ウォール街の裏側に潜む際どいリスク
6月FOMCで利上げ停止か
米国でインフレ面の懸念を強めさせる動きが相次いでいる。そうした中、FOMCメンバーの中から次々と「6月の追加利上げを支持する」との発言が、報道されている。
4月28日に発表された1-3月期の雇用コスト指数(ECI)上昇率が前期比で1.2%に加速。その後、5月5日に発表された4月の雇用統計では、失業率が3.4%に再低下した。
これは賃金上昇率の高止まりが続くことを危惧させた。こうした動きで、米国のインフレ面に緊張が持たれだしていたが、ここへきて、さらに不安を強める動きが相次いでいる。
5月12日にフィラデルフィア連銀が発表した民間エコノミストの経済予測の集計であるSPF(サーベイ・オブ・プロフェッショナル・フォーカスターズ)において、長期のPCE(個人消費)インフレ率予測が引き上げられていた。
この数字は、FRBが期待インフレ率の数字として重視するものである。
既に1年以上にわたり、9回も利上げが続けられ、また、FRBがインフレ抑制への確固たる決意を言ってきたなかで数字が高まったのは衝撃である。
期待インフレ率 3.0%から3.2%へ
同日発表のミシガン大学5月消費者信頼感調査の期待インフレ率でも、5-10年の長期の数字が前回の3.0%から3.2%に一段と高まった。
NAHB住宅建設業者景気指数 45から50へ
5月16日発表の「5月NAHB住宅建設業者景気指数」が、前月の45から50へと大きく上昇。
冷え込み必至のはずの住宅セクターに上向きの動きが出ている。これは中古住宅の販売価格の下げ止まりを見込ませる。
GDP成長率 前期比年率2.9%
5月17日、アトランタ連銀のGDPNowが、23年4-6月期のGDP成長率について前期比年率2.9%という数字を示した。
景気後退が迫っているとされているも、マイナス成長は視野に入っていない。
また、2.9%成長は、潜在成長率(FOMCは1.8%と算定)より高く、スラックができてインフレが抑えられるとのFRBの主張が通らなくなっている。
PCEコアインフレ率 前月比0.36% 5月 同0.38%
クリーブランド連銀のインフレ即時予測は4月のPCEコアインフレ率を前月比0.36%、5月を同0.38%で見ている。
インフレ目標2%に到達するには、この数字が0.165%以下で、それが続くことが前提となるも、はるかに高いままである。
こうしたインフレ面の懸念の強まりがあるなか、6月14日のFOMCでは追加利上げを決めるのではないかという見方が台頭している。
景気先行指数の低下は、米景気がこの先冷え込み、雇用の拡大も鈍ることを示唆している。
一方、銀行預金の減少が続いており、資金市場の信用スプレッドも平常でないところで高止まりしている。これは、金融収縮が米経済を過度に冷やす懸念もある。
FOMCのメンバーは、どの方も超一流のエコノミストであるが、得てして足元で起きている経済の動き(定量ではなく定性として)に鈍感ゆえ、インフレ抑制を最優先しがちだ。
実際、米国のインフレは執拗だが、実は経済の信用収縮も突発的に広がる「厄介者」なのである。
FRB議長が開き直ったか
こうした状況の中、FRBパウエル議長は5月19日、銀行システムで緊張が生じていることから、FRBが経済にブレーキをかけるために、政策金利をそれほど引き上げる必要はないかもしれないとの見解を示した。
パウエル氏は、FRBが金融・信用市場の混乱に対処するため緊急融資ツールを用いる一方、インフレ退治に政策金利を軸とする金融政策ツールを割り当てるという、分離原則について語った。
FRBは3月、米中堅銀行2行の破綻を受け、銀行システムの緊張緩和のため広範な緊急融資制度を迅速に実施。一方、3月会合で追加利上げに踏み切ると共に、3行目の破綻直後の5月会合でもインフレ抑制を優先して政策金利を引き上げた。
だが、パウエル氏は金融政策と金融市場安定化の取り組みを切り離すことには限界があると指摘。
「FRBのツールにはそれぞれの目的があるが、その効果は完全に独立していないことが多い」とし、「双方は密接に絡み合っており、それぞれを絶対的かつ、完全に分離することはありえないし、それは可能でも望ましいことでもないというのが個人的な見解だ」とした。
FRB当局者の最近の発言から、6月13・14日のFOMCで追加利上げが実施されるかどうかは際どい判断になりそうなことがうかがえる。
パウエル氏は、「(金融引き締めの)過不足を巡るリスクは、よりバランスが取れてきている」と評価し、これまでの進展を踏まえると、今後の利上げの必要性を判断する前に、「データを確認する余裕がある」と続けた。
その上で、FRBはインフレ率を目標の2%に回帰させることにコミットしているとし、「インフレ率を下げることができなければ、痛みが長引くだけでなく、最終的には物価安定を取り戻すための社会的コストを増大させ、家計や企業に一段と大きな打撃をもたらすことになる」と説明した。
そして最後に、最近の米地銀4行の破綻に伴う経済への逆風を挙げたのである。
「金融安定の政策ツールは銀行セクターの状況緩和に寄与したが、一方でこの展開は信用状況の引き締まりを促している。経済成長や雇用、インフレを圧迫する公算が大きい。結果として、われわれの政策金利はそうでなかった場合ほど、大きく引き上げる必要はないかもしれない。当然、その度合いは極めて不確かだ」と語った。
金融規制強化を急ぐが…
米金融当局は中堅銀行に対する規制強化や預金保険制度の見直しの議論を進めている。
さらに、新たな金融不安の引き金となりかねないノンバンクへの規制強化の動きもみられる。
4月21日、FSOC(米金融安定監視協議会)はノンバンクに対する金融当局の監視を強めるためのガイダンス修正案を提示した。
さらに・・・
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
2023/05/24の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。