成長と分配の好循環とは冗談だろう!
インフレ社会になるか
物価上昇(生活実感としての)が止まらない。しかも手法が異様である。業界カルテルに等しいやり方で、ある日から同類の価格が一斉にドカンと上昇する。
気が付いてみると昨年当初比で9~10%の消費者負担増になっている。で、生活はというと、わずかな賃上げやら一時的な公的補助では到底、カバーできず相変わらずの「火の台所」。
ましてや、年金生活者にとっては、冠婚葬祭の儀を全て停止する事態に陥っている。「補助制度で施行しましょう」どころではないのである。
「いよいよ日本は慢性デフレから脱却し、成長と分配の好循環がやってくる」と、株式市場の上昇を打ち上げ花火にして、マスメディアは煽っているが、信じ難い。
歴代の政権は、一見するともっともらしい政策を唱えるが、惨憺たる結果を招くケースが少なくない。
典型的なのは1996年発足の橋本龍太郎政権で、財政健全化と経済活性化を目指しながら財政収支の悪化と慢性デフレ不況をもたらした。
平成バブル崩壊後の需要不信にもかかわらず増税と緊縮財政に踏み切ったからだが、以降、各政権は、かのアベノミクスの安倍政権を含め増税と、緊縮財政で財政収支均衡を図る財務省路線に縛られ、実質賃金の減少を招いてきた。
その点、岸田首相が掲げる「成長と分配の好循環」は、賃金上昇を重視しているように見えるのだが、達成の見通しは暗い。やはり緊縮財政を前提にする間違いを犯しているからだ(先週号で指摘)。
まず、「成長」を供給、つまり生産量と販売価格を乗じる事業者の売り上げの増加に、「分配」を労働人口に平均賃金を乗じる雇用者報酬の増加に因数分解すると、価額の上昇と賃金の上昇の条件ははっきりする。
何よりも重要なのは需要である。
国内需要が縮むと物価が下がりやすく、売上高は増えないので企業収益は圧迫され、賃金は下がりやすくなる。
内需は低迷していても、円安局面で外需が増えて生産量の拡大が見込まれると、企業は賃金水準を抑えたまま雇用を増やすようになるが、円安が泊まれば元の木阿弥だ。
国内需要は政府部門と民間部門に大別される。
需要不信が続いているのに、政府が民間から徴収する税を民間に十分戻さず、国債償還に回す緊縮財政を行うと、需要はますます萎縮し、物価も賃金も抑圧される。
従って、日本のように慢性デフレの状況にある場合、生産、物価及び賃金の上昇を同時進行で循環させるうえで鍵になるのは、政府が緊縮財政をやめ、民間需要を奪わないことだ。
だが、岸田政権の関心はそこにはなく、増える税収(22会計年度は予測より7兆円も増えた)を、国債償還に回し、財政支出削減を継続させようとする。
そして「好循環」の実現手段は画餅同然の「労働市場改革」メニューと、「異次元の少子化対策」に頼る。
実質賃金は下がる一方なり
こうした「キシノミクス」の空疎さはあとで記すとして、まず緊縮財政と異次元の金融緩和政策が大半の期間実行されたアベノミクスではなぜ、物価と賃金上昇が起きなかったかを分析してみた。
アベノミクスの成果は雇用者報酬の増加に表れている。2019年度の雇用者報酬は2012年度(安倍政権前)に比べて、36.5兆円増でGDPの増加分57.4兆円の64%を占めた。
2012年度には慢性デフレが始まった1997年度に比べ、それぞれ27兆円減、42兆円減になっていた状況とは雲泥の差がある。
だが、脱デフレは達成できなかった。97年度以降の実質賃金の低下は、物価下落以上に名目賃金が下がることが特徴で、まさに真正デフレの産物だったが、アベノミクスでは物価が上昇しても名目資金が追いつかなかった。
二度にわたる大型消費税増税によって物価が人為的に引き上げられたので、低迷が続く内需は萎縮させられ、賃金上昇が抑制された。したがって97年度以降の実質賃金下落トレンドから抜け出せなかった。
そして2020年度初めの新型コロナウィルス禍で、安倍政権は国民一人当たり一律10万円の支給、さらに中小零細企業への給付金など、大々的な財政出動に踏み切り、需要や雇用面での打撃を最小限に抑えた。
その後を継いで菅政権(20年9月~21年10月)、そして現岸田政権が発足した。
2022年2月下旬のロシアによるウクライナ侵略戦争後のエネルギー価格の高騰、さらに円安の進行に伴う輸入コストの上昇の結果、消費者物価が急速に上昇。
実質賃金の低下はますますひどくなった。だが、22年後半から新型コロナ感染の波は収束に向かい始め、消費者の足も徐々に戻り始め、企業心理も前向きに転じ始めた。
日銀が6月に実施した短観(全国企業短期経済観測調査)では、7四半期ぶりに景況感が改善し、2023年度の設備投資計画は前年度比11.8%増と大きく上方修正された。
安倍政権末期のコロナ危機時の超大型財政出動で家計収入への打撃や飲食、宿泊業など中小零細企業の雇用減は最小限に抑えられた結果、コロナ後のV字型反転の道が開けた。
植田新日銀総裁が異次元金融緩和政策を続けているために円安基調が維持され、
企業収益も株価も堅調に推移している。
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2023/09/04の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。