お金で苦労し続ける理由とは~心理的要因
お金との健全で賢い付き合い方
『お金を借りるのに必要な経費(コスト)は利息だけじゃなくて、他にもたくさんあるのに。よく把握しないまま、またこの人もお金を借りてしまうのか!』正直、そんなことが殆どです。
多くの人にとって身近な住宅ローンを例に考えてみましょう。最近は、目先のお得感に意識が向くようにやたらと低金利であることを前面に出して宣伝されています。話しを良く聞くと、金利とは別に結構割高な銀行の事務手数料が必要だったり、担保物件に抵当権を設定し登記するための手数料があることが分かって来ます。
ここで一瞬「あれ?話が違うぞ!」と感じるのですが、これらの諸費用も含めて借りることが可能であることが多く、負担が実感しにくい仕組みになっています。
また、不動産を所有すれば毎年、固定資産税も納めなければなりませんし、マンションだと管理費や修繕積立金も数万円単位で必要です。自家用車を持っていれば駐車場代もあります。戸建てでも一定年数経過すれば水回りやガスなどの設備系、外壁や屋根などの修繕も必要となります。
これらを把握しないで「今は史上最低水準の低金利、月々の返済はたった◯万円でマイホームが手に入ります。」という言葉に乗せられて多くの人が何千万円もの借金をしてしまいます。
なぜ、多くの人が「言われてみれば当たり前のこと」に気付かず、借金をしてしまうのでしょうか。その理由を借りる側の心理的要因と銀行がそれをどのように利用しているのかという観点からご一緒に考えて行きたいと思います。今回はまず心理的な側面についてです。
自分の決断のストレスから逃げたいという人間の本音
結論からお伝えすると「銀行は自分に都合の良いことを強調」し、「人は自分のした決断が正しかったと自己正当化したいという強い欲求を元々持っているから」と言うのがその理由です。これは「認知的不協和(にんちてきふきょうわ)」という概念で理解することができます。
これは心理学などの分野で使われる専門的な考え方です。言葉自体は耳慣れないので少し分かりにくい印象を受けるかも知れません。しかし理解してしまえば意味は簡単です。
なぜ、借金の話しをしているのに、突然心理学が出て来るのでしょうか?それはお金との付き合い方にはその人の本性が如実に表れるからです。「人の心の動きを理解すること」は健全で賢くお金と付き合う上で重要です。このことを念頭に置いてまず借金の心理的側面「認知的不協和」についてご説明したいと思います。
認知的不協和とは
人間は自分にとって矛盾する2つの事柄があった場合、ストレス(不協和)を感じます。矛盾する2つの事柄とは、本当は返済が苦しいのは分かっているけど、それでも借金してでも何かを今すぐ手に入れたい、というようなケースです。
そして一刻も早くそのストレス(不協和)を解消しようとします。しばしば無意識のうちになされます。その結果、決断した事柄の意味や解釈を変えてしまい、自分が納得のいくような答えになるように変形させ歪めてしまいます。
自分の知っている情報だけでストレス(不協和)が解消しない場合は「後付けで自分は間違っていなかったという証拠集め」をすることになります。 こうした一連の心理を説明したのが「認知的不協和理論」と言われるものです。
では、
- 借金をするとき
- 借金をした後
の2つの場面での「本音」と「ストレスを解消するために事実を歪めた考え方」を具体的に見てみましょう。
1.借金をするとき
本音
「現在の収入や会社の業績、職場の雰囲気など冷静に考えると、今の自分がこんなにたくさんの借金をして将来的な返済が大丈夫だとは思えない。」
「年老いて返済が完了した時の着地点がイメージできない。正直な不安だなぁ~。」
「こんなに長い期間借金の返済をするのは苦しいだろうな。息苦しいなぁ。自分はこの借金を返すために定年近くまで一生働き続けるのかぁ~。」
「いつまで今の会社があるかどうか、自分が働き続けているかどうか、これだって全く未知数で分からない状況なのに。」
「このご時世転職して一時的に収入が減ったり最悪の場合リストラされることも。。。」
「自分がどんなに不安でも、家族がこんなに喜んでるし、もう後戻りできないよなぁ。」
事実を歪めて自分を納得させた考え方
一方で、ストレス(不協和)を解消しようと心の中で自分を正当化する「別の声」がささやき、事実を歪めて自分を納得させます。
こんな感じです。
住宅購入
「家族のために夢のマイホームを購入する、立派なことじゃないか。」
「これで自分も一国一城の主だ!間違いなくいいことだ。」
「どこかで聞いたことがあるけど、一生賃貸住宅に住むのは家賃をドブに捨てるようなものだ。」
「繰上げ返済を心掛けて早目に住宅ローンを払い終わったらマイホームはすぐに自分の財産だ!」
