突如のユーロ下落リスクへ
ECBは9月以降の追加利下げか
フランスのマクロン大統領が9日、仏国民議会(下院)の解散に踏み切ったことを、直接の理由としてユーロ通貨は大きく下落。ユーロドルは7日の1.0903ドルから一時、1.0720ドル(11日)まで売り込まれた。
欧州系銀行のストラテジストの中には、「ユーロに政治的リスクが高まってきた、7-9月までに1.05ドルまで下落する可能性がある」(RBCキャピタルのストラテジスト)との見通しに言及する向きも出てきた。
ただ、ユーロ通貨の先行きについてはあくまでも米ドルの動向が柱になるし、米欧の利回り格差の時系列も影響するゆえ、仏独の政治情勢だけをウォッチするわけにもいかない。
まずは6日のECB理事会の結果を総括して置かねばなるまい。ECBは25bpの利下げを決定。主要な政策金利である預金ファシリティ金利は3.75%となった。
声明文には、「今後の政策金利判断は、先行きの物価・経済データに基づくインフレ見通しの評価と基調的インフレの動向、金融政策の伝達の強さに基づく」と記され、「物価目標達成に必要な限り、十分に抑制的な政策金利を維持する」との方針が示された。
市場の注目は先行きの利下げパス(経路・道筋)が示されるかどうかだったが、ラガルド総裁は金融引き締め巻き戻し局面に入った可能性が高いと発言したものの、先行きの判断はデータ次第である、として明確な見通しを示さなかった。
今回のスタッフ見通しでは、インフレ見通しが上方修正された。HICP(基準消費者物価指数=ECBベースのインフレ率)の目標達成時期は26年1-3月期と、3月時の見通しから半年後ずれとなり、声明文では、サービスインフレ高止まりに懸念が示された。
ただ、ラガルド総裁は物価目標を達成するという見通しへの確信は強まっていると発言し、利下げの判断に自信を示した。
7月以降、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)のQT(縮小)が始まる。
750億ユーロ(月間)のペースで進み、年末には再投資が完全に停止する計画であり、ECBの資産全体では昨年3月からQTが進んでいる。
今回は、先行きのインフレ動向に不確実性が残る中での利下げとなったわけだが、声明文で指摘されている通り、足元のユーロ圏のインフレ下げ渋りの主な要因は、人件費を反映し易いサービス価格の高止まりである。
ECBは資金の伸びを重視しており、3月以降示された6月利下げ見通しの背景も、1-3月期の協約賃金が減速するとの見通しに基づいたものだったが、5月発表の同指標は高止まりとなった。
ラガルド総裁は「先行性の高い賃金トラッカー(前年比での賃金上昇率)は、先行きの賃金減速を示しており、インフレ減速が続く可能性が高いと判断した」と説明したが、今回のインフレ見通し引き上げは賃金指標の上振れが影響しているものと見られ、主に賃金・サービス価格を中心に、点検すべき不確実性が残っているものと考えられる。
4-6月期の協約賃金は8月央に公表される予定である。
また、ラガルド総裁は四半期末の見通しを公表する会合は、それ以外の会合よりも多くの情報が手に入ると指摘しており、追加利下げは早くても次々回の9月理事会(9月12日)となる可能性が高いと見られる。
OIS市場(翌日物利回りの先物市場)の追加利下げ織り込みは、7月が4割程度、9月はほぼ完全な織り込みとなっている。
声明文には、「物価目標達成に必要な限り、十分に抑制的な政策金利を維持する」と記載され、ラガルド総裁はインフレを差し引いた“実質ベース”で考えると、利下げ後の政策金利は十分に引き締め的であると評価した。
足元の実質金利は1%を上回る程度と見られる。
実質成長率を基準にするとECBの今年の成長率見通し(0.9%)を上回り、引き締め的と判断される。
となると今後の利下げはインフレ・成長見通しを踏まえ、“十分に引き締め的な政策金利”を保つ範囲内で実施されるものと思われ、ユーロ通貨が他の主要通貨と比べ相対的に売られやすい通貨とはならないだろう。
もちろん、ECBのスタンスという視点では、という限定論だが。
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2024/6/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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