ゾルタンポズサー【16】ポズサー氏の主張するL字型の暴落の可能性が米国西海岸で高まっている
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https://real-int.jp/articles/1932/
ファースト・リパブリックの破綻で銀行危機は新たな段階に入った
前回の記事「L字型の暴落は起きるのか?」では、スタートアップやVC破綻の可能性、粘着性インフレ、米国政府デフォルトリスク、CMBS(商業用不動産担保ローン)の値下がりなどの新たな金融危機の潜在リスクについて記しました。
https://real-int.jp/articles/2048/
一方、3月半ばのSVBなど3行の破綻は仮想通貨、スタートアップ関連など特殊な性格のものでした。銀行が保有する債券を担保に1年間FRBが融資するBTFPプログラムが設置され、株価が急落していた地銀には緊急融資を実施、銀行危機問題については、一旦は解決されたはずでした。
しかし、5月1日、ファースト・リパブリック銀行が破綻、JPモルガンが救済する運びとなりました。ロイターの英語記事にあるように、ファースト・リパブリック銀行はサンフランシスコを拠点としている銀行で富裕層に特別低金利の住宅ローンや融資を提供していました。
FEDの5%への利上げでこのローンが損失となり、保証されている25万ドル以上の資産を持つ富裕層が不安となり預金を引き出していたようです。3月末時点の預金量が2022年末時点から41%も減少したことが明らかになり株価が急落、最近のパターンで株価に影響を与えないように週末に処理されました。
この破綻を受け、やはりカリフォルニアに本店を置くパック・ウエスト銀行やメトロポリタン銀行、本拠地はアリゾナだがカリフォルニアに展開するウエスタン・アライアンス銀行の株価もそれぞれ30%、21%、25%と急落しました。金利高騰による損失増大とそれを懸念した預金流出がファースト・リパブリック同様にいつ起きても不思議ではなくなったということです。
これは「大きすぎて潰せない」大銀行ではない地方銀行、特に西海岸の銀行、はいつ破綻してもおかしくない状況になったことを意味します。
理由はFEDの急激な利上げで2022年3月には0%だった政策金利が2023年5月には5.25%と急騰、もはや全米の半分以上の銀行が資産よりも損失が大きくなっているからだそうです。米国のヘッジファンドの友人によると、こうした隠れた負債は財務諸表を読めば明らかだとのことです。
さらにブルームバーグの記事にあるように、アップルがゴールドマン・サックスと組んで年金利4.15% と平均の10倍の金利の預金口座を開設しています。これによりZ世代やミレニアル世代の地方銀行からの預金流出に繋がるのではないでしょうか?
地方銀行への信頼がなくなったということであり、銀行危機は新たな段階に入ったようです。
なぜ今回の金融危機は西海岸が震源地となるのか?
まずはオフィスの空室率の高さです。サンフランシスコのローカル記事にあるように29.5% であり、メタやピンタレストなどのIT大手の解雇が続いており、さらなる上昇が予想されています。ニューヨークのマンハッタンは16%なのでいかにサンフランシスコが異常なのかが分かるでしょう。
家の取り押さえやクレジットカード延滞も増加しており、サンフランシスコではホームレスは前年比2倍となり、犯罪率も高くなり美術館が立ち並ぶSOMA地区でさえ危険というニュースも見ました。ニューヨークとの逆転現象が起きています。
次に、商業用不動産危機です。更新の際には高金利とデフォルトにより銀行は厳しい条件を課すことになります。USATODAYの記事では、PIMCOやブルックフィールドがカリフォルニアなどで所有するオフィスの更新を諦めデフォルトとしたそうです。
モルガン・スタンレーは、今後3年で更新される約3兆ドルの商業用不動産の半分がこうした危機にあり、価格は40%下落すると予測しています。これは2008年のリーマン・ショック以来の下落率だそうです。こうした商業用不動産の80%は地銀が貸し手となっており、負の連鎖に陥ることとなります。
当然、それを担保としたCMBSの価格もさらに下落し、地銀の負債は増えていきます。
そして、スタートアップが西海岸に集中していることです。
