財政審には血も涙もない
財政審のとんでもない建議
財務相の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)のタガの外れぶりが、いよいよ目に余るようになってきた。
財政審はこれまでも、社会保障費の増加を「財政悪化の最大の要因」と決めつけ、社会保障改悪における行政機構内での震源地となってきた。
昨年10月に自公政権が強行した75歳以上の高齢者の医療費窓口負担2倍化(年金を含む一定所得以上の人への2割負担の導入)も、財政審が長年要求してきた政策の一つである。
例年5月と11月に発表する財政審の建議は政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)や、概算要求、予算編成に向けた議論を方向づける役割を果たしている。
同時に、建議に盛り込まれた社会保障、教育、地方行財政などの改悪案は、それらを所管する各省の長期の議論に大きな影響を与えている。
その財政審の歴代建議の中でも、昨年5月の「歴史の転換点における財政運営」は、2000年代初頭に猛威を振るった小泉「構造改革」の再来を思わせる新自由主義観が露骨に示され、その野蛮さが医療・介護関係者に衝撃を与えた。
同建議は、ロシアによるウクライナ侵攻や世界的な物価・金利の上昇を「歴史の転換点」と捉え、日本の税・財政構造を見直さなければならないと言う。
そこには、世界的な金利上昇圧力の高まりが日本の国家財政に与える影響への財務省官僚の焦りが一面では投影されている。岸田政権の「異次元の金融緩和」によって日本の国債発行残高は22年度中に1千兆円を突破した。
財務省は22年度予算案を基準に、金利が1%上がると国債の元利払いに充てる国債費が25年度には3.7兆円増えると試算。現在の税・財政構造が崖っ淵に立たされていることをさかんに告知している。
しかし、そこから出てくる財政再建築は、その多くが善良な一般国民への一層の負担増・給付減を迫る社会保障の大改悪案である。
建議は19年10月の消費税率10%への引き上げを「一里塚にすぎない」とし、さらなる消費税増税にも含みを持たせている。建議の中でもひときわ目を引くのが、医療給付費の伸びを日本の経済成長率に合わせるべきだという主張である。
財務省の担当者は「経済成長率とは名目GDPを指したものだ」と答えている。岸田政権は長年、医療給付費の伸びを抑えるための医療制度改悪を次々と進めてきた。
ただし、そうした連続改悪によっても日本の医療給付費は、2000~22年度の間に26.6兆円から40.8兆円へと年平均2%のペースで増えており、団塊世代が75歳以上になることなどで今後も伸び続けると予想されている。
一方、同時期の名目GDPは537兆円から550兆円とほぼ横ばい。これでは、これから高齢者がどれだけ増えても医療給付費は、一切増やさないと言っているのと同じである。経済成長の伸びに社会補償費の伸びを合わせるという発想のルーツは小泉政権時代に遡る。
05年6月の政府の経済財政諮問会議で奥田碩経団連会長(当時)ら民間議員4氏は、「経済規模に見合った社会保障に向けて」と題した提言を発表。提言は、団塊世代が老後を迎える2010年までに社会保障給付費の伸びを管理する指標が必要で、名目GDPの伸びが「妥当」だとした。
あまりに過激な案には政府内でも反発が強く、厚労省は代案として、メタボ健診など生活習慣病対策と病院の平均在院日数の短縮を進めれば、2025年度には6兆円の医療費削減が可能との試算を発表。
当時、財務省から厚労省に出向し数値の策定に携わった村上正恭氏(現大学院教授)は、小泉首相から「なんらかの指標が必要」との圧力がかかるなか、6兆円という数字は「エイヤッ」で決めたと明かしている。
予防論は、民間ヘルスケア産業の育成を目指す経産省が飛びついたことで、財政審とは違った新自由主義の色彩をまとうようになるが、当時の時点では財界発の突風を凌ぐための厚労省の“緊急避難措置”だったと言える。
昨年5月の財政審建議は05年の議論を振り返り、予防による給付削減論を「エビデンスに基づかない実効性を欠くものであったことが明らかになった」と批判。
今度こそ経済成長率を指標とした医療給付費抑制策を導入すべきだと主張した。17年前に封印された財界構想を復活させる、文字通りの小泉「構造改革」路線への回帰宣言である。
しかし、厚労省の予防論に根拠がなかったからといって、医療給付費を名目GDPに合わせるという暴論が許されるはずもない。
財政審は憲法無視なり
そもそも、財政審は国家行政組織法8条や財務省設置法6条、7条に基づいて設置された諮問会議である。
法定諮問機関は法秩序の最高規範である憲法の要請に基づかなければならず、委員は特別国家公務員として憲法尊重擁護義務を負う。
そのため、他の審議会では、実態として憲法を蔑ろにしていても、委員や官僚が折に触れて憲法に言及する姿が見られるし、報告書などにも申し訳程度であっても憲法を引用することがある。
憲法25条は1項で「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と国民の権利をうたい、2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と国の義務を定めている。
・・・
続きは「イーグルフライ」の掲示板でお読みいただけます。
(この記事は2023年4月16日に書かれたものです)
関連記事
https://real-int.jp/articles/2076/
https://real-int.jp/articles/2067/