マイナンバーカード化のおぞましい狙い
国民の管理強化への工程表
マイナンバーカード(以下マイナカード)の発行期限が、今年9月末まで延長される方針であることが報道されている。つまり、なかなか国民の8割の申請済という目処が見えてこないからである。
ただ、政府の“マイナカード社会”への執念は第一級のレベルにある。筆者も含め、既にカード入手を終えた方々は今後の末恐ろしい展開に巻き込まれることになる。
しかし、その一方でマスコミ・報道は一重にカードの利便性と、行政処理の簡素化への期待を告知することで、その危険性への認識を麻痺させようとするだろう。
そして、その果ては、「国家権力による完全管理社会」の誕生である。岸田政権は今年の通常国会に「マイナンバー法改正法案」を提出した。
のっけから申し上げるが、この事実を知っている方は皆無に等しい。
法案に書かれている提案理由は「国民の利便性の向上及び行政運営の効率化を図るため、個人番号等の利用の促進を図る行政事務の範囲を拡大」を目指すことと記してある。
しかし、それを具体的に説明した「法案の概要」によると、その理由は「今般の新型コロナウィルス感染症対策の経験により、社会における抜本的なデジタル化の必要性が顕在化。デジタル社会の基盤であるマイナンバー、マイナンバーカードについて国民の利便性向上等の観点から、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)等の一部改正を行う」ことだとある。
一般の方々だと、まずこの様な行政用語・文体は飛ばしてしまうもの。だが、ここがキーポイントとなっているのである。
要するにマイナカードの利用範囲を拡大し、「国民の利便性の向上及び行政運営の効率化」を図ろうとするものであり、以下のような狙いがある。
1. マイナンバーの利用範囲の拡大
従来、「社会保障制度、税制及び災害対に関する分野」に、限定されていたものを「社会保障制度、税制、災害対策その他の行政分野」に広げる。
具体的には理・美容師、小型船舶操縦士及び建築士等の国家資格の手続きや、自動車に関わる登録、外国人の在留資格に係る許可等の行政手続きなどに、マイナンバーが使えるようにする。
たとえば、美容師や建築士が資格を更新するときは、これまでは自治体などで住民票の写しなどが必要であったが、マイナカードを利用した「書類のいらないオンライン申請」が可能になる。
しかし、問題は利用範囲の拡大が次々と図られる点だ。
基本理念を定めてある三条二項に「その他の行政事務」を加えることで、具体的な利用範囲を定める九条を受けた別表に新たな行政事務を加えれば足りることになる。
「概要」では「具体的な利用範囲の追加は従来通り法律改正で追加」と明記しているのに、別表改正で済ませようとするもので姑息な手段そのものである(行政財キャリアは常套的に使う)。
法改正となると国会審議が必要となるゆえ、こうした手法で逃げるのだ。
2. 準法定事務処理規定の導入により、行政機関の判断で利用範囲が拡大
つまり、すでに法律でマイナンバーの利用が認められている事務に準ずる事務(準法定ジム)を新設し、それについてもマイナンバーの利用を可能にしようとしている。
だが、「準ずるものとは何か」についての規定はない。「事務の性質が同一であるものに限る」と定義されているが言葉のあそびにすぎない。
恣意的判断でなんでもかんでも「準法定事務」とされるだろう。キャリア官僚による難解な行政用語での解釈に対抗できる国会議員なんぞいない。
その利点として「主務省令に規定することで情報連携を可能とする」と定められている。
個人情報の連携が可能になり、情報のマップ化(個人のプライバシーが集約され、データ化されること)の推進につながる狙いがある。
個人は国家の前で裸にされ、その人の特徴、属性が一目でわかるようになるだろう。
3. マイナカードと健康保険証を一体化し、保険証を廃止(24年秋)予定
カードを取得しない人には資格確認証を発行する例外を認めるとしている。
健康保険証ではその内容の相互連携は不可能だが、マイナカードになれば主務官庁である厚労省では、病歴や投与された薬剤等の情報を閲覧し、他の情報と組み合わせることが可能となる。
また、マイナカードへの対応(切り替え)は多額の設備費用を必要とし、街の医院がそれに耐えられるのか(3月19日現在の診療所によるオンライン資格確認の運用は46.7%)も懸念される。
4. 「公金口座」という仕組みを導入
年金などを受け取る金融機関の口座とマイナンバーを紐付ける「公金口座」という仕組みを導入する。
既存の給付受給者等(年金受給者を想定)に対して、仮にマイナカード化手続き時に同意がなくても、年金機構の情報をもとに同意したと見なす。
確かに給付金支給時には事務手続きが楽になるが、それだけが狙いとは思えない。
公金口座となると個人のメイン取引銀行と重なるゆえ、金銭の出入れが多く、個人の資産・収入・生活環境を把握しやすい。
脱税をチェックする資料としても使える。
中国並みのかんじがらめへ
ところで、日本ではすでに基礎年金番号、健康保険被保険者番号、パスポート番号、納税者の整理番号、運転免許証番号、住民票コード番号、雇用保険被保険者番号などで個人番号の利用が進められている。
これらを統合するために作られたのがマイナンバー制度だが、実態としてはうまく機能していない。そこで政府は国民皆保険のように、国民のすべてにマイナカードを持たせ、情報を統一して管理したいのが本音である。
個人情報の中には、個人の所得や社会保障の受給歴党の秘匿性の高い情報が多数含まれている。
こうした情報を一元化することで政府が行政事務の合理化や徴税の徹底化、犯罪捜査の迅速化、社会保障、福祉費用の緊縮化などに利用しようというわけである。
中国の時系列
中国では、1995年に「居民身分証条例」、翌96年に「居民身分証条例実施細則」が定められ、国内に居住する満16歳以上の中国公民を対象として「居民身分証」が配布されるようになった。
記載項目としては氏名・性別・民族・生年月日、住所ならびに15ケタの「居民身分証番号」があり、発効日・有効期限・番号・顔写真とともに担当部局である公安機関(本人の居住地の戸口登記機関)の印章を捺したうえで、一人に一枚交付された。
99年10月に改正された「実施細則」では「居民身分証」の番号は、公民身分番号を使用することとし、「戸口登記機関は公民の出生登記を行なうとき、公民に公民身分番号を編成する」と定められ、「居民身分証番号」から「公民身分番号」へと変更された。
2003年には居民身分証条例が改正され、「居民身分証法」が成立した。さらに、2011年の居民身分証法の改正により、指紋情報も登録されるようになった。
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(この記事は2023年4月9日に書かれたものです)
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