SVBの破綻により、スタートアップは借り入れの機会を失いました。VCも新たな上場が実施されないので資金繰りが厳しく、増資も難しくなっています。既に黒字の企業は問題ないですが、SPAC上場などにより多くの企業が赤字上場しており、上場企業でも資金繰りは厳しいはずです。
今回の金融危機を世界金融恐慌(サブプライムローンとリーマンショック)と比べている国内記事を目にしますが、低所得者層向けのジャンク債を複雑に組み込んだデリバティブなどは規制されており、まったく状況は異なります。また、リーマン・ショックはウォール街のあるニューヨークで発生しました(その前段となるサブプライム・ローンの破綻はフロリダ州とカリフォルニア州)。
むしろITバブルに似ているわけで、FTXのような詐欺事件も起きており、スタートアップの次なる破綻が起きるのも時間の問題ではないでしょうか?そしてそれはVCの資金繰りにも影響を与えていきます。
パウエル議長は、リセッションは望んでいない
パウエル議長は、自身のヒーローであるボルカー元議長のようにインフレを根絶する意志があると、ポズサー氏は主張していました。しかし、他のFRB幹部と異なり、5月3日のFOMCではリセッションを期待していないと発言、波紋を呼んでいます。
リセッションはインフレを根絶するために必須であり、これでは今回の利上げを最後とした様子見中にインフレが悪化しても、これ以上の利上げは望んでいないと解釈されます。
深読みすると、今回の銀行危機がリーマン・ショック時と同程度に悪化すると見ているということではないでしょうか?銀行はリーマン・ショック時のように、ハイリスクなデリバティブを手がけているわけではありません。原因は、2000年3月の新型コロナによる緊急利下げを端とするゼロ金利政策とQEによる株価と不動産価格の急騰、2022年3月からのわずか1年での5%の急速な利上げです。
もしも地方銀行の連鎖破綻と株価暴落が起きれば、FEDが糾弾されることは避けられないでしょう。これがパウエル議長のハト派的発言に繋がったのでしょうか?そうなると2023年末のドットプロット5.1%も市場が望む4%台に下方修正されることとなり、インフレが長期化することになるのでしょう。しかし、5日の雇用統計も予想以上によく、パウエル議長以外のFRB幹部からはタカ派発言が出ています。年内の利下げにはまだ触れられていません。
ブルームバーグの記事にあるように、米国のデフォルト危機(少なくとも国債の格下げ)も税収の悪化により8月から6月に繰り上がりました。ここでは触れませんが、BRICS諸国での脱ドル化も急速に進んでいます。
ブルームバーグの記事にあるように5月4日には上記のパック・ウエスト銀行やウエスタン・アライアンス銀行が身売り報道で株価が50%以上も下落、売買が停止となる大混乱に陥りました。ツイッター上では当局が売り煽りをしているアカウントを調査、地銀株の売りを制限するという報道が飛び交い、5日には一旦は、事態は収束しました。
繰り返しになりますが、問題は地方銀行への預金者からの信頼がなくなっていることです。空売り制限でヘッジファンドによる売り浴びせなどの仕掛けは抑えられます。しかし、預金者の信用がなくなればファースト・リパブリック銀行同様に預金が流出し、負債が顕在化し、破綻に繋がります。
5月3日のFOMCで金利が5.25%となり、米国のスタートアップ、VC、銀行、不動産ローンやクレジットカード利用者の返済額はさらに増加することになります。地方銀行やスタートアップ、VCなどの破綻の可能性は高まります。
結果は、株価暴落とそれに続くスタグフレーション(成長のないインフレ)であり、ポズサー氏の予想するL字型の暴落に他なりません。そして、この暴落が起きたときにはFEDも利下げをせざるをえないでしょう。西海岸を震源とする地銀の破綻、スタートアップやVCのチャプター11や商業用不動産とCMBSの下落、米国国債の格下げ、6月のBRICs会議でのBRICSコインの設立など何が原因となるかまではわかりません。
しかし、いずれにしろ、米国や米ドルの覇権の終焉のきっかけとなるでしょう。ポズサー氏や西原宏一さんの予想する米ドルの中長期的な、大きな値幅を伴う下落が開始されることになるのではないでしょうか?そして松島社長が主張しつづけている金の上昇にも拍車がかかるはずです。統計分析では、3,000ドルを目指すことになるようです。