日銀YCC政策の修正スタートは7月か
植田日銀体制は必ず動く!
植田新総裁の下での初の日銀政策決定会合(4月27・28日)は、金融政策を現状維持とした。
その上で、政策金利についてのフォワードガイダンス(「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」との文言)を削除し、1998年の新日銀法施行以降の金融政策運営を「1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビュー」することとした。
“サプライズ黒田”の記憶も新しく、金融市場では「突然のYCC修正・撤廃」を予測する関係者もいたが、結局はコンセンサス通りの金融政策据え置きとなった。
フォワードガイダンスの撤廃や、金融政策運営の検証についても、事前の観測報道などで取沙汰されており、特段のサプライズではなかった。
一方、金融政策変更を判断するにあたって重視される日銀の物価見通しについては、
同時に発表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)で、今年度から来年度の見通しが上方修正された。
ただ、説明文では「消費者物価の基調的な上昇率は、見通し期間終盤にかけて、物価安定の目標に向けて徐々に高まっていく」とあったものの、今回追加された2025年度の見通しでは、コア物価上昇率の中央値が前年比+1.6%にとどまった。
つまり、現時点では目標が展望できる状況にないということになる。
植田総裁は4月24日の国会答弁で金融政策変更のタイミングについて、「半年先、一年先、一年半先の私どもの物価の見通しがかなり強いものになってくる。2%前後になってくる。しかもそれについての見通しの確度が高まったと認識できる時と漠然と考えている」と発言している。
また、かねて学者ゆえの「データ重視」の姿勢を示してきた。これは、展望レポートで示す見通し、さらに言えば、政策委員の見通しが2%前後に収斂することが重要との考えと解釈できる。今回の見通しでは、まだその考えを満たせなかった。
よって、次に金融政策変更が有力視されるタイミングは、次回「展望レポート」が作成される7月末の金融政策決定会合という流れになる。
5月8日から新型コロナ感染症の分類をインフルエンザと同等の「5類」に引き下げられ、今後、経済活動の機運はより強まることが予想される。
となると6月会合の内容は、植田総裁の言うインフレ率が当面「2%前後」で推移するとの見通しの「確度が高まったと認識できる」ものになるだろう。
とにかく、日銀は事務方(理事・局長クラス)が、金融政策の修正=YCCの撤廃を軸としていることは間違いない。
しかも日銀総裁は、この「事務方」の主導の範中でしか動けない。植田総裁も、そのタイムスケジュールの中での発言や、政策決定会合での主導的立場を演じていくことになる。
現段階では、YCC(イールド・カーブ・コントロール政策)の枠組みを維持するとの前提で、市場機能度への配慮あるいは副作用の低限を第一とすることになる。
YCC改革・撤廃への道筋
逆に言うと、植田総裁は期待した効果が得られない一方で、副作用が累積する現在の異例の金融緩和の枠組み(YCC)を見直し、実現が難しい2%の物価目標と結びついた硬直的な金融政策を柔軟化、正常化していくことが最優先の課題となる。
これまでも事務方主導で、副作用の軽減を図る明示しない形での軌道修正、いわゆる「事実上の正常化」が進められてきたことを踏まえれば、新総裁のもとではその流れは加速する可能性が高いだろう。
他方、新総裁のもとでの日銀は伝統的な金融政策姿勢に基づいて、金融機関の財務や金融市場に与える影響に十分注意を払いながら、慎重に金融緩和の見直しを進めていくしかあるまい。
これは日銀の伝統でもある。
長期国債利回りをコントロールする枠組みであるYCCを維持するために、大量の国債買入れを強いられていることが、日銀にとって当面の最大の懸念材料だ。
日銀が保有する長期国債残高は、今年2月には前年同月比66.2兆円増と1年前の同11.5兆円増から急拡大した。
また、YCCには致命的な欠陥がある。
例えば、米国の景気が堅調でインフレ率が上振れる中、米国の長期利回りが上昇する際には米国経済の堅調さやインフレ率上昇の影響が日本経済にも及ぶ。
さらに日米の利回り格差拡大で円安が進むことにより、日本のインフレ率も上振れしやすくなる。それは本来であれば日銀が金融引き締めの実施を求められる局面である。
ところが、米国の長期国債利回り上昇によって、日本の10年国債金利が目標値並びに許容変動幅を上回るリスクが高まると、日銀は利回りの上昇を抑え込むために、国債の買い入れを拡大させなくてはならなくなる。
これはマネーの供給を増やすことになり、金融引き締めとは逆の金融緩和の強化となってしまう。
環境次第で、本来求められる金融政策とは全く逆の政策を強いられるというのが、
YCCが抱える致命的な構造問題と言える。
このような点を踏まえると、新総裁の下で日銀がまず着手するのは、YCCの大幅な見直しであろう。
本格的な金融緩和の枠組みの見直しではなく、現在の金融緩和の枠組みの柔軟化という名目で、日銀は最短では6月の決定会合で(日本の政治日程が左右)、長期国債利回りをコントロールする枠組みであるYCCの大幅改革に踏み切る可能性がある。
ただし、米国発の銀行不安から金融市場の不安定な動きが続けば、YCC改革は来年に先送りされる可能性も出てくる。
ところで、YCCの改革には5つの選択肢が考えられる。
(1)10年債利回りの変動幅を現在の0.5%から0.75%に拡大する、
(2)変動幅を1.0%に拡大する、
(3)変動幅を撤廃する、
(4)目標を10年から5年に変更する、
(5)YCCを廃止する。
このうち可能性が高いのは(2)と(3)である。
その際には、10年国債利回りが上昇し、円高、株安など金融市場に大きな影響を与える可能性がある。
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2023/05/09の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
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