中国経済は明らかに正念場へ
国際エコノミストの端くれの一人として中国経済がいよいよ、不可解な状況に突入してきたことをお伝えしたい。
このことが習近平体制をさらなる「専制」「独裁」の強化につながるのであれば、いよいよ世界政治・経済に及ぼす負のインパクトは、想像を絶するところへとエスカレートしかねない。
流れは明らかに変わった。
1978年に中国の改革・開放が始まった。それ以降の中国経済の歩みはいくつかの段階に分けることができる。
1980年代には、中国社会に相応しい市場経済がどんなものかを模索する準備期間だった。その間の最大の挫折は1989年に起きた天安門事件だった。中国社会にとって天安門事件とは、政治の民主化への道が閉ざされた出来事であった。
1990年代は、市場経済へ邁進する10年間だった。朱鎔基首相の剛腕のもとで経済関連の法整備が進められた。
2001年に、米国の後ろ盾でWTO(世界貿易機関)に加盟したことは、その結実であった。しかし、2000年代に入って、中国は経済こそ高成長を続けたが、ほぼすべての改革ガストップしてしまった。
胡錦濤政権の10年間(2003年~2013年)は正に“失われた10年”だった。
習政権が正式に始動したのは2013年3月だが、それ以降、市場経済の制度改革は前進するどころか、むしろ逆戻りしている。実は、中国経済が減速したのはコロナ禍以降ではなく、その前からだった。
中国経済失速の原因
なぜ中国経済は失速したのか。
市場経済の改革が頓挫し、政府による統制が年を追って強化されているからである。そもそも中国経済が高度成長を成し遂げたのは、自由が付与されたからだ。
アリババやテンセント、百度などのビッグテック企業はいずれも民営企業であり、ほとんどが1990年代に創業されたものである。
90年代の経済自由化が進められなければ、これらのビッグテック企業は生まれてこなかっただろう。2000年代に入ってから、胡政権の10年間、中国経済の年平均成長率は10%に達した。
ただ、その高成長はその前の10年間の市場経済改革が結実したものだった。しかも、2008年に北京五輪が開かれ、2020年には上海万博が開催された。
この2つの国際イベントに関連するインフラ施設、たとえば高速鉄道、高速道路、空港、港湾などが整備されて、経済成長率を大きく押し上げた。
胡政権の10年間の経済成長はインフラ投資によるものと言っていい。
2008年、リーマンショックが押し寄せてきた。その影響を封じ込めるために、胡政権は突如として、4兆元(当時の為替レートで約56兆円)という巨額の財政出動を実施した。
この唐突な財政支出はそれまでの蓄えを使い果たし、「国進民退」をもたらした。「国進民退」とは、財政出動の公的資金のほとんどが国有企業に流れ、国有企業がその資金を使って民営企業を逆に買収するという国有企業の「逆襲」だった。
習近平政権になってから、習主席は繰り返し国有企業をより大きく、より強くしなければならないと強調している。
中国政府は経済成長への期待を国有企業に傾けるだけでなく、アリババなどの大型民営企業に対する締め付けを強化している。これでは中国経済は成長を続けられなくなる。
習政権のもう一つの失策はG7を中心とする先進国との対立姿勢を鮮明にしていることである。習政権の外交は俗に戦狼外交と呼ばれている。すなわち、国際協調ではなく、戦う姿勢を示す外交スタイルである。
その結果、中国の国際貿易はもとよりハイテク技術の発展にもブレーキがかかった。
その典型例は半導体産業が先進諸国によって制裁を受け、中国経済のボトルネックとなったことである。
産業構造の脆弱性
中国の産業構造についてその形をみると、ダンベル型になっている。
一つはハイテク産業で、政府の補助金を得ているため、かなりの規模になっている。もう一つ、低付加価値の産業は労働集約型産業が中心であり、こちらも規模が大きい。
しかし、中付加価値の製造業は意外に規模が小さい。経済成長の順番を考えれば、中国にとって産業構造を高度化させる必要があるが、いきなりハイテク企業へ飛躍することは難しい。
差し当たって重要なのは中付加価値産業を強化することである。
しかし、コロナ禍をきっかけに中付加価値製造業(中堅メーカー)の企業の一部は、生産ラインを海外に移転している。
冷静に考察すれば、中国経済の弱点は一目瞭然である。先進諸国の制裁を受けて中国のハイテク産業は発展しにくくなった。
低付加価値の製造業(中小零細メーカー)は人件費などのコストが上昇しているため、すでにダウンサイジングしている。中国にとって、もっとも必要な中堅メーカーは外国企業の海外移転によって空洞化している。
結果的に経済成長の失速と産業の空洞化は失業率の急上昇をもたらしている。
中国の都市部失業率の推移(中国国家統計局)をみると不可解な点がある。
都市部若年層(16歳~24歳)の失業率は急上昇しているにもかかわらず、都市部全体の失業率はほとんど上昇しておらず、横這いで推移している点である。
もう一つの問題は、・・・
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2023/09/11の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。