【18】ピーター・シフ氏の「世界恐慌2.0」説はポズサー氏のL字型の暴落と同意見!
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ピーター・シフ氏の意見も、ポズサー氏のL字型の暴落と同じで、大惨事が起きる!
ピーター・シフ氏は、2007 年から2009年の世界金融危機(サブプライムローン〜リーマンショック)を「タイタニック」にたとえて予言したことで知られるストラテジスト、経済コメンテーターです。財政赤字を悪化させるオバマケアなどの民主党の「大きな政府」政策には反対の立場です。
ピーター・シフ氏 Wikipediaより引用
彼が最近出演した経済番組で述べたのが、米国は「世界恐慌2.0 」に向かっているという主張です。
5月10日に発表された米国の4月のCPIは予想を下回る+4.9%となり、5月利上げ後の政策金利5~5.25%を下回り、遂に実質金利(政策金利−インフレ率)がプラスに転じました。
これはポズサー氏の実質金利がプラスに転じるまで利上げを続ける必要があるという意見をFEDが遂行したことであり、利上げの休止も裏付けが得られたことになります。
しかしシフ氏の意見では、この+4.9%は以前よりは悪いわけではないが、決して良いわけではないというのです。理由は2022年のCPIが前年比で大きく上昇していたからだそうです。2022年4月のCPIを調べたところ+8.3%であり、2021年と比較すると2023年は+13.6%と計算できました。
さらに、彼の意見では発表されている数字を倍(+9.8%)にして考えると米国民が直面している問題が容易に理解できるというのです。CPIは低い数字が算出されるような計算式になっているからです。
算出に用いられる価格バスケットに入れるモノを米国労働統計局が自由に操作でき、現在は過去に比べると安い値段のモノを入れているそうです。1980年代と90年代に大きな変更があり、70年代にインフレ時と現在のCPIを比較しても無意味だそうです。
バイデン政権の統計操作は、このCPIに限ったことではありません。まず原油価格ですが、記事で何度も取り上げてきたように、戦時に必要とされるSPR(石油戦略備蓄)をウクライナ紛争が開始されたにも関わらず、40年振りの低レベルになるまで放出を続け、無理に引き下げています。
ロイターの記事にあるようにエネルギー省長官は回復には数年かかる、72ドルで買い戻すと語っていますが、実行されていません。シェール革命で産油国となったので戦略備蓄はもう700メガバレルも必要ないと、さらに放出したという記事も目にしました。
米国においてはガソリン価格が支持率に影響するのは事実でしょうが、このためにサウジなどの湾岸諸国をBRICSに近づけてしまったわけであり、やり過ぎでしょう。
雇用統計についても、操作が指摘されています。CNNの記事にあるように4月の雇用者数速報値は+25.3万人と予想の+18万人を上回りましたが、3月の確定値は+16.5万人で速報値の+23.6万人から7万人も下方修正されています。
前月と前々月も同様で、CNNによると、2月の速報値は+31.1万から確報値は+24.8万人、1月の速報値は+51.7万から確報値は+47.2万人となっています。つまり速報値でよい数字を発表し、後に確定値で悪い数字へと変更しているわけです。
このようにCPIは発表されているよりも高く、原油価格も本来はウクライナ紛争開始前よりも戦略備蓄の調整がなければ高いはずです。
4月の失業率は1月と同じ3.4%で54年ぶりの低失業率とされていますが、GAFAMなどで大規模なレイオフの報道がある中で信じている米国民はどれだけいるのでしょうか?
シフ氏もポズサー氏と同意見で、米国は高金利と高インフレの両方に直面しているとしています。
利上げにより借り入れの際の価格が、インフレによるモノと同様に上昇しているわけです。借り入れ価格の上昇はコスト増となり、さらなるインフレを呼ぶ「永続する負のスパイラル」に陥るというのです。
この負の連鎖を断ち切るのに必要なのは支出を抑えることですが、バイデン政権は反対のことを行っているので、さらなるインフレを呼ぶというのです。
イエレン財務長官がデフォルト回避のために債務上限の引き上げを叫んでいますが、財政支出を減らすことを条件とする共和党案をバイデン大統領は拒絶しています。
昨年11月の中間選挙でレッドウェイブ(共和党の波)が起きなかったのは、若年層が民主党に投票したからだとされています。
BBCの記事にあるように大統領は昨年8月、日本以上に高額な学生ローンに苦しむ若年層に対して、一部免除を発表しました。これに加えESGやメディケアなどの政策を翻すと、有権者の反感を買うので覆せないのでしょうが、バラマキ政策はさらなるインフレを呼ぶことは明らかでしょう。
そして、この解決策を実施しないと、しないだろうが、大惨事となるというのです。ポズサー氏の主張するL字型の暴落が起きるということです。
「世界恐慌2.0」は政府債務問題と米ドル危機という形で起きる!
