バラ色の米国市場は本物なのか
楽観色強める米国市場
5月29日(日本時間)現在、米国の市場はバイデン大統領と議会共和党が連邦債務上限問題で、原則合意した、との報道を受け安堵感が広がっている。
この問題は米連邦議会が法案を採決し、大統領が署名した段階で「Xデー」がクリアーされるもの。
しかし、連邦議会下院の採決がスンナリ可決となるのかは定かでない。下院共和党の保守派(4~5名)が全員、反対に回ると「下院否決」の事態に陥る。
もちろん、水面下の共和党内での交渉を重ねて最終的に可決となろうが、その毎に法案内容が調整される可能性もあるし、Xデー(財務省は6月5日という)に間に合わないこともあり得る。
議会下院共和党保守派がマッカーシー下院議長選出にあたって、強い抵抗をみせ、結局、マッカーシー議員がさまざまな約束を強いられて、ようやく議長就任となったことを市場は忘れてしまったのか?
相次ぐ銀行経営破綻でも市場は不可解なほど「織り込み済」を決め込んでしまっている。
米監督当局が、今後の連鎖的破綻に向けての対応策・監督監視強化の意向を伝えてはいるも、まだ具体的に新たなストレステストを実施したわけではないし、やっていることと言えば、新たに預金流出が目立ってきた銀行に対し、大手行やファンドに根回しすることで穴埋めの預金を誘導しているだけだ。
だからこそ、これだけインフレの粘着性が高いにもかかわらず、FRB議長が6月FOMCでの追加利上げ停止意向を語ったわけで、金融業界が強いストレスに見舞われていることの証左といえよう。
市場は、「リセッションは当面ない、仮に追加利上げがなされても、ハイテク中心に株式市場が下抜けすることもないし、債券が再び買われ、ドルは一段と信頼を高めていく」との超楽観視状況になってきた。
果たして、この楽観は続くのか…
銀行危機のリスクシナリオ
少しデータが古いが、4月上旬にかけて実施されたFRBの銀行融資調査によると、総じて貸出態度はコロナ禍を除くと2009年以来の厳しさになっている。
企業向けの貸出態度は、2022年後半からの変化や銀行不安の高まりを踏まえると、3ヵ月前から変化幅は限定的だ。
ただ、リーマン・ショックやコロナ禍ほどではないものの、2001年のITバブル崩壊時と同水準で過去の景気後退時に匹敵する。
借入コストの増大や資金調達難を通じて、企業の設備投資が前年割れとなることは、想定されてはいるがどこまで落ち込むかは、今後の信用収縮に左右されよう。
また、米国ではコロナ禍以降、日々の支払いに苦労する消費者の割合いが高まっており、多くがやり繰りのためにクレジットカードを利用している。
企業向け同様に、クレジットカードや自動車ローン等消費者向けの貸出態度も、厳しくなっており、支出を抑制する方向に働くだろう。
もっとも、足元の貸出態度の水準は、個人消費が前年割れするほど深刻にはならないことも示唆しているが。
1年間を超える金融引き締めによって、住宅ローン金利(30年固定金利)は、コロナ禍(2020年~21年)時の約3%から6%台半ばまで上昇している。
米国の住宅市場は2022年から冷え込んでおり、住宅価格の伸び率も鈍化しているが、住宅向けの貸出態度は商業不動産向けほど厳格化していない。
米国の場合、住宅等の実物資産の価格変化が個人消費に与える影響が大きく、住宅市場の需給を左右する要因の1つが金利動向だ。
したがって、こうした企業、家計への銀行の貸出態度が、これ以上、厳しくなる可能性がある現状を楽観視することのリスクは十分に認識すべきである。
以下、警戒すべき3つのポイントを指摘しておこう。
1.銀行の急速な預金流出の発生
第一に、銀行の急速な預金流出の発生がある。銀行経営の観点から警戒すべき筆頭がこれである。
このところの銀行不安の中で最初に破綻した大手地銀のシリコンバレー銀行(SVB)は、預金の取り付け騒動もあって流動性不足に陥ったことで破綻に至った。
FRBによれば、破綻日を含む一週間の預金流出額は1200億ドル(約16兆8千億円)に上ったという。これは過去の取り付け騒動を大きく上回る史上最大規模の預金流出額であるが、注目すべきは規模だけでなく、その流出スピードである。
例えば1997年11月に破綻した北海道拓殖銀行では、北海道銀行との合併延期が、発表されて預金流出が急加速した同年9月のうちに、預金残高が5%減少したが、SVBでは実に1週間で預金総額の約8割が流出した。
SNSで噂が拡散する前までは全く、そのような動きはなかった。
またSVBに次いで破綻したシグネチャー銀行やファースト・リパブリック銀行も、急激な預金流出によって流動性不足に陥った。
大量の預金流出はSVB特有の現象とはいえず、過去に比べて預金の流出スピードが上昇している可能性が指摘されている。
ようするに預金者側が金融環境の変化に敏感になってきたことがある。情報量が幾何級数的に増加するなかでリスク回避指向が強まったのである。
しかも最近になって預金流出入が多額化しているのは、デジタル化の進展による瞬時の資金移動の円滑化や大口預金比率の高さが挙げられている。
デジタル化について、預金口座を利用する際に最も頻繁に使う手段を、米国の家計に尋ねたアンケート結果がある。
これを見ると、2013年時点ですでにPC等によるオンラインバンキングが3割強を占めていて、近年はスマホやタブレット等によるモバイルバンキングも広く普及したことで、2021年時点では両者の割合は計66%まで高まった。
とりわけ2019年頃からモバイルバンキングの割合が急上昇しており、預金流出と銀行不安の感応度が急上昇した時期と重なる。
過去に比べて時間や場所を選ばずに資金移動が可能になったことで、前述の急激な預金流出が実現したと考えられる。
加えて・・・
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2023/05/31の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。