電通は一体何者なのか
ソリューション企業なり
持続化給付金支援事業において、電通やパソナが設立した社団法人「サービスデザイン推進協議会」が受託した事業費769億円の97%=749億円を電通に再委託し、電通はさらに自分の子会社に再々委託していたことが全国紙の報道で明らかになった。
この全体構図で一体、電通はどれ位、稼ぐのか。「サービスデザイン推進協議会」が一旦手にする20億円のうち15億円は給付金の振込手数料だとするが残りの5億円はおそらく口銭として利益計上だろう。
さて電通は749億円で再委託を受け、さらにイベント領域を担当する「電通ライブ」などの子会社5社に約709億円で前事業を再々委託。
この時点で「管理運営費」として実額38億円前後が電通本社に計上(収益)される。そして電通子会社は、さらにパソナ、大日本印刷、トランスコスモスなどに事業を外注(再々々委託)するが、その全額はいずれも公表されていない。
管理運営費というのはマージンのような勘定項目で、細々とした見積もり項目を足し上げた小計金額に電通は最低20%以上を掛けて総合計金額とする。この事業で言えば749億円×20%は149億円だから、38億円の中貫は少なく見えるが、もちろんこれはトリックである。
電通全体の収益は、再々々委託までの間にどれくらい中抜きをしているかの総額で計るべきで、明らかになっていない部分を合計すれば、おそらく限りなく20%に近い金額になるだろう。
民間相手の商売で20%前後の管理運営費は広告業界では一般的である。但し、今回の様に国民がコロナ禍で四苦八苦している状況を政府が血税(結果的に)で支援しようとする案件事業に対し20%の口銭(中抜き)は不当といえる。火事場で80円で仕入れた火消し用の水を100円で売るが如しだ。
ところで、なぜ広告代理店がこういう仕事を受注するのか。
電通は1901年創業。2018年の連結売上高5兆3572億円で、国内2位の博報堂売上高1兆4455億円をはるかに凌駕する。広告業界のガリバー。145の国・地域に6万6千人の従業員が働いている(ブラック企業の典型だが)。
ただ、電通の事業は「ソリューション提案企業」だと自称するようになった。つまり、あらゆる事業分野でソリューション(解決策)を提供する企業というのである。
今回の給付金事業は、「事業の告知」と「実際の給付」という二つの柱で成り立っている。事業告知は全国紙・ローカル紙全紙で30段(2ページ)の告知広告が3~4回掲載された。給付金事業は日本全国で行われる国家事業であり、その存在と実施を全国民に知らせる必要があるからだ。この広告掲載も電通が受注した。
現在の日本には70を超える新聞社があるが、その全国紙に1ページの広告を掲載するだけでも約2億円の掲載料が発生する。つまり今回この新聞告知だけでも、7~8億円の広告費が発生している。
これはまさしく広告会社の担当領分であり、こうした広告掲載のマージンは大体15~20%程度だから、電通にとって、これだけでも1億円を超える収入になったはずだ。
そして昔であれば、こうした広告分野だけが電通の取り分であったのだが、現在は「ソリューション・ビジネス」としての給付分野も担当するというわけだ。
電通のブラックホール化
実は総務省の「マイナポイント事業」でも全く同じ構図で電通に業務委託されていることも判明した。どうして次々と電通なのか。
それは、とにかく事業実施を急ぎたい官庁側と、電通の「何でも受注してやろう」というあくなき強欲姿勢(ブラック企業体質の根源が見事にマッチングしたことによる。
今回の給付金事業はコロナ禍の緊急事態において政府が決断したものだが、担当官庁の経産省にはこうした大規模給付の経験がなく、当然人員もいないので、最初から民間業者に任せるしかなかった。
こういうときに頼りになるのが、常日頃から政府系広報や事業を担当している電通や博報堂である。彼らは大規模イベントの設営・運営経験が豊富であり、他の様々な企業との協働実績もあり、どの企業がどんな仕事を得意かをよく知っている。とりわけ電通は数万単位の人が動く巨大イベントの運営ノウハウを持っており、告知から集客、運営まで一気通貫で作業が出来る。
今回の給付金事業でも全国民に告知をし、給付希望者にアクセスさせ、その人にお金を振り込むという作業は、言い換えれば巨大なイベント実施と同じなのである。
そして、電通は各省庁からの業務を受注するために、今回の「サービスデザイン推進協議会」のようなダミー団体を数多く作っている。この社団法人はすでに5年前から存在していて、経産省の業務を受注してきた。
この団体に実態がないことはすでに様々な報道で明らかだが、常日頃から官僚を接待して気脈を通じ、こうした受け皿をあらかじめ作っておいて将来の案件受注に備えるという、ある意味、投資的なやり方で、これは電通の独壇場だ。
単年度も売り上げを重視し、政官界との繋がりが薄い博報堂には、このようなシステムを作ることさえ難しい。
