米欧経済の疑問と盲点
米経済加速の不思議
7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.9%と、市場予想(+4.5%)をも上回った(1-3月+2.2%、4-6月+2.1%)。
これで2%程度とみられる米国の潜在成長率を5四半期連続で上回ることになり、且つ直近(4-6月期)からの大幅加速。
2021年10-12月期以来の高い伸びとなった。内訳を見ると、設備投資がマイナスに転じると、個人消費や住宅投資が全体を押し上げた。
結果、米国経済の自律的な成長を反映する民間最終需要(個人消費、設備投資、住宅投資の合計)も、加速した。
年央段階では、こうした「7-9月景気の好調」予測は大勢化していたものの、年初の段階では「金利の急上昇によって支出も投資も鈍り、秋には失速必至」との見方が、筆者も含め当然の分析だった。
では一体、なぜ真逆の結果になったのか?アナリストの多くは年内にリセッション入りするとみていたが、今は予想を上方修正している。
労働市場は実際、7-9月の間に力強さを増した。9月の就業者数は前月比33万6000人の増加で、7月の23万6000人増、8月の22万7000人増を大幅に上回った。こうした雇用情勢が新規の支出を後押ししている。
9月の小売売上高は前月比で0.7%増加した。6月は0.2%増、7月は0.6%増、8月は0.8%増だった。今春に落ち込んでいた製造業も回復の兆しを見せている。
FRBが10月17日に発表した9月の製造業生産指数は前月比0.4%上昇し、8月の0.1%低下から、プラスに転じた。
シティグループやJPモルガン・チェースなどの大手金融機関が10月に発表した7-9月期決算は好調で、経営陣からは景気見通しが改善したとの声が上がった。アメリカン航空も10月19日、今年の年末年始の旅行需要は昨年を上回るとの見通しを示した。
このような景気の勢いをよそにインフレ率は低下基調をたどっており、9月は3.7%と直近のピークである昨年6月の9.1%から大幅に鈍化した。
こうした状況を受けてFRB高官らは、物価上昇圧力に再燃の兆しが見られない限り、追加利上げを見送る考えを示唆している。
FRBはこの1年7ヵ月間、景気を冷やしインフレを抑制するため、政策金利を22年ぶりの高水準となる5.25~5.5%まで引き上げてきた。
FRBパウエル議長は10月19日の講演で「FRB高官らは慎重に進んでいる」と述べた。投資家は景気の勢いに米国債売りで反応し、利回りを押し上げている。経済の好調を受けてFRBが利下げを控えるとの思惑からだ。
10年債利回りは10月23日、2007年以来16年ぶりに5%を突破する場面もあった。足元の景気加速にはいくつかの要因が考えられる。
例えば、インフレが減速する中で賃金が高い伸びを維持し、実質所得をさらに押し上げている。インフレ調整後の実質税引き後所得は昨年12月から今年6月にかけて年率7%増加した。
その結果、昨年12月時点で3.4%だった家計貯蓄率は5月に5.3%まで上昇し、新型コロナウィルス流行時の景気対策によって積み上がった貯蓄の残り約1兆2000億ドルに加わった。
7-9月期には家計がこれらの貯蓄を取り崩し始め、新規の支出に拍車をかけた。貯蓄率は8月に3.9%まで低下した。
景気後退への懸念が和らいでいることも、家計が支出を一段と前向きになっている一因かもしれない。
この春(3月上旬)に米地銀のシリコンバレー銀行(SVB)と、シグネチャー銀行が破綻した影響を経済が受け流したように見える状況は、なおさらだろう。
WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)紙が10月に行った調査では、過去1年にわたり景気後退を予測してきたエコノミストらが、今後1年は景気後退を回避できると回答した。
一方、FRBによる利上げは期待されたほどの景気抑制効果をもたらしていない。
それについてはFRB議長も10月19日に講演で、「FRBの政策金利がゼロ近辺にあったコロナ流行期に、企業や家計が金利を低めの水準で固定したためかもしれない」と述べたことからも推測しうる。
それどころか、FRBの相次ぐ利上げにもかかわらず、企業の売上高に対する支払利息の割合は過去1年間に低下している。
NY連銀の調査によると、住宅ローン金利の上昇(現在7%台後半とコロナ禍前の2倍以上)によって、新規住宅購入の資金調達が難しくなる一方で、およそ1400万人の住宅所有者が、コロナ禍の間に借り換えを行っていたという。
その結果、多くの住宅ローン返済額が減少し、場合によっては住宅資産を現金化できたため、家計貯蓄を今年6月までに約4000億ドルも押し上げたとしている。
では、今後の米経済はどうなるのか。
筆者もこれまで、米国景気予測を見事に外してきた一人ゆえ、エラそうなことは言えないが、一般的には3つの方向が予想されているので、あくまでも客観的に記して置きたいと思う。
(1)今の勢いはさすがに終わりが近い
時間当たり賃金が増加していると言っても、労働時間は減少している。9月のインフレ調整後の週給は前年同月比0.2%減で、5月以来のマイナスとなった。この状態が続けば家計は出費を抑えるかもしれない。
(2)経済が好調を維持し、インフレ率が再び上昇する可能性
この場合、FRBはさらなる利上げで景気を減速させ、景気後退リスクを高めるかもしれない。
(3)インフレ率が抑えられたまま高成長が続く可能性
これは・・・
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2023/10/31の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。