米ドル離れの動きと中東諸国
米国内で、バイデン政権の対外政策について厳しい批判の声が上がっている。
アリゾナ州選出の共和党下院議員ポール・ゴサール氏はツイッターで、ウクライナ戦争に対するバイデン政権の政策は失敗だとした上で、「自国の国境警備に関係のない国への制限のない支援にうんざりしている」と投稿し、多数の移民の流入を止められていないことを批判した。
中東政策については、イスラエルを4月27日に訪問した米国フロリダ州のデサンテス知事や、5月1日に訪問したマッカーシー下院議長が、イスラエルのネタニヤフ首相と距離を置くバイデン政権の政策を見直すべきと指摘している。
また、サウスカロライナ州選出の共和党リンゼー・グラハム上院議員は、バイデン政権のアフガニスタンからの米軍撤退について、フォックスニュースのインタビューで、米軍関係者の発言だとして「米国は、警告なしにアフガンのテロリストに攻撃される可能性がある」と述べた。
さらに、民主党の次期大統領指名争いに出馬を表明したロバート・ケネディ・ジュニア氏(ケネディ元大統領の甥)が、ツイッターで、サウジアラビアに対する米国の影響力の崩壊、中国・イラン・サウジ間の新たな同盟関係について、軍事力を通じて世界的覇権維持を狙った米国のネオコン戦略の無残な失敗の象徴だと述べた。
そして、米国のシンクタンク「センター・フォー・ナショナル・インタレスト」(CNI)が報告書で、米国がテロ組織(IS)との戦いを口実に、シリアに軍を駐留(およそ900人)させていることについて、論理的根拠がないとして、米国だけでなく地域諸国に多くの問題をもたらしていると指摘している。
バイデン政権が直面している難題は、これらを含め米国の政界や研究者からの対外政策の見直しを求める声だけではない。
国外では、米国が他国に圧力をかけるため、基軸通貨としての米ドルを手段として使ってきたことに対抗し、金融・通商取引で自国通貨を使用する動きが広がりつつある。
この動きを推し進めている主な国は中国とロシアだが、インド、マレーシア、ベネズエラ、トルコ、イランなども手続きを進めている。
以下では、自国通貨使用の動きについて、中東諸国を含むいくつかの事例を取り上げ、国際社会での米国の影響力の変化について検討する。
欧米の制裁を無効化する自国通貨使用
欧米から経済制裁をかけられているロシアとイランは自国通貨の使用に積極的である。
3月23日、イラン中央銀行は、ロシアとの間で、米国が主導して制裁に利用してきた国際銀行間通信協会(SWIFT)による決済システムを必要としない金融情報通信システムが接続されたと発表した。
ロシアのウクライナ侵攻に対する欧米主導の対ロシア制裁に、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国が冷ややかであることは、国連での投票行動や制裁不参加への協調行動から明らかである。
なかでも、エネルギー輸出国はロシアとの実利的な関係から積極的中立政策をとっている。
4月5日にOPECプラスが合意した今年末までの日量200万バーレルの自主減産も欧米が望むものではない。
OPECプラスのメンバーは、OPEC加盟国のイラン、イラク、クウェート、サウジ、ベネズエラ、リビア、UAE、アルジェリア、ナイジェリア、ガボン、アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ共和国と、非加盟国のロシア、カザフスタン、アゼルバイジャン、バーレーン、オマーン、スーダン、南スーダン、マレーシア、ブルネイ、メキシコの23カ国である。
仮に、これらの国の多くが、原油、天然ガスの取引で、米ドル決済ではなく現地通貨の使用を進めた場合、為替市場に変化が生まれると考えられる。
その動きを牽引しようとしている国のひとつが中国といえる。
3月29日には上海石油天然ガス取引所が、「人民元建での液化天然ガス(LNG)取引が中国海洋石油(CNOOC)とフランスのトタルエナジーズ間で完了」と発表している。
また、中国は、2022年12月に習近平国家主席がサウジを訪問し、第1回中国・湾岸アラブ協力会議首脳会議」に参加した際、中国元による石油取引を求めており、その準備が着実に進められている。
このように、ロシア、イラン、中国は、貿易決済から米ドルを排除する方向で取引所の開設、決済通信システムなどのインフラ整備を進めている。
国際通貨取引での自国通貨使用の拡大
米国と対立しているわけではない国も、通商関係の強化のみならず米ドルの優位性の修正に取り組み始めている。
2023年4月、マレーシアとインドは、今後すべての相互間取引で米ドル決済ではなく、インド・ルピーを使用すると明らかにした。
両国間の通称規模は年間200億ドル以上で、この取引の多くを、インド・ユニオン銀行に特別口座(ルピー使用)を開設し、対応することで合意している。
こうしたドル離れの動きは、2国間の通商に限らず、経済連携を強めるBRICSや上海協力機構(SCO)でも進みはじめている。
BRICSへは、2022年7月にイランが、11月にはアルジェリアが加盟を申請している。
また、SCOへはイランが間もなく正式加盟することになっており、トルコ、エジプト、カタール、サウジをはじめ対話パートナー国として参加や参加を予定している中東諸国も多い。
BRICSについては、ブラジルのルラ大統領は、4月12日から15日の中国訪問で、BRICS内の共通通貨の創設について協議し、4月26日、スペインを訪問した際には、BRICS内の貿易でそれぞれの国の通貨を用いることを支持すると述べた。
なお、同大統領は、南米での共通通貨の創設にも言及している。
また、SCOでは、共通通貨の導入については正式に議論されていないものの、加盟国間の自国通貨による決済割合を増やす措置をとることで合意しており、東南アジア諸国連合(ASEAN)との間でも、自国通貨による決済を協力分野として推進しようとしている。
このほか、国際南北輸送回廊(INSTC)に関係するインド、パキスタンも自国通貨取引の拡大を目指しており、パキスタンは、ロシア、アフガニスタン、中国との貿易で自国通貨の活用について協議している。
このINSTCは、物流のチョークポイントとなるスエズ運河やバブ・エル・マンデブ海峡を通過しない物流ルートであり、インドからイラン、アゼルバイジャンを経由してロシアに至るルートである。
イランは、このルートを利用することで資源豊かな中央アジア諸国との通商拡大を期待しているインドとの関係を深めている。
ニューデリーでのSCO国防相会議の前日の4月28日、イランとインドの国防相が会談し、5月1日にはインドのドヴァル国家安全保障顧問がテヘランを訪問し、シャムハニ国家最高安全保障評議会書記と、自国通貨での決済メカニズムの活性化、INSTCの整備(道路、鉄道、港)について協議を重ねている。
湾岸産油国の米国離れ
4月15日、米国のイエレン財務長官は、米国が他国に対して経済制裁を行使していることで米ドルの基軸通貨としての地位を低下させるリスクがあると指摘した。
米国がイラン、ロシア、中国などに制裁圧力をかけ続けることで、これらの国々は制裁に対抗する手段としても、通商取引での自国通貨使用で協力を強めている。
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メルマガ&掲示板「イーグルフライ」より一部抜粋しています。
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(この記事は 2023年5月5日に書かれたものです)
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