大統領選挙に縛られるバイデン政権の中東和平政策
4月23日で200日を超えたガザ紛争に、停戦へのほのかな明かりが見えている。
まず、4月28日、29日にサウジアラビアのリヤドで開催される「世界経済フォーラム」特別会議に合わせ、米国、イギリス、EU、アラブ主要5カ国(エジプト、ヨルダン、サウジ、UAE、カタール)+パレスチナ自治政府の高官らが集まり、停戦実現に向けた協議を活発化させている。
また、人道危機が懸念されるガザ地区南部ラファへの攻撃については、イスラエル軍が準備を完了しているものの、イスラエルがハマスに提示した段階的停戦案への回答を見守る状況にある。
さらに、4月28日には、米国のカービー国家安全保障会議広報調整官が、ABCテレビで、イスラエルは米国と協議なしに、「ラファへの侵攻はしないと保証している」と述べた。
これらの動向の重要ポイントとなるのが、イスラエルとハマスとの間接交渉である。
4月27日の米国のニュースサイト「アクシオス」によると、イスラエルはハマスによる身柄拘束者の解放後、「持続可能な平穏の回復」(停戦協議)についてハマスと協議する意向を示していると報じている。
また、同日、イスラエルのカッツ外相は、テレビで「合意に至れば、ラファへの侵攻計画を停止するだろう」と述べている。
一方のハマスは、4月29日、代表団をカイロに派遣し、エジプトと提案内容の協議を行っている。
このように、イスラエルとハマスの停戦に向けた前向きな変化は、両者の間接交渉の仲介役を務めているエジプト、カタールと、ヨルダン、サウジ、UAEというアラブ側が連携し、主体的に和平イニシアティブを動かしてきたことによる。
その背景には、ガザ紛争と関連する中東地域でのイスラエルとイランおよび親イラン武装組織との戦闘の拡大を防ぐという、これらアラブ諸国の共通の国益があると考えられる。
このアラブ和平イニシアティブが動き出したことで、今後の中東和平にどのような変化がもたらされるだろうか。
以下では、米国の中東和平政策の変化を振り返りつつ、この問いについて考えてみる。
近年の米国の中東地域への関与の変化
国際社会が、米国とソ連の2極の時代から米国1極の時代に向かう時代まで、米国は中東和平問題についても、和平の実現をはかるためイスラエルに圧力をかけてきた。
例えば、1956年のアイゼンハウア大統領、1975年のフォード大統領、1978年のンカーター大統領、1991年のブッシュ大統領(父親)は、イスラエルの占領地からの撤退や入植地活動の凍結を求めている。
こうした政策は、国際法や国連諸決議を根拠としてイスラエルの現状の変更を迫るものであるため、両国関係を動揺させるものであった。
その後、米国は、中東地域でアフガニスタン戦争、イラク戦争を引き起こし、莫大な戦費を投入し多数の貴重な人命を失ったことや、シェール・オイルの生産を本格化させたことで、中東地域の問題への関与を低下させた。
2011年にアラブ諸国で起きた政変(「アラブの春」)でも、米国の関与は弱いままであった。
そして、オバマ政権時のアジアへの戦略的方向転換は、米国の基本戦略として今日まで続いている。
そのことは、オスロ合意に基づく中東和平交渉の長期の停滞をもたらした。
米国・イスラエル関係におけるネタニヤフ氏の存在
このような状況において、米国・イスラエル関係に大きな影響を与えてきたのは、米国育ち(フィラデルフィア郊外)で、コーネル大学教授の父を持つネタニヤフ現首相の存在である。
同氏は、在米ユダヤ人の大富豪と共和党を結び付けてきた父親から受け継いだ人間関係に加え、自身が勤務した「ボストン・コンサルティング・グループ」(BCG)やマサチューセッツ工科大学時代に構築した人間関係を活用し、米国の政財界に強い人脈を構築した。
ネタニヤフ氏は、このネットワークにより、イスラエルでの選挙だけでなく、米国の選挙や対外政策にも影響を与えてきた。そのネタニヤフ氏との対立に苦い思いをしたのがオバマ大統領である。
同大統領は、イスラエルに、2009年3月にヨルダン川西岸地区での入植の凍結を、2011年5月には1967年以前の国境まで戻るよう求めた。
この要求は言葉の上だけに終わるが、オバマ大統領とネタニヤフ首相との対立は深まり、緊張状態となった。
しかし、2012年の大統領選挙での再選を目指すオバマ大統領は、ユダヤ票の大幅な減少を食い止めるため、イスラエルの安全保障を理由に分離壁の黙認、軍事援助、国連安全保障理事会でのイスラエル非難決議への拒否権行使など、イスラエル関係の改善に努めることで、米・イスラエル公共政策委員会(AIPAC)や世界ユダヤ会議(WJC)の支持をようやく取り付けた。
ただし、民主党大統領であれば通常獲得できるユダヤ票の平均獲得率75%には及ばず、69%にとどまった。
現在のバイデン大統領は、このオバマ・ネタニヤフの緊張関係の下で、オバマ政権の副大統領としてユダヤ・ロビーを敵に回しての選挙や政権運営の難しさを痛感している。
今年秋の大統領選挙を前に、バイデン政権が、国連安保理でイスラエルに不利な議案に拒否権を行使し、ガザ紛争の悲惨な状況にもかかわらずイスラエルへの軍事援助をためらわないのは、オバマ政権時の経験が影響していると考えられる。
しかし、現在のバイデン政権の政策決定をめぐる環境は、オバマ大統領の再選時とは2つの点で大きく異なっている。
米国内での対イスラエル政策批判
第1は、米国内の変化である。
2023年10月から続くガザ紛争でのイスラエル軍の戦闘行為により、パレスチナ人犠牲者が増えるにつれて、世界各地で、パレスチナ住民の人権擁護を求める市民レベルの抗議デモが起きている。
米国でも同様の抗議活動が見られているが、中でも、全米各地の大学での学生を中心にキャンパスの一部を占拠する抗議活動はマスメディアの注目を集めている。
抗議活動に参加している学生たちは、大学がイスラエルに関係する企業や武器製造企業への投資を引き上げることや、バイデン政権に対してはイスラエル支援の停止を要求しており、米国政府や企業がガザ地区の人道危機に関与していることを人々に認識させようとしている。
また、米国務省内の複数の部局からは、イスラエルの国際人道法違反への「深刻な懸念」が表明されており、ブリンケン国務長官は、議会に対し、5月8日までに、イスラエルが米国からの支援武器を国際法上、合法的に使用していることを証明する書簡を提出することになった。
こうした米国内の動きにより、オバマ政権時と比較すると、イスラエルに対する政策決定の制約は強まっているといえる。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年4月30日に書かれたものです)