FRBは二重の失策をするだろう
新タイプの金融危機が迫る
リーマンショック後に金融規制強化が進められてきた中で、ハイイールド債、証券化商品の一部など高リスク資産の保有を減らしてきた銀行に代わって、こうしたノンバンク、つまり非銀行金融仲介機関(NBFI)がリスク性資産を多く保有するようになった。
超低金利環境の下で、投資リターンを可能な限り高めるために、投資ファンドなどノンバンクは、期待リターンの高い高リスク資産に積極的に投資を行ったのである。
しかしこの先、利上げと信用収縮の影響で経済情勢が悪化していけば、不動産市場の悪化や企業の経営悪化などを映して、ハイイールド債、証券化商品の価格下落が顕著になるだろう。
それは投資ファンドを中心に、ノンバンクの投資リターンを低下させる。
そのことが投資家の解約を促し、換金のためのノンバンクの金融資産の投げ売りが、金融市場を大きく混乱させる可能性が高い。
その結果、米国では再び金融不安が生じることになることを織り込んでおくべきだ。それは「米銀破綻懸念とノンバンク危機が複合した新しいタイプの金融危機」となりそうだ。
確かに、4月21日、米金融規制当局からなる金融安定監視評議会(議長はイエレン財務長官)は、ノンバンク監視へのガイダンス案を提示。
特定のノンバンクが経営悪化などで市場が不安定化するリスクがある場合には、米金融当局が経営情報を求め、必要であれば監督の対象として関与できるようにする、という内容である。
しかし今後60日間、この提案に対する意見を公募した上で、具体化を進めるという。これでは間に合うまい。金融市場の動揺は極めて早い伝播となる。
SVB、シグネチャーバンク、そしてFRC(ファースト・リパブリック銀行)と、結局、他行との併合や預金全額保証などでクリアーしたではないか。もうヤマは越えた。
VIX指数の低さが物語っているではないか、とはウォール街の声だが、そんな簡単な構造ではない。
債務膨張の危うさ
多くの米銀が債券の含み損を抱えている。
だが、それは負債という氷山の一角にすぎない。
FRBによると、2009年末以降に政府、企業、家計による負債総額は90%増の68兆ドル(約9090兆円)に達した。金利は昨年初め以降、1980年代初頭以来となる急激なペースで上昇した。金利が上がると既存の融資や債券の価値は下がる。
ただ、常に顕在化するわけではない。貸し手は通常、財務報告書において融資を時価評価することはなく、債券もしないことがある。
もっとも、会計上の扱いにかかわらず、経済的な現実としては、これらの債券や融資の価値はそれが発行・組成された時よりも価値が切り下がり、誰かがその損失を負う必要が出てくる。
そして、この実像が突然、SNSなどを通じて流布されるや、ハチの巣を突いた如くになる。
BIS(国際決済銀行)の調査責任者は、「銀行は債務の保有者として最も目立つ存在だが、年金基金やミューチュアルファンド、プライベートクレジットファンド(非公開融資を行なうファンド)、生保、中小企業向けの投融資を手掛けるBDC(ビジネス・デベロップメント・カンパニー)、ヘッジファンドといったノンバンクによる債務も合計すると、銀行に匹敵する水準だ。
これらのノンバンクはシャドーバンクとも呼ばれるが、とにかく銀行であれノンバンクであれ、同じリスクを抱える、銀行ばかりに気を取られないよう注意すべきだ」と警告している。
年金基金やミューチュアルファンドなど、借り入れを行わないロングオンリー(買い持ちのみで通用)の投資家にとっては含み損が生じても、システム全体に波及するような影響は受けない。
だが、金融仲介機関にとっては、状況は一段と複雑だ。資金調達コストに比べると、資産による収益は著しく目減りする。これがネックとなって融資拡大が難しくなり、一部にとっては事業存続にかかわる問題に発展しかねない。
2007年~09年のリーマンショック(世界金融危機)は影の銀行から始まった。
これらの企業が短期の借用書(IOU)を発行して、調達資金を住宅ローン担保証券(MBS)に投じていたことが要因だった。今では銀行が厳格な規制下に置かれていることもあり、規制当局はかねて、次の金融危機も影の銀行が引き金になると想定してきた。
そのため3月、銀行を震源地とする危機が発生したことは予想外の展開だった。これは前回の危機よりも影の銀行のリスクが低減されたことを意味するのか、それとも単に明るみに出ていないだけなのか。
実のところ、影の銀行は海外で問題が表面化している。IMFが4月に公表した報告書で指摘した。昨年9月には、英政府の予算案を巡る懸念から英国負債も急落。
「LDI」(ライアビリティー・ドリブン・インベストメント=債務連動型運用)という戦略をとる年金基金は、利回り急騰で巨額の損失に見舞われた。追い証の差し入れを求められた年金基金は保有債券の投げ売りを余儀なくされ、さらに利回りを押し上げるという悪循環に陥った。
昨年10月には、韓国の金融会社が不動産開発案件向け融資を手当てするために発行していたCP(コマーシャルペーパー)でデフォルト(債券不履行)に陥った。
これを受けてCPおよび社債市場の金利が全体的に跳ね上がった。米国ではまだ、同じようなことは起こっていない。それでも、世界金融危機以降、影の銀行は著しく膨張している。中でも最も急ピッチで拡大しているのがプライベートクレジットと呼ばれる分野だ。
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2023/05/02の「イーグルフライ」掲示板より抜粋しています。
続きを読みたい方は、「イーグルフライ」よりご覧ください。
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