辺野古米軍基地は幻想なり
大浦湾に2つの活断層
自民党防衛族議員の有力者=中谷元氏(元防衛相)が、遂に辺野古への基地移転に疑問符を付け始めた。
理由は明らかだ。沖縄県辺野古の米軍新基地工事で事実上、基地建設そのものが頓挫するしかない活断層と、それに伴うマヨネーズ状の超軟弱地盤があることを理解したのである。
もちろん、この事実は公的認知されてはいないが政府側は由々しき実態として、地盤改良工事などを盛り込んだ「設計変更」を近く県に申請する。
その時点でマスメディアが大々的に解説すれば、大きな問題に発展するのだが、権力下に位置する大手全国紙やキー局テレビは恐らく、しまい。
と同時に結局、沖縄県が「設計変更」を拒否しても政府の法的対抗措置により、政府側の「ドロ沼的エンドレスな埋立て工事」にGOサインが出るだろう。膨大な費用と年月がかかる無駄が堂々と始まろうとしている…
大浦湾の海底部には活断層の存在が指摘されている。防衛庁(当時)が普天間飛行場代替施設に関する協議会(2000年10月)に提出した「推定地層断面図」には、大浦湾海底部の約60メートルの落ち込みについて「断層によると考えられる落ち込み」と記載されていた。
辺野古沿岸部付近の陸上部には、辺野古断層と楚久断層が走っていて、いづれも活断層に分類され、これらの断層の延長上の大浦湾に防衛庁が示した「落ち込み」が重なっている。
政府はこうした指摘に対して、「既存の文献によれば、辺野古沿岸域における活断層の存在を示す記載はないことから、活断層が存在するとは認識していない。このため、辺野古沿岸域における海底地盤の安全性については問題ないものと認識している」と弁明してきた。
防衛省は2017年12月、環境団体との交渉の際、この「既存の文献」を具体的に伝えたが、両文献とも活断層が存在しないと断言していないことが判明した。
そもそも、防衛局自体、2014年以降、毎年のように海上ボーリング調査を続けてきた。防衛局は活断層の存在を否定するのであれば、これらの土質調査や音波探査のデータをすべて提出し、科学的に説明する責務がある。
東北大学の地質学専門家は「今までに公開された土質調査、音波探査のデータを検討し「大浦湾の海底谷地形は辺野古断層である。同断層は2万年前以降に繰り返し活動した、極めて危険な活断層である」と指摘している。
活断層の上に大量の燃料、弾薬や化学物質を扱う軍事施設を建設できないことはいうまでもない。
直下地震や津波が発生すれば、その被害や環境破壊は想像を絶するものとなる。辺野古新基地の立地条件そのものが根底から問われている。
沖縄県の当時の翁長知事は2013年12月に防衛省沖縄防衛局による埋め立てを承認したが、こうした状況を知り、2018年8月に撤回した(その後、沖縄防衛局は行政不服審査法に基づき審査請求し、国文相が19年4月、撤回処分を取り消す裁定を下した)。
超軟弱地盤の存在が仇に!
