腐敗し切った酪農・乳業村利権構造
牛乳は捨てるほど余って、値上がり
1月23日の「NHKクローズアップ現代」では「牛乳ショック、値上げの舞台裏で何が」と題したレポが、報道された。
国際的な穀物相場が高騰してエサ代が上昇しているうえ、乳製品(脱脂粉乳)が過剰になって余った生乳を廃棄したり、減産せざるを得なくなっているという内容だった。
しかし、現実には我々が店頭で購入する牛乳の値段は、普及品で1L180円~210円(税抜き)と、1年前の140円~170円あたりから確実に値上がりしている一方、バター、チーズ類は商品そのものが激減し、中には2倍近い価格暴騰したものもある。
生乳は捨てるほど余っているのに、なぜ乳価は上がるのか。ここには、実に理不尽で不可解な構図がある。
日本の農政の異様な姿を知って置くべきだろう。チャットGPTでも絶対に正解できないのである。
牛乳(加工乳)=水+バター+脱脂粉乳、この等式がベースとなる。逆に言えば、できたバターを脱脂粉乳に水を加えると元の牛乳に戻る。これは“加工乳”と表示されているが、牛乳と成分に違いがあるわけではない。
生乳からバターと脱脂粉乳が同時にできる。これが生乳と乳製品の需給を複雑なものにする。
2000年に汚染された脱脂粉乳を使った雪印の集団食中毒事件が発生して以来、脱脂粉乳の需要が減少し、余り始めた。脱脂粉乳の需要に合わせて生乳を生産すると、バターが足りなくなる。2014年のバター不足の根っこには、この需給関係がある。
当時、日本ではバターが足りなくなったが世界では余っていて価格も低迷していた。国内の不足分を輸入しようと思えば、安価でいくらでも購入できた。
それが輸入されなかったのは、制度的にバター輸入を独占している農水省管轄の独立行政法人=農畜産業振興機構(ALIC)が、国内の酪農生産(乳価)への影響を心配した農水省の指示により、必要な量を輸入しなかったからである。
なぜ農水省はALICに輸入させなかったのか?バターを間違って過剰に輸入して余らせると、それを国内で余っている脱脂粉乳と合わせて加工乳が作られる。
牛乳工場で加工乳を含めた供給が増える。これだけでも価格の下げ要因となる。
さらに、問題を複雑にするのは、農水省の制度によって、生乳価格は一物一価ではなく、バターや脱脂粉乳の原料となる「加工原料乳」の価格は、「飲用牛乳向け」の価格より33%も安いことだ。
このため、もともとは加工原料乳を原料とする加工乳のコスト・価格は飲用牛乳より安くなる。安い加工乳が多く出回ると、飲用牛乳の価格も下げざるを得ない。
当然、乳業メーカーは乳価の引下げを酪農団体に要求する。そうなると、酪農団体や農林族議員は農水所にバターを輸入しすぎたせいだと批判する。
彼らの気分を害すると出世できなくなることを恐れて、役人は十分な量のバターを輸入させない。酪農団体も乳製品の輸入に反対し続けてきた。ALICではなく自由な民間貿易に任せていれば、十分な量が輸入され、バター不足は起きなかった。
結果的に多く輸入されてもバターや生乳の価格が下がるだけで消費者は困らない。
上がり続ける生乳価格
脱脂粉乳の在庫が増大し、生乳を廃棄したり、生乳生産を減少したりしなければならなくなったことを酪農家は国の場当たり的な政策のせいだと言う。
バター不足の後、農水省はバターの供給が足りなくならないよう、酪農団体に生乳生産増加を指導した。バターの需給が均衡すると、脱脂粉乳が過剰になり在庫が増大した。そこで今度は減産を指導している。
脱脂粉乳が過剰にならないようにすれば、国産ではバター全てを供給できないので、不足分を輸入すればよい。
しかし、輸入には酪農団体が反対する。このため、農水省がバターを全て国産で供給できるよう生乳生産増加を指示した結果、脱脂粉乳が過剰になったのである。
酪農家なら、乳製品の需給関係も理解すべきである。増産と減産を繰り返したくないなら、一定量のバターの輸入を認めるしかない。自らの政治活動が生乳廃棄、減産を招いたのである。
生乳価格(飲用向けと加工原料乳を加重平均した総合乳価)は2006年以降、大きく上昇している2006年=10キログラム当たり790円→2022年=1050円)。
さらに22年11月には酪農団体と乳業メーカーの交渉で決まる飲用牛乳向けの乳価が、1キログラム10円=8.3%も引き上げられた。
バター用など加工原料乳も10円=12%引き上げられた。加工原料乳への政府補給金も同年12月、4円30銭=5.2%引き上げられた。
デフレから脱却し切っていない時代に、乳価は2007年に比べ5割高(今年)となった。負担しているのは消費者である。
しかも酪農団体はさらなる引き上げを要求している。過剰なのに価格が上がるというのは、農産物需給についての通常の経済学では説明できない。
市場外で別の力が働いている以外にない。農政は似たようなことを経験している。食管制度時代の米価である。
このとき、政府は生産者から米を買い入れ、その際の価格を政治的に決めていた。
JA農協の大政治運動で米価を上げたので米の過剰生産となり、減反政策を実施せざるを得なくなった。
しかし、生産を減少させる減反政策を行いながら、生産を刺激する米価引き上げを同時に行っていたのである。
このときは一定の米価を前提として、それを維持するよう生産を減少・調整した。
農産物市場で供給が変化するなら価格が変動して需給を調整するのに、この場合は価格を固定して数量で調整したのである。
生乳の価格決定は、乳業メーカーと生産団体との交渉で行われる。その舞台裏で、どのような動きがあるのか、部外者にはわからない。
しかし、乳業、酪農、農水省、農林族議員は、利益共同体である。乳価交渉で、乳業メーカーが政治的な意図を忖度しないとは言えない。彼らはバター不足の際の農水省の行動を理解できたはずだ。
まず乳価水準を決める。乳業メーカーは生産した脱脂粉乳等の在庫を調整することで脱脂粉乳等が過剰に供給され、その価格が低下しないようにする。今年3月時点でも脱脂粉乳は過剰となって在庫が増えているのに価格は下がっていない。
これは極めて重要なポイントである。
乳業メーカーとしては、過剰在庫による倉庫料の負担を減らそうとするなら、脱脂粉乳の価格を大幅に引き下げて在庫を一掃すればよい。安い脱脂粉乳から無脂肪乳や低脂肪乳などの加工乳が安く作られる。
安価な加工乳の需要が増えれば、飲用牛乳の価格も下げざるを得ない。そのときは生乳価格(乳価)を酪農団体と交渉して下げればよい。
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(この記事は2023年4月22日に書かれたものです)
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