円ショートポジションが急減しただけ
震え上がったトレーダー達
海外7日に起きたドル円での急激な円上昇(一時141円60銭)の主因が、6日の氷見野日銀副総裁発言と7日の植田日銀総裁発言、そして同日のIMF報道官の記者会見発言にあったことは明白である。
筆者は確かに先週号で来年の早い時期までに最低限130円前後への円高を予測したが、今回のこのトリッキーな動きは想定外であり、一旦、147円程度までの戻しがあると読んでいる。
当日の海外での実務者の感想は、以下のとおり。
- 値動きは非常に急だった。
- 大規模なスクィーズ(円ショートの手仕舞い)が起こり、それがクロス取引を通じて波及した。
- 一段のボラティリティー(激しい値動き)は必至だった。
- 対応できるようにするためのリスク管理でかなり緊張感が高い状況だった。
- スピード感でどこまでいくのかわからなかったため震えながらやるしかなく、本当に怖かった。
- このような相場の動きで取引するのはあまりにトリッキー(扱いにくい)で、流動性ギャップにぶつかった。
- デスクにいれば、注文を埋めるだけだ。
- 1日に4%もの値動きがあると、双方向(オファー・ビッド)のプライスを出すのは、極めて難しくリスキーだ。
- 市場は日銀の政策転換という大きなテーマについて1ヵ月ではなく1日で取引してしまった。
- 同じような動きは恐らくまだ何回もあるだろう
(複数の円トレーダー)
トリッキーな動きを演じた主役は「円キャリー取引」の解明(ロス・カット)を見られる。
例えば11月中旬に1ドル151円で低金利の円を市場で借りて、高金利のドルを買った投資家は年率5%程度の金利差収益が得られる。
ところが143円程度まで円高が進むとその差益が吹き飛ぶことになる。
案の定、144円近辺で、一気にロス・カットが大量に出回り、アッという間に141円台へと円が急騰したというわけである。もともと6日、7日の日銀利上げ前倒し発言は直前まで極めて可能性の低い想定だった。
11月29日~30日に「日銀関係者発言」や報道記者による前倒し記事はあったが、市場の反応はFRB高官による米国利下げへのハト派発言に集中していたため無反応に終始していた。
その上、海外の日本担当エコノミストたちも日銀の金融引き締めが、直ちに始まるとの分析はほとんどなかった。
例えば、賃金上昇率が十分でない。ここに来て24年度の賃金上昇率は出過ぎ感のあった23年度を超す可能性が浮上してきたが、それでも日銀の物価目標を上振れ方向に脅かすほどではない。
毎月勤労統計の所定内給与は2%をやや下回る水準で推移し、24年度も同程度かそれ以上の推移が予想され、何れも1990年代半ば以来の強い伸びとなるが、それでも2%程度の領域に過ぎない。
賃金インフレと呼ぶには相応しくなく、ましてやそれに金融引き締めを講じるのは違和感が伴う。
そして、ここに来て物価上昇率も下がり始めている。11月の都区部CPI(除く生鮮食品)は前年比+2.3%まで縮小。
実質個人消費支出が2四半期でマイナスとなり、景気ウォッチャー調査が、低下基調に転じるなど個人消費の弱さを浮き彫りにするデータが増加する中、企業が値下げによって需要を掘り起こそうとする姿が垣間見える。
11月データを基にすれば、10月の段階では何れの尺度も2%を超えていた、日銀算出の「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」も鈍化する公算が大きく、物価上昇率のモメンタム鈍化がより可視的になりそうだ。
日銀の展望リポートによれば24年度の物価見通しは+2.8%と高インフレが続き、3年連続で2%超の物価目標上振れとなる。
ただし、これが本当の意味で2%程度のインフレ定着を意味するかと言えば、それは微妙。
というのも、24年度の高い伸びは電気・ガス代の負担軽減策の縮小、すなわちベースエフェクト(単なる年次間比較上の違い)によるところが大きいからだ。
エネルギーの輸入価格が急上昇した局面(主に22年)に発現するはずだった、インフレの繰り延べに過ぎず、実際に企業が自らの意思で値上げを実施する。
本来的な意味におけるインフレとはやや性格が異なる。
いわば「値上がなきインフレ率拡大」という側面を有しており、そうした下では2025年以降の予想インフレ率は徐々に低下していく可能性がある。
こうした観点からも“期待”は別として日銀がインフレ抑制を目的とする連続利上げモードに、踏み切る状況にはない。
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続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2023/12/12の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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