リニア新幹線は事実上、死に体と化した
2007年4月、JR東海がリニア中央新幹線を自社費用で推進することを発表し、その唐突かつ意外な構想に世間の目が集まった。
そしてその後、国交省の審議を経て、事もあろうに東日本大震災と福島原発事故で、社会が混乱の極にあった只中の2011年5月、国交大臣がJR東海にリニア建設の指示を出した。
それから3年余の環境影響計画(アセスメント、以下、アセス)を経て、工事実施計画が認可され、2015年12月、2027年の完成を目指して、山梨県早川町で起工式が行われた。
この構想発表から着工に至る8年余のスピーディとも言える動きは、ただひたすら、着工への道のりの障害となるものをすべて排除してきたことの証左でもあり、眼を見張らんばかりの手際のよさで計画は進んでいったのである。
しかし、それにしても、思えばリニア建設という大難工事助走としては、あまりにも短すぎたのではなかったか。
この短い助走期間こそが現在のJR東海にとって致命的なダメージ(リニア新幹線の頓挫もしくは計画の大修正)を招く大きな要因だったとしか言い様がない。
とりわけアセスの期間が2011年7月(計画段階配慮書の提出)~2014年7月(国交大臣意見のJRの東海への送付)という、たった3年間しかなかったことは、無謀に等しいものであった。
結果、このアセスは多くの識者から難工事の多いリニア建設のアセスとしては、最悪との指摘がなされることとなった。
実際、「影響は少ない」「事後の調査を行う」がくり返される内容のアセスは、アセスをしなかったに等しい…
手抜きだらけのアセス
まず、残土(発生土)の処理。全線の86%がトンネルで通過するリニアは、5860万㎥の残土が発生する。それにもかかわらずJR東海は、工事の中で利用する以外の残土については、一切処分先を示すことなく着工してしまったのである。
つまり処理先は工事を進めながら探すという信じ難き事態となり、住民からの思わぬ反発を受けることとなった。
たとえば豪雨による土砂災害の経験を持つ長野県では住民の反対運動により、なかなか処分先が見つからず、また岐阜県では絶滅危惧Ⅱ類のハナノキが、分布する重要湿地を処分先にしたために、当地の自治会などから反対の決議が出されている。
加えて、静岡県では大井川源流部に膨大な残土を置くことが計画され、静岡県からの合意は得られそうにない。
これらはアセス段階で処分先を検討せずに、強引に着工してしまったためのツケがまわってきたということであろう。
つまりJR東海は、残土処分という大問題を安易に考え、一方で住民の意思などは考慮しないという住民軽視の方針をとったということでもある。
残土の処分先が決まらない限りトンネルは掘れない。専門家の調査では、処分先の確定率は四割に達しないという。
これが、リニア工事の進捗しない一つの大きな要因である。次にトンネル掘削による水涸れの問題。トンネルを掘れば地下水が分断され水涸れが起こることは当然のことである。
実際、山梨県のリニア実験線でも上野原市や笛吹市においてトンネル工事による水涸れや、異常出水が各所で起きてしまい、河川や山の減水を招いたため、JR東海は井戸を掘ったり導水路で川に水を流したりしてその手当てをしなければならなかった。
それが僅か43キロの実験線で起きたのであるから、全長286キロという長い距離を考えると、これからどれほどの規模の水涸れが起きるのか想像を絶するものがある。実際、水涸れは南アルプスそのものでも発生し、大規模な自然崩壊の恐れさえある。
しかしながらアセスには、水位や水資源について、破砕帯を除けば「影響は小さい」との文言が目立つ。
つまり実験線の教訓が生かされていないのである。そしてそうした不誠実なアセスの評価が、静岡県の大井川問題を惹き起こしたと言ってよい。
JR東海は毎秒2トンの減水を示したものの、その対策においては具体的な措置について何も明らかにしなかった。また、その後に出された試案も自ら取り下げるという失態を演じた。そしてその結果が今になって、リニアの命運を左右するような大問題になっているのである。
したがってここでも、残土の場合と同様に、アセスの軽視が困難な事態を招いていると言える。
ところで、これらの2つの事例は主にトンネル区間で起こるものだが、問題はトンネルだけに限らない。明かり区間といわれる地上部においても問題は発生する。その代表的なものとして、騒音と日照を挙げることができる。
全線の中で最も明かり区間が多いのは山梨県で約27キロになる。山梨県を含むこの一帯は、もちろん田畑もあるが、甲府市、中央市、南アルプス市、富士川町の各市町の居住地域を突っ切っている。
したがってリニアの軌道直下や近辺に住む人々は、この上ない被害を蒙ることになる。
まず、騒音レベルで言えば、アセスにおいて予測値が75デシベルを越える地点が、山梨県で6ヵ所、長野県で3ヵ所、岐阜県で2ヵ所指摘されている。
新幹線鉄道騒音に関わる環境基準値が70デシベル以下であることからすれば、それらの地点はそれをはるかに越えるレベル。
しかもこれらの予測値は4両編成の列車のデータを用いて、運行供用時の16両編成の騒音を想定し算出したものなので、供用時にはより高い騒音値になる可能性もある。
それに加えて ・・・
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2023/07/24の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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