不可解な米国の2題を解く
追加経済対策の合意は不可能に
協議は8月初旬に決裂し、議会は夏季休会に突入したまま。散発的に接触はしているものの、歩み寄りはない。厳しい経済・雇用情勢が続く中、経済政策が機能停止状態に陥っていることは米国型民主主義の弱点そのものと言えよう。
ホワイトハウス並びに議会共和党は1兆ドル規模の対策を提案する一方、議会民主党は当初の3兆5千億ドル規模の対策から相応の減額の用意をもって交渉に臨んできたが7月末までの合意に至らず、懸念されていた「8月の財政の崖」となってしまった。
最大の争点は、7月末で期限が切れた失業保険給付に対する週600ドルの上乗せ策の扱いである。共和党は大幅減額(週200ドル)、民主党は週600ドル上乗せの年末までの継続を主張し、加えて新型コロナウィルス検査や追跡調査、学校および経済活動の安全な再開に向けた支出増加も主張している。
8月27日、ペロシ下院議長(議会民主党の代表)とメドウズ大統領首席補佐官が3週間ぶりに電話(25分間)で協議。ペロシ議長は共和党・ホワイトハウスの提案額を2倍の2兆ドルに引き上げるよう要求。
その代わり、民主党側も2兆2千億ドル規模に縮小する用意があるとし、歩み寄りのシグナルを示したが、メドウズ首席補佐官が拒否し、物別れとなった。
翌8月28日、メドウズ氏は当初の議会共和党案(1兆ドル規模)に3000億ドル上乗せした1兆3千億ドル規模であればトランプ大統領は受け入れる用意があるとの見方を示し、民主党にやや歩み寄る姿勢を見せた。しかし、民主党側はそれを強く拒否し、あくまで2兆2千億ドル規模がベストとの主張を貫いた。
その後、9月に入って共和党側は「両党間で意見の隔たりが大きい政策については後回しにし、合意できる部分だけで5000億ドルの、より小規模な対策を議会で成立させる」との提案を示した。だが、これもペロシ議長が「そうした暫定的な措置は受け入れない」と拒否。
そして9月1日夜、ムニューシン財務長官とペロシ下院議長は「追加経済対策での交渉の行き詰まりが暫定歳出法案を阻み、大統領・議会選挙の前に政府機関が閉鎖に至る事態の回避に努めること」で合意した。つまり、もはや追加経済対策の行くえは目処がつかなくなったに等しい。
実は、こうした協議難航の裏側で、既存のコロナ経済対策に不正疑惑が浮上したことも一段と難航に拍車をかけている。
3月に成立したコロナ対策の中に、雇用維持を含めたコロナ対策に使うことを条件に、返済を求めない融資を中小企業に行う「給与保護プログラム(PPP)」が盛り込まれた。
ところが、米下院の民主党議員を中心に構成された「新型コロナウィルス大危機特別小委員会」が9月1日(苦しくも財務長官とペロシ議会民主党代表による事実上の協議棚上げ合意の日)、同制度を通じた不正な融資件数が数万件に達し、その規模も数十億ドル(数千億円)に上る可能性があるとの報告書を発表した。
ただ、条件を満たさない企業が同制度を不正に利用することは当初から予想されてはいたはずである。それを一時的に容認することと引き換えに、迅速な支援が実現できたとも言える。
不正利用を防ぐために厳しい審査が行われる日本の雇用調整助成金制度が、雇用支援措置として迅速に機能しなかったのと対称的である。
それでも多くの不正の発覚は、追加的なコロナ対策の検討をより慎重にさせるであろうし、行政執行の責任者たるトランプ政権とPPP原案を作成した議会民主党の双方が失策に手を貸したことを意味する。さらに、この給与保護プログラムの執行に関しても、日本と酷似した一種の不正疑惑が浮上している。
同事業は米中小企業庁が担っているが、中小企業庁はその事業をRERソリューションズという小規模なコンサルティング会社に委託している。さらにその事業処理業務の大半は大手住宅ローン会社ロケット・カンパニーズの子会社に再委託されていたのである。
RERソリューションズに対して中小企業庁は少なくとも7億7千万ドルと巨額の手数料が支払われている。加えて、RERソリューションズに対する業務委託で作成された連邦政府の契約書の公開文書には、再委託についての記載はなかったのである。
日本の「電通丸投げ」疑惑問題そのものと言える。この不正疑惑も行くえ次第では、政権と議会民主党のドロ沼的論争へと発展しかねない。
「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないが、9月5日には「コロナ禍へのぶ厚い対応策を主張し、マスクを外していたトランプ大統領を強く非難してきたペロシ下院議長が、通い慣れた美容院内をノー・マスクで闊歩していた」との動画配信まで出てきた。
追加経済対策が合意できないとなれば、署名済みの「大統領令」の執行を期待するところだが、財源がネックになり、且つ予算権限が議会にあることから法的にクリアーできるのかという壁が浮上。いくらパンデミック下といえども財源の定まっていない命令は画餅にすぎない。
となると9月FOMCでのFRBの追加金融緩和策(各種救済ファシリティーの増額・延長、新規設定)に期待が集まるのは必至であろう。
因みに9月16日には、米国の8月小売売上高が発表となる。「財政の崖」そのものとなった個人消費(GDPの74%を占める)が、どういう結果になるのかはFRBが最も分析力を持っている…
米国株はボラタイルな上昇続く
9月3日のNASDAQ指数が一時、前日比▼5.76%の大幅急落となり、その連鎖でダウ平均株価も一時、前日比▼1025ドル(▼3.52%)、SP500指数も一時、▼4.3%まで下落した。
ところが、日本で第一報を伝えたNHKニュースでは、これだけの大暴落となったのに一切の解説、背景に言及しなかった。つまり、それほど背景が市場的にテクニカルなものだったことの証左と言える。
「NASDAQ100指数の恐怖指数(VXN)とSP500指数の恐怖指数(VIX)の差が、ここ数日、10ポイント以上、上回る水準で推移。その差は過去16年で最大となっていた。
しかも、2日までの3営業日にNASDAQ100指数は連日1%近く~1%強も値上がりしていたのにVNXも上昇していた。
その結果、3日のNASDAQ指数はNASDAQ100銘柄を中心に急落した」
(ブルームバーグニュース4日)
この解説は、さすがにNHKの国民放送・テレビでは使えまい。3日の動きのベースには株価と恐怖指数の関係の歪みが限界的に大きくなったことがある。
恐怖指数は対象とする株価指数の予想変動率、いわゆるボラティリティを示す指数でオプション取引の値引きをもとに算出されている。通常、株価指数と恐怖指数は負の相関を示しやすい。
株価が堅調地合いにある時には、恐怖指数は低位で安定しやすい一方、株価が調整局面にある際には、恐怖指数は上昇しやすい。
メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
全文を読みたい方は、イーグルフライ掲示板をご覧ください。