思います。建築主サイドの目で見る事で浮かび上がることがあります。
私たちは設計施工分離方式で設計と監理を主な業務としていますが、まれに検査官として設計施工一貫方式の施工について検査依頼を頂くことがあります。その検査の経験から設計施工一貫方式の現場で見た、監理が機能しなかった事例を紹介します。
監理が機能しなかった事例
建築主はハウスメーカーの工事が始まって間もなく不安を感じたそうです。私たちに現場の確認を求め、基礎工事が完了した時点で検査に入りました。
設計図と現場の状況を照合すると、基礎の形状が図面と異なっている上、土台と基礎をつなぐアンカーボルトという重要な金物が施工されていないことが分かりました。さらに分断されており一体としてつながっていない部分が発見されました。
担当者はいろいろと言い訳をし、このまま進めたいと言います。予算や工期など諸々の損失があるからでしょう。とは言え明らかに危険なまま了承することはできません。設計図や国の定めた仕様を満足するため、基礎を解体撤去し契約通りに作り替えてもらいました。
本来であればハウスメーカーは適切な監理を行い、問題のない状態になっていなければなりません。下請け任せで監理がなされなかったためか、確信犯か定かではありませんが、重大な問題が明るみに出た事例です。
どのような事情があったとしても、建築主の利益を考えた行為とは言えません。責任者とのやり取りから、違法であっても自社に都合がよければそれで良しとする、利益至上主義であることもわかります。年間に数百棟という住宅を建設するハウスメーカーですので、これまでに少なくない数の欠陥住宅が流通したであろうことが予想されます。
もう一例。テレビでCMを見かける年間何千棟という数の建設を行うハウスメーカーの事例です。
建築主はアレルギーがあることからシックハウス対応に心を砕いており、工事が正しく行われているか確認してほしいと依頼を受けました。床や、壁に構造上必要な構造用合板といわれる合板が設置された段階で検査に入りました。
構造用合板は化学物質の放散量の多寡でF☆からF☆☆☆☆まで☆の数で表示され4つの等級分けがされています。この現場ではシックハウス対応として最上級のF☆☆☆☆がスペックされていましたが、検査の結果はF☆☆が使用されていました。
建築主が望むシックハウス対応になっていなかったのです。全て張替ました。本来は現場監督や監理者が現場に材料が搬入された時点で検査を行い、不適合な材料は退場処分になっていなければならないものです。
複数の関係者が確認を怠った結果なのか、故意なのか定かではありませんが見過ごされていたわけです。発見されずそのまま完成していたらどれほどの禍根を残していたことか。
こちらも監理が機能しなかった事例です。関係者はハウスメーカーサイドの方々であり、建築主の方を向いていないことは明らかです。大手や有名企業であっても手放しで信用できないことが理解できると思います。
いずれも私たちの検査が入らなければ問題を残しそのまま完成したでしょう。第三者の検査が入ることで、設計施工一貫方式の現場で欠陥が見つかり難を逃れた事例です。
紹介事例が特殊なわけではない
実はこれらの問題はここだけの特別な問題ではありません。設計施工一貫方式の現場にとどまらず、設計と施工が分離されている場合でも問題は見つかります。建設会社などの大小にかかわらず業界屈指の企業であっても、建設現場では必ずと言ってよいほど問題が発見されるものなのです。
私たちがこれまで参画してきたプロジェクトでも、是正の指摘を行わずに済んだ建設現場は皆無です。ダメと言わざるを得ないことが存在する以上、適切な監理を行い問題を排除する以外に品質を確保する道はありません。
建設現場ではいかに監理が重要か、実感しながら業務に当たる日々なのです。設計施工一貫方式の場合、紹介しました事例から監理が機能しにくいことが分かると思います。
また、自社の利益が最優先されることから、そこに様々な思惑が働くであろうことも理解に難くありません。仮に監理者に善意があったとしても、社員である以上上司や経営サイドの意向に反してまで、建築主の利益を優先することは難しいでしょう。
第三者の立場で、建築主サイドにはそもそも立てないのです。結果として紹介事例のようなことが起こりやすくなるわけです。これは設計施工一貫方式の構造的な問題なのです。
そこに建築主のために利益を守ってくれるだろうと善意を期待をしてはいけません。記憶に新しいと思いますが、レオパレスや大和ハウスの事件もみな根が同じなのです。
より良い建築資産を得るために
考えなければならないことは、いかにして品質の高い建築資産を得るかです。法律に関しては弁護士に、会計に関しては会計士や税理士に相談するように、建築についても建築主の味方となりえる建築の専門家が必要です。
建築主サイドに立った建築士がプロジェクトに参画し、適切な設計と監理を行うことでのみ品質が確保できると言えます。住宅やビルを建築する時には、建設会社などと利害関係のない建築士とともに、資産を守る体制を是非整えて下さい。
何らかの事情で設計施工分離方式が難しい場合でも、設計内容や工事内容について第三者に確認や検査を依頼して下さい。建築資産を得る上で最低限必要なことだと思います。
より良い資産を得るために何が必要なことか、今一度考えてみて下さい。