教育費
「大切な子どもの教育は何よりも重要な親の役割だ。」
「その為には将来のことがどうなるか分からなくても仕方ないじゃないか。」
「昔からよく言われるように、教育費というのは良い借金なんだから、なんとかなるだろう!」
介護費用
「突然、親の介護費用が発生。必要なんだからどうしようもない!」
「取り急ぎ用意する必要があるから簡単に借りることができるカードローンで当面の必要分を確保した。」
「急いでいたから利息のことはよく知らないけど、金利は14%~18%くらいのようだ。決して低くはないけどちょっとの期間借りて、落ち着いたらもっと金利の低いところから別に借りてすぐに返せば問題ないだろう。」
「大丈夫、自分はそれくらいのお金の管理はできる人間だ!」
自家用車購入
「車が趣味なんだから、少々高級なものを買ってもいいじゃないか。」
「人生は一度きり。やりたいことは今やらなきゃ。かけがえのない人生で豊かな経験をするのは今だ。そのために借金しているのだ。」
「毎月の返済はやりくりすれば十分払える範囲内だ。」
「気に入った車のオーナーになることはとても気分がいいし、週末のドライブは気分転換になって仕事のやる気もアップする。
いい買い物だったと思う。どう考えても自分は正しい。好きなことにお金を使ってこそ人生だ。」
「自動車保険や自動車税、ガソリン税や何年かにいちど車検費用掛かるって? そこまで細かい計算はしてないけど、それは、そのときになっていろいろと考えて節約とかしたらなんとかなるよ。」
「あんまり先々までのことを心配してたらなんにもできなくなっちゃうよ。」
金融機関への責任転嫁
「銀行が貸してくれたということは、自分にそれだけの信用がある証拠だ!」
「むしろ借金と言うより、自分には信用という資産があると考えてもいいくらいだ!」
「それに、仮に将来返済できなくなったとしてもそれは貸した銀行にだって責任がある。自分だけの問題ではないよ。」
これらが厄介なのは、全部が全部まったくのデタラメではなく、一部には真実が含まれていることです。
しかし全体としては自分の中のストレス(不協和)を解消するために歪んだ理解をして、誤った判断をした自分を肯定してしまっています。
過剰な借金をした場合には「決定後のストレス(不協和)」が生じてしまうので、これを解消するためにいろいろな口実をつけてその借金を肯定しようとする人間の心理作用をくれぐれも軽く見ないで欲しいと思います。
(そして借金の蟻地獄へ)
これが更に悪い方向へ進むと、借金を返すための返済金を手に入れるために、更に借金を重ねてしまうという事態になります。本当は『貸すも親切、貸さぬも親切』の精神で金融機関が「そろそろその辺にしておいた方が身のためですよ」とアドバイスしてくれれば良いのですが、貸す側も収益を稼ぐためにある程度の金額までは貸してしまうのが現実です。こうして借金の蟻地獄へはまっていく人は少なくありません。
2. 借金をした後
では、借金をしてしばらくしてからはどんな心理状態になって行くのでしょう。具体的に見てみましょう。
「大切な時間を使ってお金の専門家の銀行に相談して決めたんだから自分は正しい判断をしたんだ。」
「市役所に行って住民票や納税証明書などの書類を手間暇かけて用意したんだから間違ってはいない。」
「借りるためにたくさんの書類に記入したんだから、自分は大丈夫だ。」
「もう既に融資を受けた。もう既に完結したことだ。だからなんら心配する必要はない。」
この借金は間違っていないと思い込みたいという気持ちはますます強まって行きます。(あなただけが間違った決断をしてしまうのか?)
でも安心してください。これはあなただけでなく、多かれ少なかれ誰もがそういう心理的傾向を持っています。
この心理をベースにして、事実の一部だけを強調してモノやサービスを売る手法はとても効果的です。世の中では多くの場面で利用されています。金融機関も例外ではありません。
加えて、特に銀行はこれまで社会的に信用されて来ました。ですから比較的ご高齢の方を中心に「銀行さんが言っているのだから、そんな間違ったことはないだろう。」と考えがちです。この思い込みと人の認知的不協和と言う心理作用を利用して銀行は少しでも多くの借金をさせようとします。
銀行はあなたが無理なく返済出来る本当に必要な金額ではなく、銀行の都合で銀行が最終的に損をしない条件で出来るだけ多くの金額を貸そうとする傾向があるのです。銀行の話しを一方的に信じて決めてはいけないということです。まずは、このことを知ることが身を守る第一歩です。
(では、具体的にどうすれば。。)
次回は、それではどのようなポイントを押さえておけばよいのか、具体的に考えて行きたいと思います。