今回の危機は、世界金融危機よりも大規模になるそうです。サブプライムなどという小さなものではなく、米国国債が問題となるからです。高インフレのために誰も米国国債を欲しがらず、それは米ドル危機に繋がり、大惨事となるというわけです。
ロイターの記事にあるように、債務上限を上げなければ危機になると皆が裝っているが、実際は上げることが危機に繋がるというのです。債務上限を上げることで財政支出を増やしていけば、負債はさらに増えていきます。債務上限は負債上昇をくい止める唯一の解決策だというわけです。
今までは、貿易相手国は米ドルを使用し、米国国債を購入し、米国の負債をなくしてくれた。米国民はモノを安く購入し、低金利で借りることができた。
つまり、米ドルが基軸通貨であるため、米国人は高い生活水準を保っていた。これはポズサー氏の主張と同じです。
米ドルの将来を鑑み、もしも世界が米ドルを使用しなくなると、米ドルは下落し、米国民の購入価格は上昇します。同時に借り入れコストも上昇していきます。米国移民の生活水準は下がっていきます。借り入れも程度によっては困難となります。米国経済が崩壊することとなります。
これは、ポズサー氏の意見以上に悲観的なものです。1929年に端を達した世界恐慌以上の災害「世界恐慌2.0」です。
日本の場合は円が下落していますが、未だにゼロ金利であり、生活水準はそれほど下がっていません。ここで金利が一気に引き上げられると、欧州並みの二桁のインフレとさらなる円安、不動産ローン金利の上昇による毎月のローンの支払の増加と不動産価格の下落などで、海外旅行も不可能なほど国力は落ちるでしょう。
MOFのデータが示すようにGDPの2倍以上の国債を保有する政府も、金利引き上げによる利払い増加は避けたいところでしょう。
欧州旅行をすることになり5年前に出張で訪れた1泊約2万円ほどだった4スターホテルが8万円となっており、驚かされました。この5年間で欧州のインフレは驚くほど進んでいたということです。シフ氏がいうようにCPIは倍でみたぐらいが実感に合うのでしょう。
日本のインフレ率が2%ほどだそうですが、そんなものでは済んでいないというのが実感ではないでしょうか?日経の記事にある電力料金の引き上げ率は14〜42%です!
「世界恐慌2.0」は多くのストラテジストやエコノミストが指摘しているリセッション=景気後退ではなく、デプレッション=恐慌です。1930年代の世界恐慌では仕事がなくなったが、価格=生活コストが下落したので、まだマシだそうです。
今回の恐慌では仕事がある人でもインフレで生活コストが上昇し、貯金の価値も下がるので、苦しみます。仕事がなくなった人は、政府から援助があっても、日々の生活には十分ではないそうです。
世界金融恐慌と同様で、もちろん起きることを予測している人は存在するのですが、政府はわからないふりをするそうです。
2021年にも金利上昇は一時的だとごまかしたが、明白になった時に初めて認めたというのです。人々の不安を呼ぶ客観的な意見を無視するのが、政府だそうです。政府に頼らず、自分自身で危機に備えなければならないということです。
最近の英文ニュースを読んでいると、ポズサー氏のような悲観的な意見が増えていると感じています。新興企業を中心に、チャプター11のニュースも目にするようになりました。
ブルームバーグによると、有力VCの1つであるタイガー・グローバルが未公開株企業株の売却に踏み切るそうです。インフレは粘着的という表現が頻出しており、ボスティックアトランタ連銀総裁は、「利下げは来年」と市場に釘を刺しています。5月のミシガン期待インフレ率5~10年後速報値は2.9%予想が3.2%と、2011年以来の高さとなりました。
市場予想のように9月からの利下げが始まるには、やはりL字型の暴落が必要ということではないでしょうか?
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