そして、こうした受注システム構築の基礎となるのが役人の天下りである。2009年からの10年間で、11人のキャリア官僚が電通本体に天下りしている。
内訳は財務省・総務省・件参照・国交省・警察庁など幅広く、有名どころでは元総務省事務次官で18年に電通に入社し、現在は電通グループ副社長の櫻井俊氏。人気アイドルグループ嵐の櫻井翔氏の父親である。
電通グループ子会社へのノンキャリア組天下りは相当の人数に上る。こうして電通は次第に「政商」としての地位を強めていったのである。
この絆的人脈をフルに活かし、ダミー会社を配置して電通の社名が目立たぬようにして、政府や中央官庁の業務を数多く受注してきた。だから今回の持続化給付金の一件は、あくまで氷山の一角にすぎない。
だが、官にとってあまりにも便利な電通はどんどん官庁関係の仕事を吸収し、もはやブラックホールのような存在になっている。
今回の持続化給付金のケースは国会で野党に厳しく追及されたが、入札資料は全て黒塗りだし、「サービスデザイン推進協議会」の過去の業務内容評価も、すべて黒塗りで第三者はチェックできない。過去の業務内容や決算状況といっても入札用のダミー会社なのだから無きに等しい。
いくら「第三者委員会」による調査を依頼しても、何もわからず仕舞いの報告書でおしまいだ。時間稼ぎをして忘却のうやむやがオチ。彼らキャリア官僚の理屈はこうだ。
=われわれが使うマネーは全て国民から預かった税金だ。
だから事業が失敗したり、委託先が途中で倒産して赤字が発生するなどの不測の事態は、絶対に避けなければならない。
そうなると結局、何があっても最後まで業務を全う出来る、保証力のある電通や博報堂に発注が集中してしまうのだ」=と。
さらに、官庁関係者がデンパク(電通・博報堂)を重宝する決定的な理由がもう一つある。それは、デンパクを指揮系統のとりまとめ役(仕切り役)にすれば、業務の異なる複数業者にいちいち説明する手間が省け、自分たちは楽ができるからだ。
極端に言えば、事業概要を電通の担当者一人に説明して金を渡せば、あとは電通が必要なスタッフを集め、孫請け・ひ孫請けなどのシステム構築を遂行してくれる。だから多少の予算の中抜きがあってもうるさく言わず、暗黙の了解のうちに処理されることになる。
官庁側のこうした「リスクを嫌い、なるべく簡単に業務を発注してお任せにしたいお役所仕事」が、デンパクへの業務委託集中を生み、中でもモンスター=電通のさらなる巨大化を生む。
また、そのことが出世を目指すキャリア官僚の特典稼ぎ(天下り人数増加)につながるのである。
マイナポイント事業は一段と悪質
マイナンバーカードを使ってポイントを還元する総務省の「マイナポイント」事業で、一般社団法人「環境共創イニシアチブ」を通じて一部の事業が電通に再委託されていたことが判明した。
総務省からの委託総額は350億円で、補助金にあてる100億円を除いた250億円のうち、電通への再委託費は55%の139億円(105億円は野村総研等に再委託)。
電通はそれを87億円で電通ライブや電通国際情報サービスなど子会社4社に再々委託し、子会社はさらにそれを56億円で大日本印刷やトランスコスモスなどに再々々委託していた。
電通は子会社に再委託するだけで52億円を中抜きしているのだから、今回の給付金事業よりも悪質といえる。
また、この「環境共創イニシアチブ」は、2017年度からの3年間で、経産省から受託した35件(約160億円)の事業を電通に再委託していた。つまり、給付金事業と全く同じ構図である。
しかも電通は下請けのイベント企画会社「TOW」を通じ、電通の意向として国の給付金事業などでライバルの博報堂に協力しないよう、下請けを恫喝していたメールを発信していたことが判明した。TOWは電通から今回の持続化給付金事業の一部を請け負っている。
これは、電通が請け負わない中小企業庁の「家賃補助給付事業」を博報堂が受注しそう(実際はリクルートが受注した)なので、その際、電通傘下で持続化給付金事業を請け負った企業は、秘密保持の観点から博報堂と仕事をするな、と言っているもので完全に独禁法に抵触する。「博報堂と仕事をすれば出入り禁止にするぞ」と脅している。電通の変わらぬ傲慢体質を露呈したといえよう。
だが、中央官庁と電通の癒着・もたれあいは「悪代官と三河屋」以上に深く、大きく進行してしまっている。いくら野党が国会追求しても、いまや政治と官僚は官邸人事権と官邸大本営化によって公文書改ざんであろうが、法解釈の七変化であろうが、やり放題。黒を城とすることなんぞ平気のへの字。「すべては合法だ」で何件でも落着させてしまう。
それなら野党は、今後の手順を修正する約束を取り付ける努力をすべきだ。入札段階からすべての業務手順をガラス張りにして、入札の公平性、事業内容と実施価格の適正を後に検証できるようにしていかねば、電通のガリバー化に歯止めをかけることは不可能だ。