その2018年の3月、2014年度からの2件の土質調査報告書が公文書公開請求によって初めて公開され、驚愕の事実が判明した。
大浦湾のケーソン護岸設置箇所の水深30メートルの海底に、厚さ40メートルにもわたってほとんどN値ゼロという超軟弱地盤が拡がっていたのである。
CI護岸部のB28、B26地点は特に深刻だが、北側のC3護岸部のB36、B41地点でもN値ゼロの地層が確認されている。
この調査報告書は、2016年3月に出されていたが、防衛局は2年間、その事実を公表してこなかった。N値とは、標準貫入試験でボーリング調査の掘削孔にサンプラー(試験杭)を設置し、75センチの上から重さ63.5キログラムのハンマーを落下させてサンプラーを30センチ打ち込むのに必要な打撃回数である。
N値が大きいほどその地盤は強固ということになる。大型構造物の基礎としてはN値50以上が必要と言われている。
今回のN値ゼロという調査結果は、サンプラーをセットしただけでズブズブと地中に沈んでしまったことを示している。まるで「マヨネーズのような超軟弱地盤」(専門家評)なのである。本事業で設置されるケーソンは総数38個。大型ケーソンの重量は700トン以上にもなる。
基礎の捨石は最大200キログラムの大きな石材だが、N値ゼロの地盤に置いたとたん、そのまま40メートル下まで沈んでしまう。ケーソン護岸や基礎捨石を現状の計画のまま造成・設置することは不可能である。
この調査結果は、前記ボーリング調査の報告書でも「当初想定されていない地形・地質」とされているように、防衛局にとっても、全く想定外のものであった。
当初のケーソン護岸の設計条件は、「厚さ15メートルの沖積層(砂層)、N値11」、「基礎地盤については、砂・砂礎層が主体であり、長期間にわたって圧密沈下(水を含んだ軟らかい粘性土が荷重がかかったことにより、徐々に土中の水が抜けていき、沈下していく現象)する軟弱な粘性土層は確認されていない」とされていた。
当初の設計条件が全く誤っていたこととなり、設計の全面的なやり直しが必要となっている。
このため前記報告書でも、「構造物の安定、地盤の圧密沈下、地盤の液状化(地下水位の高い場所で緩く堆積した砂地盤が地震で激しく揺られ、一時的に液体のように軟らかくなる現象)の詳細検討が必須である」と結論している。
基礎地盤の広範な地盤改良、ケーソン護岸の大幅な構造変更が不可欠というのが現実である。このように軟弱な海底地盤を改良するには、大量の砂杭を打ち込むサンドコンパクショパイル工法と呼ばれる技術があるそうだ。
しかし、水深も深いことから極めて難工事となり、膨大な費用と長い工期が必要となる。さらに問題は、工事が技術的に可能かどうかということだけではない。貴重な自然環境を有する大浦湾で、このような大規模な地盤改良工事を実施すれば環境に致命的な影響を与えるだろう。
また、問題はケーソン護岸の基礎地盤だけではない。前記報告書の「沖積層の柔らかい粘性土~ゆるい砂質土層等厚線図」によれば、護岸内側の埋立区域にも厚さ46メートルもの軟弱地盤が拡がっている。
海底の地盤改良はケーソン護岸の基礎地盤だけでなく、護岸内側の埋立区域一体でも広範囲に実施する必要がある。
当時の翁長知事は「知事撤回理由書」(2018年8月)で次のように指摘している。
=仮に軟弱地盤改良工事により本件埋立事業を遂行することができたとしても、深い海底に厚い軟弱地盤の層が存在しているため、地盤改良工事により生じる濁りの拡散を防止することは不可能であり、一旦濁りが拡散すれば…代替性のない貴重な自然環境を脅かすこととなる。
さらに水深数十メートルの海底に、数十メートルに厚さの軟弱地盤が存在しているのであるから、大規模な軟弱地盤改良工事を行なうならば、本件埋立事業はこれからどれだけの長い年数を要するのか見当をつけることもできない=
基礎地盤改良工事やケーソン護岸の構造変更は、埋立承認願書の「設計の概要」の変更であるから、公有水面埋立法に基づく知事の承認が必要となる。
辺野古基地建設反対の立場にある現職の玉城デニー知事は承認しないであろうが、流れからすると政府の法的対抗措置によりGOサインとなる。
大浦湾の埋立は2015年10月に着工となり、工期は5年と政府は言っていたが、5年を目前にしながら、実際は一部の護岸工事が進んだだけの状況にあり、これから先は設計変更のうえでの「大難航埋立工事」に入っていくことになり、何年かかるかも定かでないし、2本の活断層上の基地という「永久リスク」を抱えていくことになる。
かねてから筆者は、沖縄の米海兵隊の役割状、普天間飛行場のような固定基地は必要ないと思っている。したがって辺野古の新基地・飛行場も必要ない。だが、政府は普天間飛行場の閉鎖・返還と辺野古新基地の完工をリンクし、且つ辺野古新基地の自衛隊基地化を狙っている。
しかし、これだけの脆弱で危険な大浦湾を選定してしまったところに大きな落とし穴があった。この尻ぬぐいは誰がするのか。