紛争のエスカレートが懸念されるイスラエルのシリア攻撃
ワシントンに本部がある国際金融協会(IIF)は、ガザ紛争に関連するイエメンの武装組織フーシ派による紅海での軍事行動の影響について、悲観的なシナリオとして、今年の世界の国内総生産(GDP)が0.4%落ち込むとの報告を発表した。
ただし、その蓋然性は30%以下だと指摘している。
紅海ルートでの物流減少の影響は、すでに、食料品やエネルギー資源などの分野での物価上昇として現れているが、フーシ派の軍事行動が今後も継続すれば、主要国の経済成長は鈍化すると分析されており、問題の解決が強く望まれる。
中東地域では、間もなく半年をむかえる人道危機にあるガザ地区での紛争に関連し、紅海での戦闘に加え、イスラエル・レバノン国境での戦闘、そして、シリアを舞台とする戦闘が続いている。
とりわけ、イスラエル軍による3月29日のシリアのアレッポへの空爆に続き、4月1日にもダマスカスのイラン公館ヘの空爆が行われたことが注目される。
これにより、イスラエルとイラン間の紛争へとエスカレートすることへの懸念から、エネルギー資源の価格上昇がみられている。
そこで、以下では、最近のイスラエルによるシリアに対する攻撃について分析し、今後のイスラエル・イラン関係の展開について考察する。
シリアにおけるイランの存在
2011年、シリアのアサド政権(シーア派のアラウィ派)に対し、同国の多数派であるスンニー派が中心となって展開した反政府運動は、その後、内戦状態を生み、今日まで平和構築が果たせていない。
その中、地政学的に注目されているのがシリア南部である。
クネイトラ県、ダルアー県、スワイダ県で構成されるシリア南部は、レバノン、ヨルダン、イスラエル占領下のゴラン高原に隣接しており、戦略的価値がある。
とくに、クネイトラ県はゴラン高原に近く、南部の他の2県と異なり山岳地帯で、軍事力を隠しやすいという特色がある。
また、レバノンに近く、その国境は事実上、レバノンのヒズボラが支配している。したがって、イラン、イラク、シリア、レバノンのシーア派のベルト地帯をつなぐ重要地域といえる。
イスラエル軍のクネイトラ県への攻撃や、ダマスカスやその近郊への空爆は、こうした地域での親イラン武装組織の活動阻止を目的としたものである。
このところ、イスラエル軍はこうした軍事行動を活発化させている。その要因としては、次の2つが挙げられる。
親イラン武装組織によるイスラエルへの攻撃の脅威に対応するため
第1は、2023年10月7日以降のガザ地区でのハマス等イスラム武装組織との戦闘にともなう親イラン武装組織によるイスラエルへの攻撃の脅威に対応するためである。
また、イスラエルのネタニヤフ政権は、シリアに対する攻撃により、ガザ地区での軍事作戦が人道に反しているとの国際的批判の目を逸らそうとしているかにも見える。
ウクライナ戦争にともなう脅威の増大
第2は、ウクライナ戦争にともなう脅威の増大である。
2018年にロシア軍の支援を受けシリア軍が南部の大部分を奪還した際、ロシアはイスラエルと米国による同地域への軍事介入を防ぐため、イランおよび親イラン武装組織に南部地域での行動を控えるよう合意を取り付けた。
しかし、ロシアがウクライナに侵攻した後、シリア南部でのロシアの影響力は弱まり、イランが同地域での影響力を伸ばしたことで、イスラエルの安全保障上の脅威は高まっている。
ウクライナ戦争は、ロシアとイランの軍事協力が強化されただけでなく、シリアを舞台にしたイランとイスラエルとの対立を一層深めさせたといえる。
イスラエルのシリア領内への空爆
イスラエル軍は、ガザ地区での戦闘開始以降、シリアで、およそ26回の空爆を実施しており、その標的は、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の高官や、親イラン武装組織の武器庫等と報じられている。
報道をもとに3月について見ると、12日、17日、19日に攻撃が実施され、29日にはアレッポ空港近くの建物(イスラエルは武器庫との見解を示している)を空爆し、シリア軍関係者およそ43人が死亡した。
31日には、ダマスカス郊外の科学研究センターを含む複数カ所を空爆している。そして、4月1日、イスラエルはF35戦闘機2機により、ダマスカスのイラン大使館の施設1棟を空爆した。
この空爆で、IRGCの上級司令官モハンマド・レザ・ザヘディ将軍と副官ハジ=ラヒミ将軍を含む13人が死亡した。
イスラエルが3月下旬から4月頭にかけて集中的に攻撃を行っている背景として、3月25日に国連安保理でガザ地区での即時停戦を求める決議が採択されたことがあると考えられる。
また、翌日には、ハマスのハニヤ政治局長およびパレスチナ・イスラム聖戦のナハラ書記長がイランのテヘランを訪問し、数日間滞在し、ハーメネイ最高指導者やイラン政府高官と会談を行っており、パレスチナ武装組織とイランとの関係の近さが改めて確認された。
シリアにおけるイランの公館施設への攻撃の波紋
4月1日、イスラエル軍によるダマスカスのイラン大使館関連施設への攻撃を受け、国連のグテーレス事務総長は、すべての当事者に対し、最大限の自制を求め、事態のエスカレーションを回避するよう呼びかけた。
一方、イランのハーメネイ最高指導者とライシ大統領は、イスラエルに対する報復を示唆する声明を出した。国連安保理は、4月2日、ロシアの要請で緊急会合を開催し、この事態について協議した。
ロシアおよび中国は、イスラエルの軍事行動は国連憲章と国際法への深刻な違反だと非難した。
一方、フランス、イギリス、米国は、イランのハマス、パレスチナ・イスラム聖戦、ヒズボラ、シリアでのイラク民兵、フーシ派などとの協力が、地域を不安定化させていると指摘した上で、当事者の自制を呼びかけるにとどめた。
また、イスラム諸国では、イラク、ヨルダン、カタール、サウジ、UAE、イエメン、パキスタンなどがイスラエルの攻撃を非難している。
イスラエルの同盟国である米国は、国防総省のシン報道官が、この攻撃に関するイスラエルからの事前通告はなかったと明らかにした。
また、国家安全保障会議のカービー戦略広報担当調整官も、米国は「何ら関与していない」と述べるなど、米国に対する非難回避に努めている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
(この記事は2024年4月3日に書かれたものです)